短編小説 ほめる
私の知り合いには、アイガモという旅人がいる。
彼は、この島を旅しながら、歴史を研究しているようである。
「いいですかな、この岬は観光スポットとなるでしょう! 」
アイガモが元気よく、私と大熊に説明していた。
「海賊岬の海賊さんと交渉しているけども・・・・・・ 」
大熊が、困った顔をしていると、海賊岬に住んでいる船長が来た。
「あい!元気かい! 」
「ああ、どうも船長さん」
大熊は、船長の活気に負けないあいさつを返した。
「この岬は、観光スポットになるかね? 」
船長は、アイガモと目線が合うように、しゃがんだ。
「先ほど、くまさんと話して観光スポットとして指定してもよいとなりました」
「そうかい、ならば海賊遊園地とかつくっていいのかい! 」
船長は興奮しながら、誰かにきいた。
その問いに大熊はきっぱりと答えた。
「そうですね。申請書を書いたら全てオーケーです」
「そうか。早速、役場へいこうべ! 」
船長は、一人意気込んで、役場へ向かったのであった。
「海賊さんも喜んでくれてよかったですね」
私は安心したような言葉を大熊にかけた。
しかし、大熊は浮かない顔をしていた。
「ああ・・・・・・ 」
「どうしたのですか? 」
「いや、海賊と仲良くしているのが今になって不思議に思ってな」
「大熊さんの言っていることは、分かりますよ。海賊と言えば荒いイメージがありますからね」
「私が、懸念しているのは、観光客が減ってしまうことだ・・・・・・ 」
その懸念を打ち消す答えを私ではなく、アイガモが言った。
「とってもシンプルに捉えるならば、社会では認めてられていないということですな」
海賊ときけば、映画や本などでかっこいいイメージをもたれるかもしれない。
しかし、現実問題として関わることは、社会から非難されることを意味していた。
「そうなんだよ。当然、批判は避けることは難しいだろう」
大熊はアイガモに言った。
「また、困難か・・・・・・ 」
私は困った声を出した。
そんな、私を見てアイガモが再び、意見を述べた。
「この問題を解決する方法としては、彼らの職を海賊ではなく、船乗りにさせたらどうですか? 」
さて、彼らがそんなことで納得するのでしょうか?
船長は、役場に行っているので、私たちは待っている間に整備士に意見をきいた。
「君たちの言いたいことはよく分かるが、我々は海賊という職に誇りを持っているのだ」
海賊船の整備士のスバルが腕組みをしながら言った。
「前からきこうと思っていたのですが、海賊さんの仕事とは何ですか?」
私は、普段から疑問に思っていたことをきいた。
「君らと変わらず、自給自足の生活だ。たまに、他の海賊と交流で、大砲大戦をやるけども」
「きっと、最後に言った交流が、他方に誤解を与えてしまうのかもしれませんね」
大熊は、困ったように言った。
そこに、アイガモが、口をはさんだ。
「見もしないことを『ああでもない、こうでもない』と言うのが問題があるのです! 」
「フムフム」
「『百聞は一見にしかず』とよく言いますから、どんなものか公開したらどうですか? 」
アイガモの意見は、誤解を解く一番の近道であることは見える。
しかし、現実問題として難しいものであった。
そこへ船長が、鼻歌を歌いながら戻ってきた。
そして今までの話をすると顔色が大きく変わった。
「私らに死ねと言っているのか? 」
「いいえ、そうではありません」
「なら、なんだよ! 」
船長は怒り狂っていた。
こんな時は、人をなだめるのがうまい私の出番である。
「船長さん、私はみなさんから海賊さんたちのことを理解してほしくて言っているのです」
「お前らは海賊でないから何も知らんだろう? 」
「はい、確かに知りません。しかし、私たちは日々の付き合いで、お互いのことを理解しているのではないですか? 」
「・・・・・・ 」
私の言葉に船長は黙った。
何かを考えているようである。
「ならば、その日々の付き合いでどんな良い面があるか言ってみろ」
「そうですね・・・・・・ 」
私は回答に困ったので、大熊に目で合図をして助言を求めた。
「そうですね、まずは働き者であるということであり・・・・・・ 」
大熊は小一時間ほど、船長さんに海賊の良い面を言った。
そして、船長さんは元気に力強く言った。
「分かっているではないか。それなら、船乗りの件を考えてもよいだろう! 」
私と大熊が、共に仕事をしている理由は、互いの特性を活かして交渉を成立しやすいようにするためである。
私は主に相手をなだめたり、謝る役割である。
そして、大熊が相手を説得する役割である。
「それでは、次の話し合いは来週となります」
「おお、楽しみに待っていろ! 」
私たちは、海賊岬を離れて、役場へ向かった。
「さすがですね、大熊さん」
アイガモが言った。
「相手の心をつかむ秘訣は、相手を褒めることだ」
大熊はドヤ顔をして言った。
「私はどうでしたか? 」
「そうだね。相手によって言い方を変えてみるといいかな」
アイガモは私を見て言った。
どうやら私も修行が必要なようである。
終わり