プロローグ 「天使の気まぐれ」
作者はまだまだ初心者なので、暖かい目で読んで下さると幸いであります。
ではどうぞ
夕暮れ時。
空高く上がっていた太陽も今日の仕事は終わりと身を沈め、橙色の光を空に放っていた。
天塚学園、通称天校では、部活動も終わり通う生徒たちは皆思い思いに学びの地から出て行った。
今から遊びに行く者もいれば、はたまた真っ直ぐ家へと帰る者。そういった者達の中で、たった今学校の玄関から出た水守 悠も例外ではなかった。
茶色がかった短い髪に、美しい相貌。その表情は儚く、夕日に照らされ映る姿は思い悩む天使のようだった。
まぁ実際のところは、今日の夕食は何にしようかなどと庶民的な事を考えているわけなのだが、そんな事などつゆ知らず、周りの者は相変わらず、“いつも通り”悠に魅入っていた。
「あぁ、今日も可愛いなー」
「なんて美しい」
そんな中、天使に挑む者が一人。挑む、といのは恋の挑戦にである。
「み、水守さん!」
突然名を呼ばれ、悠は一旦歩みと夕食に関する思考を停止する。後ろを振り向き、声の出所を見つけると、そこには同じ制服を身に付けた男がいた。
その男の、夕日の光とは別に染まった顔を確認した悠は、その綺麗な顔を歪ませた。だがそれを男は気づかない。
「あ、あの」
「……なに?」
口では「なに?」なんて言うが、内心は……
──また、かなぁ
なんて思っていた。
こう思うのは、悠がこの後何を言われるのか大体想像がついているから。先生からの呼び出しでもなければ、何か大事な忘れ物をしたわけでもない。きっと、いつものアレであろうと。
数秒先の展開が見えて、内心ため息がでた。
「ず、ずっと前から好きでした! 俺と付き合って下さい!!」
──ほらきたよ
と、心の中呟く。
照らされた校舎をバックに愛の告白。それは多分ロマンチックなのだろう。多分。
目に映る男のテンパり具合を見ると、これはきっと男にとっての精一杯の勇気を振り絞っての告白だろう。
だがそんなこと、悠にとっては関係ない。ただただ迷惑でしかなかった。
だからまた、いつも通りアノ言葉を──変わらぬ自分の真実を男に伝えるのだ。
「ねぇ……」
「は、はい!」
今まで見ていなかった男の目をしっかりと見て。
さて、この男をどういう反応を見せるのだろうかと先を予想しながら、伝えるべき言葉を簡単に繋ぐ。
「僕、男なんだけど」
瞬間、まるで男は雷が落ちたかのようだった。中性的な声で放たれた短い衝撃に、男はすっかり動かなくなってしまった。
「?……おーい」
「……、……」
水守悠は男である。
学校一可愛いなんて謳われるているが、胸の膨らみもなければ、女性特有の骨格、柔らかさも匂いもない。更には戸籍上、男性と記されているため、正真正銘の男なのである。
そしてもちろん、そんな悠の恋愛はノーマル。男相手じゃ、悠を振り向かす事はできないのだ。
「まぁ、いいか……じゃあね」
固まった男を無視し、踵を返して元のルートにつく。
相手に少しの希望も与えないよう断るのが、一番の断り方だと悠は自負している。まぁ今回は真実を伝えただけだが……あの男には十分だったようだ。
いつの間にか出来ていた野次馬達を裂きながら悠は前へと進む。
後ろからは、「これで何人目だ?」なんて聞こえるが、それは悠にも分からない事。
悠は告白された人数も、告白してきた男の顔も名前も覚えない。分からなくなる程とか、そんなんじゃなくて……もっと単純に。悠が覚えようとしない人間だから。たったそれだけの事である。
────
────
「……ただいま」
家に着き、誰に言うわけでもない帰りの挨拶を声に出す。返事は返ってこない。聞こえるのは外に居る虫、そしてカラスの鳴き声のみ。一人暮らしなのだから当然だ。
「はぁ……疲れた」
そう独り言を溢しながら、悠は自分の部屋へと向かう。部屋に着くと、上の学ランだけを脱ぎ捨てベッドに倒れ込んだ。自分では豪快に倒れたつもりだが、ベッドからは情けなくポフッと音がするだけだった。つくづく女々しい体だと思う。
「ん……?」
天井を見上げ思いふけっていると、携帯から着信を知らせるバイブ音が鳴っている事に気づく。
誰からの着信なのかを確認した悠は、少し頬を緩ませた。
「もしもし」
『あ、もしもしお兄ちゃん?』
液晶越しに聞こえる可愛らしい声。一人暮らしになってからはなかなか聞く機会がなくっていたが、その声は紛れもない妹の声であった。
『新学期どうだった?』
「んー、普通だったよ」
『普通……普通ねぇ~』
高校二年に上がり、その早々二回告白された事は黙っておいた。なんとなくだが、言いづらいのだ。
『どうせお兄ちゃんの事だから、また告白でもされたんでしょ?』
「……」
言いづらいとか関係なしに、秘密は無駄という事か……どうやら妹にはお見通しらしい。
『女の人?』
「違う」
早速の質問は即答に終わる。
『……やっぱ、そうだよね』
高校に入ってから一年。男からの告白はあれど、女からの告白はいまだ一件しかない。
その一件の告白は、相手が悠の事を女と
勘違いしていたため起こった告白。まぁ要するには相手がそういう趣味の持ち主であったため、悠はその告白を断った。
ちなみに今では、その女生徒とは良き友達になっている。
『お兄ちゃんの良さに気づく女の人は居ないのかなー』
「別に彼女が欲しいわけじゃない」
『そんな事言って~……あ、私はお兄ちゃんの事大好きだからね?』
「……それは嬉しくない」
『えー!?』
電話越しからわざとらしく驚愕した声が聞こえる。妹はきっと励ましてくれてるんだと思う。実際、ちょっと元気が出たし……気も軽くなった。
『あ、今から買い物行くからそろそろ切るね』
「ん」
『……ねぇ、お兄ちゃん』
「ん、なに?」
「……やっぱなんでもなーい。それじゃねー」
「ちょ──あぁ切れた」
一体何を言おとしていたのか気になるが、再び通話してもおそらく繋がらないだろう。
「はぁ……」
一つため息を落とす。
後味の悪いもやもやした気持ちを払うため、悠は夕食を作る事にした。
これは小さな事。きっとそのうち忘れるだろうと。
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────
「むふふ……」
暗い部屋の中、女の気色の悪い笑いがもれる。
暗闇の中の唯一の光はテレビのような物。その画面には、どういう原理か、料理に勤しむ悠の姿が映し出されていた。
「はぁ~、可愛い~」
女はうっとりとした表情で、画面に映る悠を指でなぞった。感触は無機物だが、それでも女の気持ちは高揚した。
「はぁーあ……でも、勿体ないなー」
ずっと、悠の事を上から見てた女は、拗ねたように口先を尖らした。
「でももう少し……あとちょっと」
歓喜に震える声。
「ふふふ……待っててね、悠ちゃん♪」
瞬間。
暗い部屋から光が沸き上がる。光は部屋を覆い、やがて室内を真っ白に染め上げた。
そして光が晴れる頃、そこにはもう、女の姿は見当たらなかった。
これは作者が、ふと閃いた作品である。
なので、話の構成が急展開になったり、更新が遅くなったりするかもしれないです。
そこんとこはごめんなさい。