散策—3日目
お久しぶりです。
ようやく試験が終わり、執筆を再開できます。
◆旅支度と誘拐◆
「おはようございます、主」
私は青藍の声に起こされて、侯爵亭で迎える最後の朝を迎えた。
「おはようございます」
「乃蒼さん、「「おはよう」」」
私の挨拶にみんなが挨拶を返してくれる。……今日が最後の日か。
「今日で旅立たれるんですのね、少し寂しいわ」
「そうだね。乃蒼さんが来てから家は賑やかだったからね」
「本当にお世話になりました。」
そう言って、侯爵亭をあとにする。………最後の日っていうより、最後の朝だったような。
侯爵亭を出た私は、仕立て屋に仕立ててもらった服を受け取りに行く。前世でよく衣装のデザインを描いたりしていた私は、比較的動きやすく、利便性に拘り、尚且つ「巫女」という清楚さを併せ持つようなデザインを仕立て屋の主人に相談した。自分のデザインを服として仕立ててもらうのがこんなにもドキドキするものとは思わなかった。………因みに今日着ている服も自分でデザインして自分で作ったものだ。店主さんが余った布をくれたのだ。今着ているのは町の外にいるときの服装で、軍服ワンピース。仕立て屋さんに頼んだのは、ドレスと、ドレスタイプの服である。ドレスは、仕立てて欲しかっただけ……趣味で、ドレスタイプの服というのは、コートがドレス並みの長さとゆとりがあり、中に短パンかミニスカートを穿くスタイルだ。……着てみたかったんです。他にも夜なべして、暗殺者っぽい服とか暗器の装着に便利なホルダーなどを作った。………友達に誘われてコスプレを始めたら、ビックリするくらいはまっちゃったのです。
過去に思いをはせていると、あっという間に仕立て屋の前に到着しちゃいました。
「いらっしゃい。ん?あぁ、乃蒼ちゃん!待ってたわぁ。ご注文のドレスと服はできてるわよぉ」
ここに来るまで服のことしか考えてなかった・・・否、服のことしか考えないようにしていたのだ。何故って?だって、ここの店主さんは、腕も良いと評判でとっても美人ですけれど、ニューハーフなんです。個人の趣味とか性癖とかは別にあってもいいと思うの。でも、男の人に女が美で負けたら悔しいでしょう!
……まぁ、私は姿変えられるけど。
「どうしたのぉ?」
考え事?をしていて返事をしなかったので店主は疑問に思ったようだ。私は、失礼な考えを追い出すように軽く頭を軽く振ってから返事をした。
「何でもないです」
「そぉ?……じゃぁ、仕立てた服を持ってくるわね!」
そう言って、店主は奥からマネキンを持ってきた。マネキンには私がデザインしたドレスと服が着せられていた。予想以上の出来栄えに驚きを隠せず、「凄い」と、呟いたのが聞こえたのだろう。
「でしょ!それにしてもこんなデザインの服を仕立てたのは始めてよぉ。素敵な服ねぇ。こんな感じの服をアレンジを加えて売り出してもいいかしら?」
と、言ってきた。
「えぇ、もちろん。その辺はお任せします。」
と快諾しておいた。……私のデザインだって誰かのデザインをアレンジしたものだしね。
店主は私の返事に、報酬を支払うわ、というとお金を出そうとしたので、お金の代わりに生地を分けてほしいと頼むと、いろいろの分けてくれた。
店主からもらった生地を収納空間に収納し、仕立て屋を後にする。
次に向かうのは鍛冶職人の工房である。
「っお、嬢ちゃん!ホレ、頼まれてた物はできてるぜ!」
そう言って工房のおじさんが重い包みをほどいた。中身は投げナイフ(25本)と暗器(3種)と短剣(2本)である。相当な数をお願いしたが、全部そろっている。
「凄い、全部そろっているだけでなく、品質も最高です!!」
「おう、当り前だ!」
「はい、素晴らしい出来だと思います。ありがとうございました」
私は礼を言ってから、武器をしまっていく。投げナイフは袖口に2本とそれ以外をコートの内側に、短剣は左右どちらからもとれるように腰に装着する。暗器は、隠しナイフの指輪をはめ、毒を仕込める丈夫な針を太股のホルダーに、ブーツに仕込む刃物を装着した。
「しかし、暗器を作ってくれと言ってきたときは驚いたぞ」
「あはは、すみません」
暗器は、暗殺に使うために買ったのではない。まぁ、使う機会がないことを祈ろう。
工房を後にした私は、買い忘れがないかを確認してから食料を買いに行く。
……その前に、冒険者ギルドに青藍を迎えに行かないと。
青藍は人型でも目立ので、ジェラルドの居る冒険者ギルドで待っていて欲しいと頼んだのだ。
冒険者ギルドについた私は、青藍を探す。
――いた!………女冒険者に囲まれていた。
声を掛けづらくてうじうじしていると、青藍と目が合った。
「主!」
「青藍、お待たせ」
青藍の声に返事をする。周りの、女性たちの目が怖い。
青藍と取り囲む女性の群れが目立ちすぎて気が付かなかったが、そこにはジェラルドもいた。
「よぉ、乃蒼。準備終わったのか?」
「あとは冒録登録をして、食料を買い込んで終わりです。」
「もう少し待っててね、青藍」
「応」
私は再び彼らから離れた。
冒険者登録をしようと受け付けへと行くと、この間の怖い女性の代わりに物腰の柔らかそうな女性が対応してくれた。入市税が免除されることや滞在先の街で問題を起こせば冒険者資格の凍結及び罰金、もし払えなければ奴隷落ちするということ。依頼が達成できなかった場合、罰金が生じること。これも払えなければ奴隷に落ちるなどの注意を聞き、冒険者カードを発行してもらう。
「では、カードに一滴、血を垂らしてください」
女性に言われるままに血を垂らす。
「冒険者カードはなくすと再発行に銀貨2枚かかってしまうのでなくさないように気を付けてください」
受付嬢の手際の良さに感謝しながらジェラルドと青藍の許に戻る。
「お待たせ」
と声を掛け、私は二人とともに冒険者ギルドをあとにした。
市場で食料を買い込み、領地を去ろうとも門へ向かう最中に問題はおこった。
馬車が走ってきたので端に避けたのだが、馬車が目の前で止まってしまった。そして中から出てきた男たちに私は馬車の中へと押し込められた。
青藍とジェラルドが私を呼ぶ声を最後に私は気を失った。
≪侯爵領では≫
「主!!」「乃蒼!!」
青藍とジェラルドは侯爵領内、しかも自分たちの目の前で乃蒼が攫われたことに動揺していたが、すぐに
「主を助けに行く!!」
という青藍の言葉を聞いて、ジェラルドは彼が龍化することを察し、止めた。
「まて、青藍!」
「ジェラルド!なぜ止める!!」
動揺と怒りを隠しきれない青藍を説得するために彼は、
「青藍、乃蒼の居場所はすぐにわかると思うが、侯爵に相談しに行こう。必ず役に立ってくれるはずだ。」
力強い声に圧倒されて青藍は「うむ」と言うと、ジェラルドと主に侯爵亭へと向かった。
乃蒼は誘拐されてしまいました。
青藍に怒りを沈めさせたジェラルドは何を根拠に侯爵が役に立つと言っているのでしょうね?
頑張って書いていきますのでこれからもよろしくお願いします。