散策—1日目
更新しました。途中で書くのをやめることがないように頑張ります!
◆散策◆
「まいど、銭貨5枚だよ」
「ありがとうございます」
侯爵亭に滞在させてもらう3日の間に、旅の準備をしようと考えた私は、ジェラルドを引き連れて侯爵領を散策していた。
景観は中世のヨーロッパをおもわせる民家が建ち、広場では市が開かれていた。
「で、何がいるんだ」
「えーと、服とか食器とか……まぁ、適当に見て決めますよ」
「計画性のない奴だなぁ」
「仕方ないじゃないですか、何があるかなんて知らないんですから」
「だから、俺が教えてやるって言ったじゃねぇか」
「それでは、見て回る楽しみがなくなってしまいます」
せっかくの異世界、どんな物が売られているかを見て回るくらい良いではないですか。それに、生きることに一生懸命な人々の生活の営みを見たいですしね。
日本での生活は酷かった。ただ淡々と同じ事を繰り返す日々、文明の利器に依存し苦労を知らない若者、作られた平和に満足する日本人、こんな者しかいない国は酷く息苦しかった。
誰かが言っていた、『平和とは次の戦争までの準備期間だ』と。いくら平和と雖も、どこかで誰かは死んでいる。それに平和なのは、見た目だけだ。
「ぁ……のあ……乃蒼!!」
「っ……ごめん、何?」
考え事が前世のことにまで及んでいたため、ジェラルドの声にすぐには反応できなかった。
「何って、お前なぁ……はぁ、まぁいい。そこの店、仕立て屋だぞ」
ため息交じりにそう言ったジェラルドは品のよさそうな仕立て屋を指さした。
ジェラルドに勧められるままに仕立てを頼んだ私は、店主の「2日後に取りに来い」という言葉を聞いて、何とか間に合ったと思っていた。……ただ、さすがはオーダーメイドだ、値段が凄いことになった。なんと金貨15枚だった。
因みに、この世界の貨幣はこんな感じである。
白金貨 1……………… 一枚;10.000.000円
大金貨 100…………… 一枚;100.000円
金貨 1000…………… 一枚;10.000円
銀貨 10.000……… 一枚;1.000円
銅貨 100.000……… 一枚;100円
銭貨 1.000.00…… 一枚;10円
つまり、金貨15枚って15万円なのである。………高いなぁ。
服の仕立てを頼んだ私は、木でできたお皿やスプーン、屋外での生活で使えそうなものを購入した。
「お前、野営できるのか?」
「よくぞ聞いてくれました。こう見えてもサバイバル経験豊富なんですよ」
「マジか。………だが魔獣とかどうすんだ?」
「っぁ!」
――あぁ、ジェラルドさん、そんな呆れたような目で見ないでください。
そういえばステータスに、召喚魔法があったような。……よっし、明日は召喚魔法で従魔を召喚してみよう、そうしよう!
侯爵亭に帰る途中、召喚魔法について考えていた。
「今度は何を考えてるんだ?」
突然話しかけられたことに驚いたが、どうして考え事をしていると分かったのだろう?
「お前、考えるとき片目閉じて黙り込むだろう」
「よく見てますね、自分では無意識だったのに」
「あぁ、まぁな」
誤魔化されたような気はするが、この二日間で随分と観察されていたようだ。しかし、分かりやすい癖だな。誰にも言われたことなかったから気が付かなかったよ。
「で、何を考えてたんだ?」
「召喚魔法についてです」
再び訊いてくる来るジェラルドに答えると、ジェラルドは「召喚魔法かぁ」と言って黙り込んだ。
しばらくして、
「冒険者ギルドに召喚魔法使うやつがいるから、明日行ってみるか?」
と訊いてきた。
「是非っ!!」
「じゃあ、明日は冒険者ギルドだな」
「お願いします」
侯爵亭に戻ると、侯爵夫人とご子息とジェラルドと共に夕食を頂いた。
「乃蒼さんは、2日後には行ってしまわれるのですよね」
ご婦人、サテラ様が私の緊張をほぐすようにやさしく話しかけてくれた。
「えぇ、女神様との約束がありますから」
「どのような使命ですの?」
「それは僕も気になるねぇ」
「ぁ、俺も」
というサテラ様、ローレン様、そしてジェラルドまでもが興味を示した。
この時思い出した、………そういえば誰にも言ってなかったなぁ、と。
「えっとですね、妖精、精霊、そして幻獣の支えとなることです。」
「「「っえ?」」」
三人の声が重なった。そして次の瞬間、
「乃蒼さん、意味わかっているの?」
サテラ様が心配してくれたが、意味が分からないので、
「どういうことですか?」
と尋ねてみると、ため息を吐いたジェラルドは、
「いいか、妖精ってのは、魔法を使うときに手伝ってくれるんだが、気まぐれで、自由奔放だ。滅多にはいないが、気に入った奴の感情に左右されやすい。悪いと思っていないところがさらに質が悪い。で、精霊ってのは人に寄り添ってくれているんだが、こいつも結構問題を起こしやすい。そして、幻獣ってのは凡そ人ではどうにもすることはできない。魔力が高く、力が強い。動物の姿をしているが欲望に忠実だ。考え方は獣寄り。そして、人に害をなすものが少なからずいる。生きる災害とまで呼ばれることもある」
と説明をしてくれた。
――視点の違いか、女神様よ。
ぽかんとしている私をみて、
「知らなかったのか」
とジェラルドが言ったので慌てて否定する。
「知っていましたが、視点が違うと伝わり方が違うなぁと。」
「そうか」
少し暗い雰囲気になったところで、侯爵家のご子息が口を開いた。
「乃蒼は勇者様なの?」
「いいえ、でもどうしてですか?
「だって、幻獣って勇者様にも倒せないんだよ?」
マジか。子供の無邪気な発言で事の重大さに気が付いた私は、みんな(大人組)の顔を見た。目が合った瞬間に顔を背けられた。私は肺に溜まった空気を出すように息を吐くと、
「まぁでも、女神様のことですから、きっと考えがおありでしょうし、必要となる能力は与えられていると思いますので。」
と、自分に言い聞かせるようにそう言った。
そんな話をしていたからか、いつの間にか食事は終っていた。
………あんまり味わえなかった、と後悔したことはみんなには内緒である。
体調がすぐれないので、更新が遅れるかもしれませんがよろしくお願いします。




