歓迎
◆歓迎と信頼◆
パーティーはその日の夜だった。
「巫女様、ドレスはどちらになさいますか?」
「巫女様、湯あみの準備が整いました」
「「巫女様」」
メイドさん達が私のことを巫女様と呼ぶ。少し重たかったので、
「あの、乃蒼って呼んでください。『巫女様』だと恥ずかしくて……」
「「「ですが」」」
「……ダメ、ですか?」
必殺、涙目で嘆願を繰り出した私は、メイドさん達に『乃蒼様』と呼ばれるようになった。
メイドさん達に『乃蒼様』と呼ばれるようになったところで、パーティーはなくならないので、湯あみをして部屋に戻ってきた。そして、コルセットと言う拷問器具の存在を思い出した。
思い切って私は、
「あの!………このドレスではダメでしょうか?」
と言って、収納空間から淡い水色のドレスを取り出した。メイドさん達にどうか聞こうと顔をあげると、………目をキラキラと輝かせたメイドさん達がいた。
「はい、乃蒼様。素敵です。これならコルセットは不要ですね」
と、まともなコメントをしてくれる子がいた。………ありがとう!
そして、メイドさん達はあっという間に私にドレスを着せ、メイクを施してしまった。
と、準備の段階で相当な疲労が溜まってしまったのだが、そんなことは関係ないとでもいうように普通にパーティーが始まってしまった。
私をエスコートしてくれているのは、当然青藍である。タキシードも似合います。
「乃蒼さん、楽しめてますか?」
そう声を掛けて下さったのは侯爵様でした。後ろには、ジェラルドともう一人男の人がいた。
「あの、侯爵様」
「ローレンでいいよ。あと、様もいらない」
えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
………にしても話を遮ってまで呼び方変えさせますかね?
脳内でパニックを起こしていた私だが、ここでもポーカーフェイスは成功した。
「…では、ローレンさん、後ろの方はどなたでしょうか?」
私が問いかけると、ローレンさんは紹介してくれた……否、紹介しようとしてくれた。
「彼は、ア「よい!」」
彼の言葉を遮った青年は、
「初めまして、『渡りの巫女』殿。私は、アルメリア王国第二王子のルーカス・ヴァン・アルメリアだ」
は?王子?王子なんですか、この方!?
パニックしている私を面白そうに見ているローレンさん。後ろには、吹き出しそうなのを必死に堪えているジェラルド。ポーカーフェイスは崩れた………。
「失礼いたしました。……お初にお目にかかります、ルーカス様。乃蒼、と申します」
なんとか落ち着いた私は王子に挨拶を返した。………なのに、
「そうかしこまる必要はない。敬語も必要ないぞ」
と王子に言われてしまった。必死に心を落ち着かせたのに。
私の心の声は当然聞こえていないので、王子は言葉を続けた。
「ところで、巫女殿は精霊使いなのか?」
「精霊使いですか?違うと思いますが、どうしてですか?」
私の返答に王子は、少しがっかりしたように声のトーンを落として、「違うのか」と、小さくつぶやいた。
「精霊使いっていうのは、精霊と契約して力を借りることのできる者のことだ。巫女殿は精霊にとても好かれているようだから、てっきりそうなのかと思ったのだが」
「精霊に、ですか?」
確かに、称号の通りなら好かれていても不思議ではない。
そう思った私は、女神に教わった通り目に魔力を込めてみる。女神曰く、一度使えば意識しなくても使えたり、常時開眼していることもあるそうだ。
最初は眩しかった。精霊は、………それはもう、いっぱい居た。私の想像での精霊は自然と共に在るものだったが、実際は人の身近にいたのだ。精霊は小さい人型の人形のような姿だった。
光の溢れるその世界はとても綺麗だった。思わず見とれていると、精霊たちの声が聞こえてきた。
「乃蒼だ~」、「乃蒼~」
小さい子たちが私の名前を呼んでいる。………メッチャ可愛い!!
その後王子の許へと再び行き、本当に精霊に好かれていたことを話した。王子とのお話は思っていたよりも、長い時間がかかった。お互いに熱弁し、身分とか立場とかは関係なく精霊について教えてもらった。
………余分な話が多くて、いらない知識が増えたことは秘密にしておこう。
気が付いたら、パーティーは終わりを迎えていた。
招待客が帰ってすぐに、王様の許へ呼ばれた。
「乃蒼殿、本日のパーティーはいかがでしたか?」
「とても楽しかったです。ご子息とも、お話をさせていただきました」
「そうですか。実は歓迎パーティーではなく、ただの社交パーティーだったのですが、楽しんでいただけたなら良かった。」
王様は、私にそう打ち明けた。
………別に言われなくても気づいていたし、どっちでも私には差がわからないから態々言わなくても良かったのに、…まじめな人だなぁ。
こうして、私の人生初のパーティーは終った。
ようやく、人間以外が出てきました。
これからどうやって関わらせていこうかと、迷っていましたがうまく入れられたのではないかと思います。
もう少しだけ、お城でのお話が続きます。