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短編集 ミネマドカ  作者: Madoka Mine
8/16

江戸時代

旦那さまの赴任で行った異国で知り合ったのは、庭いじりと日本語が好きな高齢の外交官。 見てくれはどこからどう見ても西欧の人そのものなのに、名前はストウ氏と仰る。


「Shall we dance? Mrs...」


始まりはある夜会(パーティー)だった。


新婚生活を送った国を離れ、故郷日本に程近いこの国にやって来た私たちが初めて出席した席で、彼は私に声を掛けてきた。 行っておいで、と微笑む寛大なお心をお持ちの旦那さまに甘えて、私はありがたくそのお誘いを受けた。


「My name is Miyo. Yes, I'd love to.」


ロマンスグレーな欧米の外交官。 相当出世もなさっているのではと思い伺ったところ、やはりうちの旦那さまよりうんと地位のある方だと分かった。 私はおそれ多く感じながらも、異人さんと話したくて見かける度に言葉を交わす仲になった。



夜会でみよ子さん、と声を掛けてくる異人さんはサー・エドガー・ストウの他に見当たらない。 他の人にとって私は一介の日本人外交官の夫人で、名など知らなくても良いのだから。


「サー・エドガー、日本にはいつ頃いらしたのですか?」


彼はかつて日本に駐在したこともあるというが、その頃私はまだ一端の海軍軍人の娘だったので接点が無かった。 日本におられるご夫人やご令嬢、二人のご令息の話は数多くお話ししてくださったけれど、初めて日本の土を踏んだ時の話は耳に伝わったことがない。


「貴女が生まれる前の、御一新よりも前ですよ」


サー・エドガーの答えは御一新前、つまりはまだ江戸に幕府があり、京に帝がおられた頃のこと。 今は明治が始まって35年は経っているから、かれこれ半世紀近く外交に携わっているのか。 人生50年など、彼の中では短いものだろう。


せいぜい明治10年過ぎを想像していた私は、自分では確認のしようもないが鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべているに違いない。


「まあ、それではまだ帝が京の御所におわした頃で?」


「ええ。 仕事で二条城や長崎なんかに行きました。 下田に港があった頃ですよ」


ストウ氏はまるで少年のように紅潮した頬を浮かべながら、御一新前の日本について語ってくれた。


THE END



Date;June 30

Theme;Edo period

ストウ氏のモデルは外交官のアーネスト・サトウ氏です。 日露戦争の頃を想定しています。

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