甘い系
室内に満ちた甘い香りを辿るといつの間にか台所に足を踏み入れていた。 オーブンから取り出されたばかりのビスケットと、その傍らでとれたての苺に砂糖を入れて煮詰める後ろ姿。 つまみ食いできる隙はない。
「蓉子、一枚ちょうだい」
「だめよ桜子姉さん、姉さん全部食べちゃうでしょう」
「あれは苗子姉さんが…」
「とにかく、ダメなものはダメです」
あれはいつの話だろう。 妹が淹れた紅茶を食卓に持って行っている間に姉と私で焼きたてのビスケットをつまみ食いしようということになった。 その手は止まることを知らず、遂に最後の1枚に手を伸ばした。 その時、盆を持った妹が戻ってきたのだ。
妹は大皿を見て呆然とし、どのくらい固まっていたのだろう。 正気に返ったと思ったら目に涙を溜め、何も言わずに立ち去った。 それ以来妹は何があってもビスケットから離れないようになった。
「ちょうど良かった。 姉さん、お茶持って行って」
「え? どこにあるの」
「お湯沸いているから、カップ出してお茶っ葉入れて…」
「お茶っ葉ってこれ?」
恥ずかしながら私はつまみ食い以外の目的を持って台所に入ったことがなく、お茶っ葉がどこにあるのか判らない。 カップはこれで良いのだろう、お茶っ葉はこれに違いないと思って淹れた。
それから10分も経たないうちに妹は食卓に姿を見せ、新鮮な苺ジャムをビスケットにつけて口に運んだ。 1枚食べて茶を飲もうとした時、急に顔色を失って私に質問してきた。
「姉さん、何淹れたの?」
「お茶だけど…それがどうかした?」
至って普通の茶を淹れたはずなのに、妹の様子がおかしい。
「蓉子どうしたの?」
次に発せられた一言に、私の姉としての面目が潰されることになろうとは想像していなかった。
「どうしてひじきを沸かしたのよ!?」
Date;April 21
Theme;sweet
三姉妹物語の前日譚です。 桜子中学2年生、蓉子小学6年生。