嵐の大逃走編
「あ、また怪人だ。ツイートしなきゃっと」
「バカ野郎! 写メなんてとってる場合じゃねぇだろ! 怪人なんてどうでもいいから早く台風から非難するんだよ!!」
「わー雨すごーい。傘が逆さまになっちゃうー」
「グハハハハ、人間どもよ、慌てふためくが良い! 我ら悪の秘密結社『チキュウヲダイジニ』が、台風の被害と共にさらなる混乱を人間社会に巻き起こしてやろう! 人類の小癪な文明など全て吹き飛ばして、広大で美しい自然の大地を作ってやるぞ!!」
……
……
……
「あ、あれ? いつものとんずら戦隊は出てこないのか? いいのか? 俺が世界を滅ぼしちゃうぞ? 早く出てこないと巨大化して建物とか叩き潰しちゃうぞ? こんな豪雨の中一人ぼっちで世界征服ってのもなかなか辛いんだが……」
「そこまでよ、とんずら戦隊逃ゲルンジャー参上!」
「お、おお桃子よ。よく来てくれた、嬉しいぞ! さあ今日こそ貴様らを血祭りにあげて、ってそういえばなんでお前一人だけなんだ? 他の4人はどうした?」
「もうその口上はいいから、そこまでにしなさい。さ、早く非難するわよ」
「あ、え? いや、俺は人間社会を滅ぼすために……」
「いいからついて来なさい! 危ないでしょ! 避難場所はすぐ近くなんだから! ほら、早くする!!」
「あ、は、ハイ! ……相変わらず怒鳴ると怖いな、桃子は」
「その名前で呼ばないでって言ったでしょ。ほら、ここが避難場所よ。タオルは一人2枚までね。はい、どうぞ」
「お、おお助かる。全身がびしょ濡れで気持ち悪かったのだ。それにしてもなんだここは、随分頑丈なシェルターだが……」
「ええ、だってこことんずら戦隊の秘密基地だもの。そりゃ頑丈よ」
「敵の俺をそんなところに連れてきていいのか!? いや、そうか、狙いがわかったぞ。ここで俺を罠に嵌めて亡き者にする気なんだな、ヒーローのくせに小賢しい策を……」
「そんなわけないでしょ。亡き者にしたいんだったらさっきの暴風雨の中で放置してるわ。それよりこれがお茶で、こっちが軽食のおにぎり。トイレはあっちの簡易トイレを使ってね。マットレスはあるから横になってもいいけど、できればお年寄りや怪我人優先にしたいから空けておいてほしいわ」
「え、あ、はい。わかりました……それにしても基地なのにお前しかいないのか? リーダーの戦線離脱レッドはどうした?」
「レッドは超合金脱出ロボ『オヨビゴシ』で逃げ遅れた人の救助活動中よ。積載可能人数は最大で500人だからね。きっと頑張ってくれるわ」
「軍用の運搬ヘリの10倍近くも乗せられるのかあのポンコツロボ!? というかそんなに乗せるスペースあるのか? そんな風には見えなかったが」
「ええ、だってあれほとんど外装だけの張りぼてで、中身すっからかんだもの。伊達に緊急脱出ロボとは名乗ってないわ」
「張りぼてって……戦う気ゼロじゃないか。良いのかそれで……まあいい、他のメンツはどうした? 現実逃避ブルーとかも救助活動してるのか? あいつは役に立たなそうだが……」
「ブルーは救助されたお年寄りとお子さん達の面倒を見てるわ。ほら、あっちの方。彼の妄想小話は聞いてて面白いわよ。ついでに言っておくと、イエローは食料の配布と管理、今ひと段落してるから個人店の八百屋さんの商品が無事か確認して来てくれてるわ。ダメそうなのは現金で買い取ってこっちの非常食の足しにするのよ」
「食い逃げイエローのくせにこういうときは金を払うとか、なんて律儀な……それにしても危なくないのか? 外は台風直下だぞ?」
「伊達にヒーローを名乗ってないわ。この程度なら余裕よ。さっき私だって外に出て避難誘導してたしね。あとブラックも避難誘導のお手伝いしてるわ。色々な家を回って独居老人とか逃げ遅れた人とかの確認をしてるはずよ」
「あの浮かれ者のピンポンダッシュブラックがなんか凄い重要な役割をしてる!? あいついつもピンポンダッシュしてるから、本来近所の迷惑者だろう!?」
「何言ってるの、普段からピンポンダッシュしてるからこそ、取り残された老人がいないかとか家の様子がおかしくないかとか全部把握してるに決まってるじゃない。個人の家レベルでの情報網だけでいえばブラックの右に出る者はいないわ。それに普段だって色んな家を見回ってるから、ここら辺の空き巣やDV被害めちゃくちゃ少ないのよ。知らないの?」
「え、ホントに? あのお調子者が? なんかイメージ狂うんだが……」
「あ、私もそろそろ行かなくちゃ。避難誘導はあとはブラックに任せるとして、私もブルーと一緒にみんなの慰安に努めようかしらね。ほら、あなたも暇ならあっちのボランティアの人と一緒に炊き出し手伝ってちょうだい。世界を滅ぼそうとするくらい元気余ってるんでしょう? だったらできるわよね」
「あ、はい、わかりました。行ってきます……あのー、すいません、炊き出し手伝ってもいいですか?」
「なんか今回とんずら戦隊見直しちゃったなぁ。あと駆け落ちピンクさんに癒されたわ」
「確かにこういうとき役に立ってくれるとありがたいわね。でもなぜか私はピンクは受け入れられないんだよなぁ……」