どうでもいい症候群
風間仁はおかしな病気の持ち主だった。
何かにつけて「どうでもいい」と言ってしまう、どうでもいい症候群。
実際、そんな名前の病気は存在しないけれど彼の場合、病的なまでに「どうでもいい」が酷かった。
例えばクリスマス。物心がつき始めた仁に両親が優しく問いかける。
「欲しいものを言ってごらん?サンタさんが届けてくれるから」
すると仁はそっぽを向いて
「どうでもいい」
そう言い放った。
それだけだとただの冷めた子供で終わるかもしれない。しかし、彼の場合、どうでもよくないものまで「どうでもいいい」と言って、また、「どうでもいい」ように対峙する。
「どうでもいい」で勉強を怠り高校は最底辺、「どうでもいい」でムカ着火産業というよくわからない企業に就職した。
もちろん、「どうでもいい」で入った企業がまともなわけもなく、週休なしで毎日残業、しかも最低賃金で残業代はない。そんな典型的ブラック企業であった。
しかしながらこの風間仁という男は持ち前のどうでもいいを発揮、体が動かなくなるまで体を酷使し、ついには病院に運ばれてしまった。
一命はとりとめたもののまだ体を動かせないでいる風間のもとに、
「君はあれかね、人生をなめているのかね?何でもかんでも『どうでもいい』なんて言って」
眉間にしわを寄せた主治医が問いただす。
しかし仁は、
「なぜですか?」
仁には質問の意図が分からなかった。彼にとって、「どうでもいい」は悪でも怠惰でもなかったからだ。
そして彼は言い放った。
「何かに固執すればそれを得られなかったとき、失ったときのショックは大きい。だったら最初からどうでもいいって言ってた方がいいでしょ」