やり直し
男は自堕落な人間だったが金はあった。
とはいってもその金は両親が築いたものであり、男は働きもせずダラダラと過ごしていた。
「ああ……二十年前に戻りたい。そうすれば、今みたいにダラダラ時間を使わずもっと有意義に色んな努力をするのに」
それが男の口癖だった。
そんなある日、男の元に手紙が届く。ある実験の被験者にならないかというものだった。その内容は、過去に戻って人生をやり直すというような怪しげなものだった。
だがそれは男の望みを完璧に叶える内容だった。
男はすぐに手紙に書かれた番号に電話をかけ、指定された日時に指定された場所に向かった。
そこは小奇麗な研究所で中に入ると白衣の男が出迎えてくれた。
白衣の男は小難しい説明を並びたてていたが男はすでに二十年前に戻ったら何をするかという考えでいっぱいだった。
男は契約書にサインをして、すぐに装置の元に送られた。
それはヘルメットの形をしており、男はそれを被らされSFチックな椅子に座らせると意識が遠くなっていった。
肉体や精神がどうなってるのかは分からないが、次に男の意識が覚醒すると、そこは確かに二十年前の家で、男は学生に戻っていた。
が、ここで男が聞き逃していたある問題が発生した。
男は過去に戻ってきたが、その記憶がすっかり抜けているのだ。
従って彼には自分が未来から戻ってきたという自覚が無い。
それでも、何かを始めることは出来たがそうはならなかった。
それからは元の線をなぞるような生活だった。
努力をすることを嫌い、何もせずにダラダラと時間を過ごし、丁度二十年たった頃に男は呟いた。
「ああ……二十年前に戻りたい」