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SHADE-I  作者: 青山 由梨
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EPISODEi-4





「ポイントに到着。目標物を捕らえました。ただ今から作戦を開始します」

画面の向こうにいるシュラウドにそう報告したが、彼は微動だにせず短く答えただけだった。


「始めろ」



「はっ!!」

操縦席の一対の捕縛士が敬礼のポーズを取ると、メダリアとの通信はブツンと切れた。


「―――全員、体を固定!急降下する!」










―――――◆―――――◆―――――◆―――――























なぜ―――お前は逃げようとしない?












     ウ・ル・サ・イ―――




ダ   マ   レ       














なぜ―――何も感じないフリをする













ダ   マ  レ―――――消えろ















私の名を呼べ―――お前を救ってやろう





ダマレダマレダマレダマレダマレダマレキエテナクナレキサマナドニダレガキエロキエロキエロキエロキエロオレノナカカラデテイケニドトスガタヲアラワスナアトカタモナクショウメツシテシマエダレガキサマニスクワレテタマルカイイカゲンキエロキエテナクナレ――――――――――キサマハダレダ
















私の名を呼べ―――知っているはずだ





















































「ねえ、ジン―――ねえってば!起きて!いい加減、起きてよ!!」


この間まで隔離されていた部屋とは別の応接室のソファに寝かされていたヘリオンは、部屋にあるテレビ画面を見ながら、横で大いびきをかいているジンをゆさゆさと揺さぶった。




「ぐおーっ、ふごーっ」


「……もう!起きろってば!!」

ようやく痺れ薬の抜けて来た体を起こし、床の上で(体がソファに乗らなかったので、床上に直に寝かせられていたようだ)仰向けに寝転がっているジンの腹に乗り上がる。


ペチペチペチペチペチッ!!!


そして何度も往復で平手打ちを浴びせるが、ジンは一向に目覚める気配を見せない。




「こうなったら―――ごめんね、ジン」


ヘリオンは辺りを見回し、部屋の隅に丁度いい高さの台を発見した―――上に飾ってある花瓶をどかせると、ジンの近くにまで引きずって来る。

そして、おもむろに台の上に飛び乗ると、勢いをつけてジンの腹に飛び降りた。



「――――ぐおっ!!!げえっ、ゲホッ!!!」


突然、呼吸が出来なくなったジンは、咳き込みながら飛び起きた。






「―――やった!起きた!ねえ、ジン見て!!」

「な、何だ今のは―――はっ、そういや、ヘル……ヘル!!」


「ここにいるよ!ねえ見て!」

「無事なんだな!!」

「ジン、アレ見て!!イチシじゃないの!?」


自分を力任せに抱き締め、話を聞いていない父の姿に、ヘリオンは声を張り上げた。




「―――イチシ?」

「何か様子が変だよ!」






―――それは、2人がいるこのTV塔内部の映像のようだった。


《ちゃんと撮ってるんだろうな!カメラ、逃すなよ!!》

《キャー!!!誰か!!》


悲鳴と逃げ惑う人々の中―――イチシがいた。イチシはそばにいる肌の麻黒い少女と会話しながら、目に見えない何かから逃げているようだった。






「リューとイチシ!?オレたちを助けに来てくれたのか!?」


そのはずだったが―――明らかに様子がおかしい。

2人が見えない何かと……例えば、映像には残らない《何か》と戦っているのが、船上で亡霊たちと遭遇したジンには瞬時に理解できた。



「くそっ―――とにかく行くぞ!」


ジンはまずは合流すべきと立ち上がろうとしたが、本来は対魔獣に使われる麻酔針を腕に受けて、数時間寝たくらいではまだ体が言う事を聞かなかった。



「しっかり!ボクに捕まって!!」

ヘリオンがその小さい体でジンを支えようとするが、どう考えても無理があった。




「くそっ、こんな時に―――」

役立たずな自分を呪いかけたその時、ふっと室内の明度が落ちた。











ウィ……ウィィィイィィィィィィン―――――――!!!










「なっ……!!」


壁一枚分がガラス張りになっている応接室―――さっきまでは、そこにはお世辞でもきれいとは言えない灰色の空が映っていたのだが。

それを塗り潰していたのは、今まで見た事もないような巨大な戦闘機だった。


防弾ガラスをも通す激しい騒音―――戦闘機は空中で体を水平に保ちながら、こちらに接近してくる。


「―――ぶつかる!!」


ヘリオンが叫んだが、戦闘機はTV塔スレスレの位置で、空中待機を続けている――― その時、下層部の扉が開くと、中から人間が姿を現した。


複数の男女―――彼らは皆、大人と子供の中間で、青い髪をしていた。




彼らは何か合図をしたかと思うと、ゆうに4メートルは離れている戦闘機の扉から、こちらに向かって次々とジャンプした。


「あっ!?」




 ビッッ……ガシャ―――――ンッッ!!!!!




集団自殺かとも思えたその行動だが、遥か下の地面に叩きつけらた者は一人もおらず、彼らは自らの体で防弾ガラスを突き破って、2人のいる応接室に侵入して来た。



「A班、向かえ!敵を仕留めろ!!」

その言葉に何名かが応接室から飛び出し、残りがこの部屋に残る。


「ホーリー、確認しろ」






「……ヘル、オレの後ろにいろ!いいな!!」

青い髪の少年少女―――その正体を知っていたジンは娘を背後に隠し、彼らの目的を推し量ろうとする。


(リューの奴を捕まえに来たのか?……オレたちを人質にするつもりなのか?)




「ちょっと。―――後ろのガキの顔を見せてもらうわよ!」

「てめえら、人買いか!?ヘルには指一本触れさせねぇぞ!!!」


「誰が人買いだってのよ!いいから、どいて!!」


―――その声に聞き覚えのあったヘリオンは、ジンの後ろから顔を覗かせた。


「あんた……あの時の?」

軍事基地から逃げ出した時に出逢った―――ヘリオンをこのTV塔まで送り届けた……青髪の少女。




「そうよ、ホーリーよ。―――間違いない、この娘よ」

「よし、保護しろ!!」


ホーリーが頷くと、その仲間がヘリオンをジンから奪い取ろうと手を伸ばす。



「―――何しやがる!!何だ、ヘル!!こいつ、知ってんのか!?」

「ボクが売られそうになった時―――助けてもらったんだ」


「だからって、何なんだ!こいつはどこにもやらねぇぞ!!!」

威嚇し続けるジンに、捕縛士たちは強攻策に出ようとする気配が感じられた。



「ガキ、あんたに聞かなくちゃならない事があるのよ。あんたの故郷を襲った《バケモノ》についてね。 ―――隣の男は恋人?悪いけど、一緒に面倒見切れないのよね」

「オレはこいつの父親だ!!!何だ!?カレドを襲った犯人が何だってんだ!?」


ホーリーの言葉に、ジンも少なからず興味を覚えた―――カレド壊滅について、今更捕縛士が何を調べるというのか?




「父親も目撃者か?―――いいだろう、とりあえず2人とも保護しろ」


「一々命令しないでよね、あたしはあんたの部下じゃないわ」

この作戦の責任者である一番年上の捕縛士に向かってホーリーは不満げに言い放つ。


「ホーリー、口答えするな!!作戦を失敗させるわけにはいかないのよ!!」




(―――うるさいわね)

腹の底でそう思ったが、これ以上時間をかけるのも危険だったので、黙っていた。


ここは他国の保護地区の中―――そこにセントクオリスの軍用機が入り込んだとあれば、国際問題にもなりかねない。

(まあそうなった所で、セントクオリスがゴデチヤに負けるという事はありえないとは思っているが――― 戦争すれば勝つと解っているのに、無駄なエネルギー消費に手を出すというのもバカげた話だ)




「さあ、大人しくして下さい」

捕縛士の一人が視界から消えたと思った瞬間、ジンとヘリオンは首筋に衝撃を受け、声もなく倒れた。




「よし、オレたちは退避するぞ!レッソ、ラテラ、2人でこの大男を背負って飛べ!落ちるなよ!」

「了解。―――見ろ、A班の方も始まったみたいだぜ」


レッソが示した先のモニター画面には、古く質感の悪い映像が途切れ途切れに映し出されていた―――

その場にいた捕縛士たちは皆、ホーリーも含めて一瞬画面に見入った。



「本当に―――あんな任務、あいつに出来るのか?」

「シュラウド様がそう言ったんだ。出来るのさ」


シュラウド直々の命令―――それを受けるのが、彼ら捕縛士にとってどんなに名誉な事か。

今回の作戦で、その名誉が与えられたのが自分でない事に、彼らは嫉妬した。






「さあ、戻るわよ」


―――ホーリーは言った。

近いうちに自分も―――シュラウドに選ばれてみせる。


嫉妬だけでは、上へは行けない―――真実を見つけなければ。







―――――◆―――――◆―――――◆―――――

















ドゥンッッッ―――ドゥゥンンッ……!!!












2人のシェイドが込められた弾丸が、魔人へと伸びていく―――

妙な感覚に支配され、まるでこのまま時が停止してしまうのではと思うくらい、ゆっくりとゆっくりと―――



(コレは―――カライの……シェイド体の感じている時間の過ぎ方なのか?)



自分の時間は何もかもが動かず―――動く弾道を見る事で、かろうじて此処が生ある現の世界である事を知る。







(―――引きずられてたまるか)


リュクシーは歯を食いしばり、腹に力を入れた。




(私はまだ生きている!!!)


次に瞬きした瞬間、リュクシーの時間が動き出す―――






ビシッ――――――ビシッ、バリンッッ!!!!!






だが弾丸はダメージを与える事なく敵を突き抜け、魔人の背後にある一番巨大なモニターを破壊しただけに終わった。










破   壊









魔人は大きく空気を吸い込むような仕草を見せ、その直後リュクシーに向かって死の電撃を放つ――― その光景はやはり時間が止まったかのようにスローで、リュクシーは再び魔人の時に支配される。



(やはり、ダメか――――――、!?)



絶望がリュクシーを襲いかけた時、魔人の背後にある複数のモニターに、古い―――そして確かに見覚えのある、でも今更思い出したくもない映像が―――映し出されているのに気づく。




(アレは――――――――!!!)








《…ザ―――今の悪魔…!!》


《―――、だと言ったはずだ》


《違う!!今のは―――》













破   壊










(ラジェンダの映像―――!!)


―――あの映像が何故今?

―――メダリアしかない、捕縛士が近くにいる。メダリアがカライを殺そうとしている―――ゼザがそばにいる!!!!!




映像が視界に入った一瞬で、様々な思考が頭の中を駆け巡り―――その隙が魔人のシェイドを避ける暇を与えなかった。







いや―――リュクシーは既に完全に支配されていたのか?

1年前の、あの時間に―――









「あああああああ!!!!!」

「リュクシー!!!」


無防備にシェイドの直撃を受けたリュクシーを、信じられない思いでイチシは自身のシェイドで防護する。


「ぐっ―――!!!」

「や、やめろ、イチシ―――私をかばうな!!」


メダリアがカライを抹殺しようと考えている以上―――リュクシーは死の瞬間を再現させる為の駒でしかない。

―――留めを刺した別の人間が存在するはずだ。



「バカ言うな―――っ!!!」


しかし、イチシはリュクシーをかばい続ける。

命続く限り―――イチシは自分を守ろうとするだろう…それを感じたリュクシーは、もう一度自身のシェイドを奮い立たせた。



(気絶してはならない―――カライの最期をこの目で見るんだ!!!)


それがカライと真に決別する方法―――あの時のように、気を失ってはならない!


「イチシ、お前も見てくれ―――!!」

「!?」


過去の映像に引き込まれない第三者に目撃させる事も、気休めながらもシェイド汚染を防ぐ手段となる。リュクシーは目の前にいる魔人ではなく、過去を映し出すモニターへと視線を合わせた。




《あああああああ!!!》


過去のリュクシーも、カライの意識に絶叫を上げている―――


《リュクシー!!!》


そして横にいるのは―――青髪鮮やかなリュクシーのパートナー……ゼザ。














カライ、やめろ!


おい、カライを止めるんだ!


そこの二人は人質にしろ!


こうなったら、一気に攻め落とせ!














(ああ、この声までは覚えている―――この先だ!!!)



「あれは―――あんたか……!?」

自分が目撃する事の意味が分からず、イチシはつぶやく―――






(どこだ―――どこから現れる!!長くは―――これ以上は、持たない!!)


カライの暴走を止めた者―――カライを殺した者。近くにいるはずだ!!












バリンッッッッ!!!












―――弾痕でヒビの入った巨大モニターが砕け、飛び散る液晶と共にその者は現れた。




「―――――!!!」


その姿を見て―――リュクシーは息を呑む。


幾度も幾度も考えた―――彼を再び目にした時……自分は何を感じ、何を想うのだろう。












《ミスエル、カライを止めて!!!》














ミスエル!!















蘇る声―――記憶。






だがこれは、リュクシーの記憶ではない。



リュクシーの横にいた―――ゼザの記憶。

カライを殺した―――《ミスエル》の記憶。




―――――その2つは今、ここに在る!!









ザンッッッ!!!












《ぐおおおおおおお!!!!》


空中を舞う捕縛士―――彼の剣から放たれた一閃が、魔人を真っ二つに切り裂いた。






――――――――ダンッ!!!


シェイドを携えた捕縛士―――彼が着地した後、リュクシーとの間を遮っていた影の魔人の体がゆっくりと傾く。





(ああ、ゼザ―――再び巡り合った……)


―――これは誰の支配する時間だろう。

魔人がゆっくりと倒れて行き、その後ろに佇むゼザの姿が徐々に露になる―――





ドザッッッ!!!!!


魔人の肉体は、地に着いた瞬間、霧散していった―――――






そして目の前にあるのは、新たな敵―――リュクシーが牙向く事叶わぬ、唯一の敵。





(敵―――――敵、敵だ)


リュクシーは電撃のシェイドを浴び、膝の力が抜け、立つ事もままならぬ体をどうにかして動かそうとした。


「………」






ドサッ……!!


しかし、逆に倒れ込んでそれきり動けなくなる。

ハガルと戦い、カライのシェイドを浴び、リュクシーは己のシェイドの限界値をとうに超えていた。




カツ、ジャリッ、ジャリッ―――――








冷たい石の床で、液晶の欠片が踏み砕かれる足音が響くのだけは感じた―――そして、何もかもが白くなった。




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