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自作小説倶楽部 第11冊/2015年下半期(第61-66集)  作者: 自作小説倶楽部
第61集(2015年07月)/「笹舟」&「砥石」
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04 E.Grey 著  砥石 『公設秘書少佐/沖田御殿の怪6』

 山林王沖田家の豪邸では、夜な夜な不審車両が敷地に侵入し、当主・沖田氏を悩ませていた。沖田氏は国会議員・島村代議士の有力な後援者である。公設秘書・佐伯祐はセンセイに頼み込まれ、婚約者三輪明菜の協力のもと事件解決に乗りだす。しかし当の沖田氏が何者かに殺害されてしまった。

   09 砥石


 佐伯は口癖のようにいう。――犯人が犯行を行うとき、なぜ、被害者を殺さねばならなかったのかと。刃物を砥石で何回も研いでゆくように、だんだんと、外皮の鋼はなくなり芯棒が剥きだしになってくるものだ。

 夕刻。

 あたりはすっかり暗くなっている。

 村の有力者・村上栄作氏の邸宅をでた私たちは、待たせていたタクシーを役場に向わせる途中でいろいろ話した。

 助手席に座った駐在の真田巡査部長がいった。

「増川はどうも誰かをかばっているような気がするんですよ」

「ほう。かばう? 誰を? どんな理由で?」佐伯祐が腕組みして聞き返すと、停年間近な巡査部長が、改めていった。

「例えば、例えばの話ですよ。温泉芸者・信濃小百合の証言からすれば、あのおしとやかな沖田夫人は増川茂とかつて恋仲の関係にあった。信濃と浮気をしている亭主との関係は冷え切り、山王神社で待ち合わせしようと信濃の声色を真似て呼び出し……」

「グサッと?」私・三輪明菜が口を挟む。

「そうそう」

「なるほど……。真田さん、けっこういけてる仮説です。しかしです。増川がそこに現れた理由はなんでしょうね? それに、沖田氏が存命のとき、雪が降った夜に何度も不審車が邸宅敷地内に侵入してきた意味も不思議です」

 村役場のすぐ近くにある駐在所。

 先に降りた真田巡査部長の帰りを待ち構えていたように、奥さんが、「県警本部から電話がありましたよ」といってきたので、かけなおした。

「ええっ!」受話器をとりダイヤルを回した刹那、巡査部長が素っ頓狂な声をあげた。

 警察仲間である電話の主は、殺された沖田邸宅の家族や使用人たちを個別に、何度も趣向を変えて問いただしてゆくと、女中の一人が、「旦那様は七時半の約束で呼び出されていた」という証言をきくことができた。

 七時半!

 佐伯は、駐在所の電話で、殺人事件が起きた山王神社の隣に住む兵藤道場館長・兵藤氏に再びきいてみた。

「殺害が起きたのは何時ごろでしたか?」

『NHK夜七時のニュースが始まったばかりだった。ほぼ七時だな』

 佐伯は不敵な笑みを浮かべて、「ほう」とつぶやき相手にお礼をいって受話器を置いた。

 古参衆議院議員の参謀・公設秘書であることから〝少佐〟と呼ばれる佐伯の頭脳は、事件当日の出来事をシュミレーションしているようだった。

 動機については、真田巡査部長の仮説と、夕方の駐在所での情報で概要をつかんだようだ。それでは、不審車両とは誰が何の目的で乗っていたのだろうか。佐伯自身の仮説を私にいうのは翌日を待たねばならなかった。

  //登場人物//

.

【主要登場人物】

佐伯祐(さえき・ゆう)佐伯祐(さえき・ゆう)……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

三輪明菜(みわ・あきな)三輪明菜(みわ・あきな)……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。

●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。

●真田巡査部長……村の駐在。

.

【事件関係者】

●沖田茂……達磨像のような風貌をした禿げて肥った資産家。還暦。

●沖田優子……40歳だがみためは二十代にみえる美魔女。儚げで守りたくなるタイプ

●川島ハジメ……屋敷の若い奉公人。短気なようだ。

●村上栄作……沖田家の宿敵・村上家当主。

●増川明……沖田優子の元婚約者。

●兵藤武志……山王神社の隣に住む古武術家「兵藤流」道場主。50歳。

●信濃小百合……村の温泉街で働く温泉芸者。

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