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自作小説倶楽部 第11冊/2015年下半期(第61-66集)  作者: 自作小説倶楽部
第66集(2015年12月)/「初雪」&「カメラ」
36/38

04 葉月匠 著  カメラ 『未来を映すカメラ』

挿絵(By みてみん)

     挿絵/深海様より


 それは雑多なディスプレイに紛れ置かれてあった。

 見つけた時の感想は、「おもしろいものがあるなぁ」そんな風だったと思う。

 何でも引き取り売り物にしているリサイクルショップには商品にしてもいいのか? と思ってしまう物もあるが中には掘り出し物もあったりする。

 店内を移動するにも溢れかえった商品にぶつからないよう気を付けなければいけないような店だったが暇つぶしには丁度いい店だった。

 その日も彼女との待ち合わせの時間まで立ち寄ったのだ。


 簡易に撮った物がすぐに現像できるということで一時人気があったポラロイドカメラ。チョキだかチェキだったか……なんにせよ玩具のようなカメラだった筈。目の前にあるカメラを見ながら思い出していた。

 只面白いと思ったのはそこに添えられたメモだ。

《未来を映すカメラ》

「なんだこれ? こんなの買う奴いるのか」

 値札には500円と書かれている。

「安っ!まともに動くのかね……」

 ガラクタめいた商品と同列の扱いだ、動くわけないだろうと思い手に取ってみてみると意外にしっかりとしている。

 ふとこのカメラを買おうか、そう思ってしまった。500円だし壊れててもしょうがないと諦めもつく。動けばそれはそれでしばらくの間は楽しめそうだ。

会計を済ませる時これには箱が付いてるからと店員がカメラを箱詰めしてくれた。

 いい買い物になったか損をしたか、賭けはどっちにでるのか。思いがけず箱書き付きだったことに期待が膨らむ。

 まだ約束の時間まで1時間近くあるので待ち合わせ場所の喫茶店で買ったばかりの妙なカメラを吟味することにした。

 窓際のテーブル席に陣取りアイスコーヒーを注文した後早速買い物袋を開けてみた。

 箱付きと言ってもただの箱に入っているだけだったことにさっき芽生えた期待感が少し萎む。

 箱を開けると専用フィルムのパックが付いていたことに、「おぉラッキー」と思い直す。

 玩具のようなカメラだと改めて思いながら電源スイッチを入れてみる。

 ちゃんと作動するようだ。レンズを覗くと窓の外の風景が見えた。

 交通量の多い道路に沿って植えられた木々は黄色に染まっていた。

 寒さが増して来た街並みを足早に人々が歩いて行く。

 こんな風にレンズを通し景色を見ることは久しく無かった。今はスマートフォンがカメラも兼ねているからわざわざカメラを持たない。

 何か一枚映してみるか、そう思いフィルムパックを取り出し装着させた。

 確か……未来を映すカメラとか書いてあったっけ。

 買おうと決めた時には書かれた言葉よりもカメラの安さに遊び心が刺激されメモ書きの存在をすっかり忘れていた。

「インパクト持たせて気を引く商法かな。ほんとに何か映ったりして」独り言しながら何を撮ろうかと考えた。

 さっきオーダーを取りに来た子可愛かったなぁ……と一瞬思ったが待ち合わせしている彼女に万が一にでもそんな隠し撮り写真なぞ見つけた時には最悪な事態になることは容易に想像できる。

「ここは無難に……」

 再び窓の外にカメラを向けた。走り去る車と歩道を歩く人々が試し撮りには丁度いいだろう。銀杏の木に標準を合わせた。

ボタンの押した感覚と共にシャッター音がするアナログなカメラもなかなかいいものだ。

 インスタントカメラからフィルムが吐き出される。

 現像が定着するまでしばらく時間がかかるのもいい感じでこの思い付きの買い物に満足感を感じ始めている。

 数秒後画像の輪郭が現れてきた。

「え?」

 浮かび上がった画像に驚き声が出た。

 掌に収まるほどの写真にはあり得ない景色が映っている。

 歩道の街路樹に白いセダンが突っ込んでいた。

 銀杏の木をなぎ倒し車のボンネットはぐしゃぐしゃになっている。

 そしてその車の下には倒れこむ人の姿が……

 小さい写真なので明瞭には確認できないが車がぶつかった衝撃で折れた銀杏の木の葉が舞い散って道路には赤い色をしたものが広がっている。

 黄色と赤色と妙にその二色が鮮やかだ。

 慌てて外を見ると何も変わりなく写真に映ったような事故は起きていない。

「なんだ……?気味悪い……やっぱり壊れてるカメラだったのかな」

前の持ち主の撮り残しがあって何かの拍子で吐き出されたのか。

 だが、この写真の風景は目の前にある風景としか思えない。街路樹の位置もバックの建物も同じだ。違うのは事故の画像だけ。

 言いようのない悪寒が走る。さっきまでの高揚感は吹き飛んでいた。

 ふとディスプレイに添えられたメモ書きを思い出した。

「未来を映すカメラ……まじかよ?」

 この写真に映した場所でこれから交通事故が起きるのだろうか。

 恐々にもう一度じっくり写真を見てみる。

 今見ている景色とは違う部分があることに気がついた。

 写真には工事予告の看板が街路樹に立てかけられていた。

 日付までは確認できないが予告看板が確かに映っている。

 近い未来にここで事故が起きる、それがこのカメラで映し出されたとすれば……未来を知る事のできるカメラを自分は手に入れたのか?

 掌の小さな写真は禍々しくカメラは不気味な気配を晒している気がして恐ろしくなった。

「そんな……まさか。やっぱり不良品のカメラだったんだ。安物買いのよくある失敗さ」

 気のせいだ、これは何かの悪戯か間違いなんだと思い込もうと呟く。


「はるちゃん、お待たせ」

 急に声をかけられ飛び上がりそうになりながら声の主を見ると待ち合わせた彼女が立っていた。

「どうしたの?怖い顔して……」

「いや、何でもないよ。ちょっと考え事してたから……」

 そう言いながら写真を咄嗟に隠したがカメラはしっかり彼女に見られてしまった。

「あーこれポラロイドカメラだよね。懐かしい~」

 止める間もなく彼女はカメラを手にしていた。

「写真撮ってみた? あ、フィルムもあるじゃん」

 嬉しそうに彼女はカメラにフィルムを装着し目の前の被写体を撮影した。

「駄目だっ!」

 叫んだが間に合わなかった。しっかりと彼女は彼の写真を撮っていた。

「どうして怒鳴るのよ。写真撮っただけじゃない」

 急に叫ばれ彼女は困惑しつつもカメラから吐き出されたフィルムをパタパタとあおいでいる。

「こうやると早く現像できるんだよ」

 白い画面に色が浮かび上がっていく。

 映し出されるそこには何があるのか恐怖に支配され只息を潜め見守るしかなかった。

「え……何これ……?」

 撮れた画像を見ていた彼女の表情が固まった。

「何の冗談?どういう事なの……?」

「な……何が映っていたんだ……」

 見たくない、その写真に何が映ったのか見たくない!そう思いながらも彼女に聞いている。

 その言葉に弾かれた様に彼女は写真を投げつけてきた。

 彼女が何故怒っているのか訳が分からず写真を見ると白いタキシードを着た自分とウェディング姿の見知らぬ女性が映っていた。

「馬鹿にしないでよ! 他に好きな子が出来たのなら言えばいいじゃない! こんな写真見せつけて……酷いっ」

 そう言い放ち泣きながら彼女は店を出て行った。

 後を追う方がいいのだろうが体が動かない。

 今起こった事実をどう受け止めればいいのだろう。

 未来の風景では誰か別の女性とこうして笑っているのだろうか?

そうだとしても。

「未来なんて見るモノじゃないな」

 店を出た後コンビニ前のごみ箱にカメラを投げ捨てた。

     了

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