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自作小説倶楽部 第11冊/2015年下半期(第61-66集)  作者: 自作小説倶楽部
第65集(2015年11月)/「七五三」&「筆」
27/38

01 奄美剣星 著  七五三 『恋太郎白書』

挿絵(By みてみん)

 挿絵/深海様より御拝領


 出会いはホリデー列車から……。

「花丘雫っていうんだ? あ、僕は恋川遼太郎。学校じゃ、友達がみんな、恋太郎って呼んでいるから、それでいいよ」

 二人とも小学一年生になる。

 恋太郎は流し髪で、上下ジーンズ生地のジャケットとパンツ、それからスニーカーを履いていた。対して、雫はボブヘアで母親とお揃いにしたニット生地の帽子とジャケット、それにスカートを着ていた。目が大きくまつ毛が長いこと、そして、ほっそりとした体型は共通点である。

 恋太郎は両親に、雫は母親に連れられての、二泊旅行だった。

 たまたま通路を挟んで左右の席に、二家族が座っていて、同じ年頃の子供がいたので、まずは母親同士にお喋りとなり、それから、恋太郎と雫が会話するようになった。

 立冬を迎えた連休で、列車の車窓からみえる切り立った渓谷からは、半ばが落ちた紅葉があり、それも見納めという感じで、両親や雫の母親の話だと、十日もすれば雪が降るだろうとのことだった。

 始発駅から、小一時間ほどの列車の旅。

「あの温泉街のある駅で降りるのですね? 小説家の××先生とか、随筆家の××先生とかいった文士さんたちがくるらしいですよ」

 恋太郎の父親が雫の母親に説明していたのだが、子供たちには、どうでもいいことだった。

 すぐに仲良くなった二人は、手をとりあって、列車の隅から隅まで駆けずり回って、叱られるというほどではないものの、たしなめられた。 

 無人駅から大河の川辺に下る坂道にひしめくように、旅館が立ち並んでいるのだが、店といえば温泉饅頭の店舗、それから集落と、従業員と思われるアパートが若干あるだけだ。

 宿というのは、昭和三十年代に建てられたと考えられる木造モルタル二階建てで、旅館街では最も貧相である。駅からそこにゆくには、通りをゆかずとも、線路沿いの裏道を通ってゆけばよかった。

 奇遇なことに、花丘母娘も同じ無人駅で降りた。雫の母親の実家が近くの集落にあるのだそうで、祖父母が、七五三詣でに連れてこいというので来たのだそうだ。晴れ姿をみせた。

 そのあたりは古戦場で、戦没者の慰霊碑を祀った神社もある。露店がでていて、赤や白の晴れ着姿をした集落の子供たちが、両親に伴われて、千歳飴をぶら下げて、神社の鳥居を行き来していた。

 母親に伴われていた雫も赤い着物を羽織って、飴を入れた白い手下げの紙袋を持ってご機嫌だ。

「なんて綺麗なんだ!」

 恋太郎は心からそう感じ、正直なところを声にした。さらに、なんで七五三では男が五歳までで、女が七歳まであるのだろう。男も七歳まであれば、雫とおそろいでお参りできたのに。――そんなふうにも思った。

 すると、母親に手をひかれた少女は顔を真っ赤にした。少し間を置いてから、雫が駆け寄ってきて、恋太郎に耳打ちした。

「あとで遊んで」

「いいよ」

 午後。

 二人は手をつないで集落の外れにある橋をみにいった。

 集落を左岸にした大河をさかのぼってゆくと、いくつもの発電用ダムが築かれている。

 高さ三十メートルはあるだろうコンクリート製の堰堤には、小窓状に、十数か所に水門が設けられていて、そこから滝のようになった濁流が、轟音を放ちながら、川底に下り落ちてゆく。――上には自家用車が一台通り抜けられる幅の道があり、五百メートル弱くらいある、むこう岸に続いていた。

 増水時に係員が見張り用としてつかうテラスが橋のところどころにあって、そこの一つの欄干の隙間から恋太郎が下をのぞきこむと、雫が背後から押した。格子があるので落ちないのだが、少年が大袈裟に驚いてみせると、少女はきゃっきゃっと喜んだ。

 翌年もその次の年も恋太郎は両親に連れられて集落にやってきた。雫がきた年もあったし、こなかった年もあった。そして、恋太郎が小学校を卒業するあたりからは、渓谷の温泉に、まったく現れなくなった。恋太郎はもちろん、両親も、気になったらしく、常宿の女将にそれとなくきいてみると、

「あの子の母親は未婚の母。都会にでていたのだけれども、また悪い男につかまって捨てられ、娘さんと 無理心中したって噂があります」

 大人になって、恋太郎は就職し、昔、両親とよくいった温泉街にいってみた。

 駅を降り、神社に詣で、ダムの上にある赤い橋を渡って雫を捜した。

 少年の日に、ダム放水口から放出される濁流を見おろす。――もしかして母娘はここから飛び降りたのか? 

 そのときだ。

 むこう岸にある国道から、ホンダの軽自動車が、こっちにむかってやってくるのがみえた。ボブヘアの若い娘が乗っているのがみえた。ひと目で彼女だと判った。――ハンドルを握っている彼女も欄干に立った青年が恋太郎だと判ったようだ。

 人の口にのぼることは、よくない形で脚色され一人歩きしてゆく。

 雫は生きていた。

 惹かれあうことは、フェロモンという匂いなき匂いからくるという説がある。――しかし出会いは運命なのだろうと思わざるを得ないことが人生のなかにはときにしてあるものだ。

 車の窓が開いた。

「恋太郎さんじゃないですか?」

「雫さんですね」

「お久しぶりです」

 ドアが開いてまた閉じた。

 二人を乗せた車がダムの上の狭い橋を走り抜けてゆく。

 渓谷の葉はすっかり落ちている。つぎの月になったら、このあたりはすっぽりと雪で覆われることだろう。

     了

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