03 柳橋美湖 著 ハロウィン 『北ノ町の物語』
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今年の十月二十八日が満月。そのあたりがハロウィンになります。……ハロウィンといえば南瓜。幼稚園にいたころ、先生がその季節になると中身をくり抜いて飾って下さったのを思い出します。ハロウィンというのは、ヨーロッパ版の〝お盆〟だと先生はおっしゃいました。そのためなのでしょうか、三つつくった南瓜の行燈は、みんなお盆に載せられていたのを憶えています。――もともとはヨーロッパの古い部族・ケルト人が行っていた祖先供養の祭りだったのだとか。
むかし、寝台列車が走っていたころ、東京でOLをしている私・鈴木クロエは、ときどき、それに乗って、お爺様のいる北ノ町にいったものです。著名な彫刻家であるお爺様が住んでいたのは牧師館を改装した丘上の二階洋館。地下には隕石が落下して突き刺さった衝撃石が隠されています。――前回、北ノ町にいったときは、謎めいた石から、触手のようなものがでてきて、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんと一緒に屋根上まで逃げる羽目になって大変でした。
お爺様と父が怪物を駆除。父の部下である公安委員会の人たちによる調査が終わり、お爺様は壊された洋館を元通りに修理。お爺様ときたら、「新装開店記念だからぜひ遊びにきなさい」といってききません。――仕方がないです。はい、うかがいますね。
金曜日に仕事が終わって上野発の夜行列車に飛び込み、そこで一睡。朝になると北ノ町に到着です。煉瓦でできた駅ホームから遠くに見える切り立った山の頂にはうっすらと雪が被っていました。
毎度、駅に着くと、顧問弁護士の瀬名さんか従兄の浩さんが車で迎えにきてくださいます。瀬名さんは仕事がお忙しいとのことで、今回は浩さんがお出迎えです。
無人駅のターミナルに停車しているのは、浩さんの自家用車セダンだけ。
ヨーロッパの映画にでてくる運転手みたいに、ドアを開け、私を後部席に乗せて浩さんは車のアクセルを踏みました。
「クロエ、変わりなかった?」
「お陰様で相変わらず。浩さんは?」
「僕も変わらずさ。瀬名さんや、お爺様もね」
私はお爺様がこないだ退治した怪物のことがやはり気になります。
「怪物がでた地下室は?」
「ああ、公安委員会の人が業者に手配してセメントを流し込んでおいた。だから触手はもうでてこない」
セダンが玄関前に停まりました。
そこには一メートルくらいはあるでしょうか、中身をくり抜いた、大きな南瓜がハロウィン仕様にして一つ置いてありました。
浩さんがノックをして中に入ろうとしたときのことです。
南瓜が左右にカタカタ揺れました。
「えっ、風?」
リビングに入りました。
暗くなっていて、暖炉と燭台の蝋燭が、部屋に怪しげな陰影をつくっています。
ピアノが……勝手に鳴りだしました。
突然。
開けたドアが勝手に閉じて勢いよく閉まりました。
そのドアの陰に……。
きゃぁあああ。
いえ、予想していましたよ。けど、分かっていてもビックリ。
お爺様ったら、またまた、私を驚かせようとして……でもね、大南瓜って、ムード的にやっぱり怖いです。南瓜には電動式の仕掛けがあって人がくると左右に揺れるようになっていました。ピアノは自動演奏。
おちゃめ過ぎます。
END




