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自作小説倶楽部 第11冊/2015年下半期(第61-66集)  作者: 自作小説倶楽部
第64集(2015年10月)/「ハロウィン」&「猫」
23/38

02 BENクー 著  ハロウィン 『和製ハロウィン』

  和製ハロウィン 


「トリック オア トリート!」

 拡声器の声に合わせ、仮装した集団がまるでデモ行進のように通りを歩いていく。

『たしか、うちの田舎にもこんな行事が昔あったわ……』と、喫茶店のでっかい窓越しに行列を見ていたマキエは、思わず子供の頃を思い出してつぶやいた。

すると、向かいでコーヒーを飲んでいたユカリが切り返した。ちなみにユカリは、マキエが「戦友」と呼ぶ30年来の親友である。

『何、あんたん所って、こんな進んだ行事があったん! ……そんで、何に化けるん?』と、真っ赤な口紅がベトッと付いたカップを置きながら外を眺めた。

『いや、化けるんじゃなくて、ただ子供たちが集まって「あげたかな」って言いながら、お菓子をもらいに家を回るんだけどね』と、マキエは懐かしそうに語った。

『何、その「あげたかな」って?』

『「あげたかな」って言うのはね、十五夜の時にするお供えを「もうあげたかな、さげたかな」って言って、さげたお供え物をもらって回る風習なんよ。だからハロウィンみたいに仮装なんかしないけど、夜に家を回ってお菓子をもらうのは一緒なんよ。でも、今はもうやってないみたいだけどね……』と、何だか残念そうに言った。

 マキエの顔を見たユカリは、何かすぐにピンときたらしく、

『あんた、そん時に好きな人の家に行ったのを思い出したんじゃない?』と、再びコーヒーカップを持ち上げながらニヤリとした。

『そんなんじゃないわよ!』と、マキエは慌ててユカリから視線を外すとコーヒーを口に運んだ。

『えへっ。あたしにはバレバレだよ。あんたがそんな顔する時は男の事を思い出した時って分かってるんだからね』

 さすがは30年来の「戦友」である。マキエの表情から淡い思い出の欠片を嗅ぎとったようである。

『しかし、そんな風習があるなんて全然知らんかったわ。仮装しない「和製ハロウィン」って所だね』

『でしょ。だからあたしはハロウィンってあんまりピンと来ないのよ。それに、仮装ならあんたに勝てないしね』

 こう言いながらマキエは、携帯をいじってユカリの眼前に写メを見せた。そこには、番組の企画でフランス貴族の格好をしたユカリのド派手な姿が写っていた。

『うわっ、もうそんなもん取っとくんじゃないよ!』と、和歌山生まれの関西ノリよろしく、ユカリは大声で突っ込んでしまった。ここが喫茶店というのも忘れて……

 すると、「テレビとおんなじだ…」という声が聞こえ、それを聴いた店中の人たちが揃って肩を震わせた。

 口紅並みに顔を紅らめたユカリは、『うるさくしてどうもすいません』と、苦笑いしながら周りの人たちに頭をさげた。

 その最中もマキエは、水戸黄門の印籠よろしく、ユカリの眼前に写メを突き出して勝ち誇ったように胸を反らせていた。


…おしまい

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