happiness
この恋が叶うはずがない。
だって、奇跡だもの。
私が隣にいられるのは。
もう少しだけ。もう少しだけ。
毎日そう思ってる。
いつか、くるその日までは。
どうか傍にいたい。
「…!…え!かなえ!香苗!!」
「えっ!!」
突然、名前を呼ばれ我に返る。
振り向けば、女の子三人が両手にスコップを持って立っていた。
「もー!さっきからずっと呼んでるのに!スコップ集めてきたよー。シャベルは男子がまだ使っているみたい」
三人組の中ではリーダー格の女の子が口を尖らせて、私に詰め寄る。
「ごめんね。考え事してて…ありがとう。後でまとめて持っていくから、置いておいて」
「オッケイ!それにしても大変だねー香苗は」
1人がそういうので、私は首を傾げた。
「大変?私が?」
「だって、西田くんが幹事だもん。副幹事をしなきゃいけないの大変だなあって」
「そんなことないよー」
西田くんとは、私の幼なじみの修ちゃんのことだ。昔から、修ちゃんはお祭りごとが大好きで。
自分からリーダーになって、皆を引っ張ってくれる。だけど、夢中になりすぎてたまに無茶なこともするので、いつも私が副リーダーとして、修ちゃんを支えている。
「ねぇねぇ2人はまだ付き合ってないの?」
よく聞かれる質問。
「えー?付き合わないってばー」
「なんで?なんでー?お似合いなのに!」
「そうそう!もう皆の公認の仲なんだからさー!」
私の答えを聞いて、皆が驚く。
「修ちゃんは幼なじみだよ?」
「幼なじみだからって何よ!もう既に夫婦って感じなのにー!」
幼なじみは幼なじみ。
それはもうずっと変わらない。
私たちは夫婦じゃなくて幼なじみなのに。
皆、わかってくれない。
「香苗。シャベル持ってきた」
すぐ後ろから声がした。
振り向かなくても誰だかわかる。
だけど、私は振り向いて少し驚いたふりをする。
「…宏人くん!」
宏人くんは私ではなく、女の子三人組を見て言った。
「お前ら、他の奴ら教室に移動してるぞ。早く行かないと置いていかれる」
「え?本当!?」
「急ごう!」
宏人くんの言葉に三人は驚いて、置いて行かれないように、皆がいる方向に向かう。
「香苗!スコップ頼むね!後、発展したら絶対おしえてよね!!」
リーダー格の女の子が少し離れたところで、急に止まってそう叫んだ。
その叫びにキョトンとした顔で宏人くんが私を見る。
「発展?」
「あーえっと…」
んー流石に宏人くんには言いにくい。
「修斗のこと?」
「まあ、そんな感じ。幼なじみってだけなんだけどね…」
「勝手に言わせておけば?その内飽きるだろ。それより、これ、何処に持っていけばいい?」
「宏人くん、教室に行かないの?」
「1人で持たせる訳にはいかないよ」
「…ありがとう」
「香苗こそ、1人で抱え込むなよ?」
「え?」
「人の気持ちばかり考えるところあるから」
そう言って宏人くんは足早に倉庫に向かって行く。
そんなぶっきらぼうなところも昔から変わらない。
「ふふ」
なんだかおかしくて、笑ってしまう。
今まで幾度となく繰り返してきたやりとりを、後どれくらい繰り返すことが出来るのだろう。
「何…笑ってんの」
そう言いながらも、穏やかに笑う彼を見られるのは…
後、どれくらいなのかな。
もしかしたら、今日で最後なのかもしれないね。
10年前、修ちゃんの思いつきで、私たちはタイムカプセルにお互いの長所を書きあった紙を埋めた。
宏人くんが書いてくれた私の長所はなんだろう。
なんとなく分かってる。
宏人くんにとっての私の長所はそれだけだから。
宏人くんは一卵性双生児で、宏人くんによく似た同い年のお兄ちゃんがいる。
私は、2人と初めて会ったその時から2人を見分けることができる。
それだけなの。
幼い頃は、そんな風に思っていなかった。
貴方の隣にいられることが当たり前で。
貴方の隣にいる女の子は私だって。
何故だかそんな自信すらあった。
でも、19歳の春。
宏樹くんに大事な女性が出来た。
その女性も宏樹くんを見分けることが出来て。
だから、好きという訳ではないのもわかってる。
2人は運命だったんだ。
宏樹くんに運命の人が現れ、私は思ったんだ。
もしも、宏人くんがまだ運命の人に出会えてなかったら…
私以外に宏人くんを見分けることが出来て。
宏人くんだけを愛してくれる人に出会えたら。
私は宏人くんの隣にはいられない。
そう気付いた。
私と宏人くんの間には運命の赤い糸がないなんて、この15年間を振り返れば痛いほどわかる。
彼の隣にいられるのはあと少し。
だから、この幸せな瞬間を噛み締める。
一生忘れないように。
そして、タイムリミットはやってくる。
彼からのメッセージは…
思い描いていた通りで。
彼と彼の兄を見分けることでしか、私は彼の隣にいられない。
だけど。
それでも私は幸せだ。
この15年、貴方の隣にいられて。
貴方の不器用な優しさを1番近くで感じられたから、もう充分。
私よりも親友の杏奈が気になる。
教室の外に出るようで、少し心配になったけれど、大丈夫と伝えるように笑ってくれた。
この同窓会は…今まで伝えられなかった想いを伝えられて、それがきっかけで幸せを掴む人もいるだろう。
杏奈のように過去ではなく、未来を大切にする意思が生まれた人もいる。
そして、私にみたいに。
好きな人の幸せを願う人だっているだろう。
みんなが幸せになれますように。
そう願う。