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twins


「右が宏人くんで左が宏樹くんでしょ?」


「どうしてわかったの?」


「わかるよ。2人とも似ているけど、違うところもあるもの」


これが俺たちの飯塚香苗との出会い。



彼女は俺たちの光だ。


小さい頃、両親は双子の俺たちを中々見分けることが出来なくて、保育園の先生も周りの同級生も近所の人も俺たちを見分けることが出来なかった。


世界は2人だけのように感じていた。


誰も俺たちを見分けることが出来ない。


それは、幼心にショックだった。


特に弟は。


見分けてほしいのに、俺の服を着たり、俺がいつも座っている場所に座ったりロッカーを使ったり、よく俺に間違われていた。


今ならわかる。


弟は見分けて欲しかったんだ。


双子の1人じゃなくて、1人の人間としてみて欲しかったんだ。


ちゃんと自分の名前を呼ばれたかったんだ。


わざと俺と同化して、俺と自分は違うんだって誰かに言って欲しかったのだ。


それは多分俺も同じだった。


2人だけだった世界に現れた光。


それが飯塚香苗だった。


香苗は一目で俺たちを見分けることが出来た。


小学校の入学式に初めて会った日から、彼女は俺たちの名前をそれぞれ呼ぶ。


間違えることなど一度もなかった。


彼女と出会って全てが変わった。


香苗が俺たちの名前を呼んでくれるから。


多分、俺たちは2人の世界から抜け出すことができた。


幼稚園の時のように、わざと見抜かれないようにすることもなかった。


勿論、彼女以外の人は俺たちを間違えることが多かったけど。


だけど、香苗のおかげで親友も出来た。


西田修斗。


彼女の幼なじみで、いつも周りに沢山の人がいる。


楽しいことが大好きで、みんなのリーダーだった。


修斗も最初は俺たちを見分けることが出来なかったけど、今では間違えることがない。


2人がいたから、俺たちは今笑っていられるのかもしれない。


それを言えば大袈裟だと2人とも笑うかもしれないけれど。


本当にそうなんだ。


4人でいられたらそれで良かった。


19歳の春。


俺に大事な人が出来た。


弟に初めて会った時は、よく似ているねと言っていたけれど、俺がいいと言ってくれた。


彼女も俺たちを見分けることが出来た。


俺たちを完璧に見分けることが出来るのは、香苗、両親、修斗に続いて5人目だった。


「よく似ているけど、宏樹は宏樹だもの。私は宏樹が好きなの。宏人くんは宏樹じゃない。だから、わかるの」


その言葉を聞いて、なんだか救われた気がした。


ずっと求めていたのは彼女だと気付いた。


彼女に会うために生まれてきたとまで思える。


そんな彼女に出会えて、他に気付いたことがある。



見分けて欲しかった弟の気持ち。


弟の香苗に対する想い。


そして、香苗が何故俺たちを見分けることが出来たのか。


いつまでも無邪気に遊んでいた12歳のままの関係ではいられないこと。


全部、彼女がいたからわかったんだ。


俺が兄としてしなければならないことも。


19歳の夏。


俺は修斗と2人っきりで話した。


「宏樹。お前も気付いたんだな」


「ああ。修斗はずっと前から気付いていたんだろう?」


「まあな。香苗とは生まれた頃から一緒にいるんだ。わかるよ」


「そっか」


「話ってそれだけか?」


「いや、話は此処からだ。お前には知っていて欲しいことがあるんだ」


「何を?」


「お前たちがタイムカプセルと一緒に埋めたメッセージについてだよ」


俺は香苗・修斗・宏人とは小学6年生の時、違うクラスだった。


俺のクラスはタイムカプセルを埋めただけだったけれど、隣のクラスは違った。


お互いのいいところを書いたメッセージをタイムカプセルと一緒に埋めたのだ。


メッセージの内容は開けてからのお楽しみと言って。


元々、そのメッセージは小学校の卒業記念で、タイムカプセルに埋めるものではなかったらしい。


それは、弟の担任の先生の独自の企画だった。


いいところを書き合うことで、自分の良さを発見し、相手の良さにも気づく。


そして、クラスメイトに感謝をしあって絆を深める。


そういう意図があったのだろう。


そのメッセージを書く前日、弟は勉強机で頭を抱えていた。


当時の俺たちは一つの部屋を2人で共有し合っていた。


「何?宿題?教えようか?」


「違う!いや、宿題だけど…」


またうーんと頭を抱える弟の机を覗き込むと、箇条書きで何か書いてあった。


「誰にでも優しい…気配りが出来る…くだらないことにも笑ってくれる…」


「おい!読むなよ!恥ずかしいだろ!」


弟は顔を真っ赤にしてその紙を隠した。


「それ、香苗のこと?」


「何でわかるんだ!!」


お前がいつも家で言ってることじゃないかとは言わなかった。


「まあ、なんとなく。それが宿題?」


「クラスメイトのいいところを全員分書くんだよ。あんまり時間は取れないって先生言ってたから考えてるんだよ」


「思いついたことでいいんじゃない?」


「他の奴は…すぐに思いついたことでいいかもしれないけど。香苗だけはちゃんと考えて書きたいんだ。だって、香苗。多分、自分のいいところは俺たちを見分けられることって思ってる。それじゃあ嫌なんだ。ちゃんと伝えたいんだ」


いつになく真剣な弟に協力したくなって、俺も考えてやるよと言ったのだが。


俺が考えなきゃ意味がないと断れたことを昨日のように覚えている。


納得いくメッセージが出来たみたいで嬉しそうにしていたのに。


次の日、そのメモはぐしゃぐしゃになってゴミ箱に捨てられていた。


「おい、何で捨ててるんだよ」


「それ、もういらないから。結局、書けなかった。俺たちを見分けられるって書いてしまった。だから、捨ててくれ」


そう言ったきり、弟はベッドに入り寝てしまった。


寝たふりに気付いていたけれど、俺も何も言わなかった。


そして、その翌日。


メッセージを開けないまま、タイムカプセルに入れたことを修斗と香苗から聞いた。


あれから10年。


俺たちは22歳になった。


もう子どもじゃない。


あの頃とは違うんだ。


ブブブッ


携帯のバイブレーションが鳴る。


修斗からのメールだ。


今日、修斗達はタイムカプセルを掘り起こすための同窓会を開いている。


俺はある物をもって出かける準備をした。


行き先は俺の母校。


今、3人がいる場所。


宏人、お前に内緒にしていたことがある。


お前は怒るだろうけど。


俺は他の誰よりもお前に幸せになってほしいんだよ。


だって、俺はお前の兄貴で。


お前は俺の一部みたいなものだから。




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