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My Determination


この気持ちを何と呼ぼう。


気づけばサラサラのポニーテールに目を奪われていた。


隣の席がなんだかとても嬉しくて。


だけど、素直になれるはずもなくて。


あの日。


俺が消しゴムを忘れた日。


彼女は消しゴムを貸してくれるといってくれたのに。


「いらねーよ。そんな気持ち悪いの使えない」


その消しゴムは彼女のお気に入りだと知っていたのに。


ハムスターの形をしたその消しゴムを彼女はとても大切にしていて、普段はそれとは違う普通の消しゴムを使っているのだ。


それを知っていた筈なのに。


俺は恥ずかしさから、最低な言葉を彼女に浴びせてしまったのだ。


いつもそうだ。


彼女に笑いかけたいのに。

中本や吉村みたいに優しい人間でいたいのに。


だけど、彼女を目の前にすると…いつもムッとするしか出来なくて。


こんな自分が嫌いだった。


その時もそんな自分が嫌で仕方がなくて、彼女の前から逃げるように、親友の亮平の元に向かった。


「待って!」


彼女は走ってきたのだ。

こんなどうしようもない俺の元へ。


「これ、あげる」


さっきのハムスターの形をした消しゴムを、無理矢理俺の手のひらの中へ入れ、握らせた。


「もらったものは返しちゃ駄目なんだよ」


彼女らしい柔らかで優しい笑顔でそう言って去っていた。


俺はただ立ち尽くすことしか出来なくて。


視線の先には揺れるポニーテール。


いつも明るくて、何かとヘラヘラ笑ってて、見ているこっちが心配になる彼女がなんだかとっても頼もしくみえた。


その気持ちに名前がついたのは…


きっとその時だ。


その気持ちの名は知っていたけれど、幼い頃から何処か捻くれていた俺は素直になれなかった。


ずっと君にムッとした表情ばかり見せていたね。


そして、卒業の季節はやってくる。


ほとんどのクラスメイトは地元の公立中学に進学するので、卒業と言われても切なくなることはなかった。


だけど、当時の俺にとっては小学校を卒業するというのは、永遠の別れと言っても過言ではなかった。


好きな子がいるから公立の中学校に行きたいなんて、両親に言えるはずがなかった。


そうしてお別れへのカウントダウンは、一つ、また一つと進んでいく。


もう会うことはないかもしれない。


そんな風に思っていた矢先、チャンスは訪れた。



お互いのいいところをメッセージにして渡そうと担任が言ったのだ。


もう会えなくなるのならばそれに想いを託そうと思った。


面と向かって素直になれそうもない。


でも、文面で素直になれば悪態をつかずに済むと考えていたのだけれど。


急に恥ずかしくなって。


本当に言いたい言葉も名前も書けずに彼女の元にメッセージが辿り着いた。


まだチャンスはある。そう思っていた。


名前がなければ彼女は多分俺に聞いてくる。


それがラストチャンス。


告白する。そう決めた。


その時だった。


「これ、タイムカプセルに入れようぜ!中身は開けてからのお楽しみ!」


クラスのリーダー格の西田修斗がそう言ったのだ。



皆の賛成の意見に従うしかなくて、俺の気持ちは地面の中に埋められた。


俺の気持ちと共に埋めたのは、あの日貰ったハムスターの形の消しゴム。


彼女への気持ちは10年の眠りにつく。

その眠りから覚めたとき、彼女に思いを告げると決意をして。


俺と彼女は別々の道を歩むことになった。



高校生になって。

電車通学となった彼女を駅でみかけることがあった。


“久しぶり”


その言葉を言ってしまうと、あの日言えなかった気持ちを告げてしまいそうで、いつも見かけては避けていた。


彼女の視界に入らないように。


そして、大学生になり、男子高だった中学・高校時代と違って、彼女以外の異性と交流することはあったけれど、俺の気持ちが彼女以外に向くことはなかった。


20歳の冬。


一人暮らしをしていて、帰るのが面倒だと理由をつけて、親友の亮平と成人式をサボった。


俺がサボった本当の理由を知っているのは、亮平と西田修斗だけだ。


最初は亮平にだけ伝えるつもりだった。

亮平は亮平で行きたくない理由があるらしく、同じくサボることになった。


その理由について、亮平はあまり多くは語らなかった。


何かあるのかもしれない。

あのメッセージに関わっていることは確かだけれど、深く追及しても無駄だとわかっているので、2人で仲良くサボろうとしたのだけれど。



それが、成人式実行委員長の西田に伝わり、どうしても理由が知りたいとしつこいので、西田だけには話すことにしたのだった。


正直、あのメッセージが10年間の眠りについてしまうきっかけを作った西田には言いにくかったのだけれど…


「お前はそんなことでって思うかもしれないけど、俺には大事な決意なんだ。ちゃんとあのタイムカプセルが開く時に、伝えたい」


「わかった」


西田は非常に真剣な顔をしていて、俺は西田のそんな顔を初めてみた。


「ありがとう。恥ずかしいから、他の奴には言わないでくれよ」


「言わねぇよ」


そしていつになく真剣な眼差しの西田は、俺に告げた。


全員にタイムカプセルに埋めたものを配ることを目的とした元担任の先生が、成人式の日に掘り起こしたタイムカプセルを持ってこようと提案されたこと。


俺の話をきいてタイムカプセルはそんな風に1人1人の懐かしい思い出のまま終わらせないようにしなければならないと思ったこと。


そして、成人式ではなく、あの日から10年後の今日にクラス全員が集まれるようにする計画のこと。


そして、あいつにもケジメをつける必要があること。



西田は全てを用意してくれた。


あの日逃したチャンスを西田がくれたのだ。


だから。


ちゃんと言うと決めたはずなのに。


勇気を出して呼び出したはずなのに。


昔の自分の気持ちだけ伝えて。


答えが返ってくるのが怖くて、10年前の気持ちを彼女に押しつけて、帰ろうとした。


あんなにも伝えたかった想いを、思い出に変えようとしたのだ。


結局、10年経っても俺は変わっていない。


素直に自分の気持ちが伝えられなくて。


彼女に背を向けて。


もう大人になった彼女は追いかけてきてくれないというのに。


「待って!!」


あの頃より少しだけ低くなった声。


振り向くと彼女がいた。


肩で息をして。


必死に俺のところへ来てくれた。


彼女はいつだって、俺が自分を守るために引いた線を飛び越えてくる。


彼女からのメッセージを見た瞬間、拍子抜けした。


俺は10年間も無駄にしていたのだ。


あの時、あの日、伝えられていたら、君の隣に10年間もいられたかもしれないのに。


だけど、後悔しても遅い。


それに、この10年間、我慢していたせいかな。


君の全てが愛おしい。


この10年、君の隣にはいられなかったけれど。


10年後、20年後、50年後、君の隣にいるのは俺でありたい。



だから、言うよ。


もう自分から線を引かない。


「俺と此処から始めてくれませんか?」


また始めるんだ。此処から。






今度は、君との未来を歩んでいく。


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