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We are freinds!


「中本くん。私のいいところって何だと思う?」


同窓会が終わってすぐに、やっと2人きりになれた。

8年前、俺の前から去って行った初恋の少女と。


「姿勢がよくて、いい子なところかな。いつもまっすぐ前を向いているから、気になってた昔から」


「昔の中本くんも、“姿勢がいい”って書いてあったよ。後、“大人しくて真面目”って」


「俺、そんなに書いてたんだ」


なんだか恥ずかしくなって覚えていないふりをした。


「うん。嬉しかった」


「俺も嬉しかったよ。“影でクラスの皆を支えてる”なんて初めて言われた」


「そうなの?でも、中本くん、昔からかっこよくて目立っていたけれど、団体行動では縁の下の力持ちって感じで。私、好きだったよ」


“好きだった”


その言葉に引っかかった。


俺が聞きたいのは、そんな過去形ではなくて。


「野々山。俺もさ、好きだったよ。その気持ちはさ、昔の俺の感情で。俺は今の野々山を知りたいんだ。今の野々山を知って、今の俺のこの気持ちを育てたいんだ。だから、せめて連絡先を教えてくれないかな?」


必死になりすぎて、早口になってしまう。


8年前に遠くの地へ転校してしまった彼女の俺への気持ちは既に消えてしまったかも知れないけれど。


久しぶりに彼女に会って俺の心臓は鼓動を取り戻したんだ。


俺は昔から女の子にチヤホヤされていた。

自分で自分をかっこいいと思ったことは全くないけれど。


何がきっかけだったのかは覚えていないけれど。


小学生の時、彼女に好意を抱いた。


それは初恋というもので。


彼女の好意にも気づいていたのだけれど、残念なことに小学生の俺には付き合うという概念や感覚がなく、ただのお友達だった。


中学生になり、女の子から告白されるようになる。


中学2年生。やっと彼女に告白する勇気が身についた。


だけど、告白する前に…


1週間後に遠い地へ旅立つことを告げられた。


頭が真っ白になって、必死に考えた告白の言葉は喉の奥へと消えていった。


そして、月日が立ち、彼女への好意は少しずつ形をなくしていった。


他の誰かに好意が生まれることもなく、現在に至る。


そして、形をなくしたあの頃の気持ちが今、新しい形で生まれようとしている。


「ごめんね。私、中本くんが思っている程、いい子じゃないよ。


彼女の悲しそうな笑顔。

なんだろう。

この頬を思いっきり殴られたような感覚。


「私ね、向こうに大切にしたい人がいるんだ。だから、連絡先は交換できない…ごめんね」


彼氏がいるのだろうか。


多分、俺が呼び出す前に電話をしていた人だろう。


とても幸せそうだった。


だから、なんとなくわかっていたのだけれど。


優しい笑顔の彼女が好きだから。


「うん。わかった。また、何処かで会えたらいいな!慎之助達、待たせてるから…俺、帰るね。話せて嬉しかった」


無理矢理、笑顔をつくる。


「うん、また何処かでね」


彼女が笑う。


その笑顔が最後に見れて嬉しい。


彼女と別れて、慎之助達と合流する。


急遽一緒に帰ることになった芝山と国枝と別れ、小学生の頃から仲良し4人組でささやかな二次会をすることにした。


元々その予定ではあったんだけど。


国枝が合流した時、1名追加でいいのではと思った頃だった。


慎之助は自分の気持ちを押し殺し、国枝の片思いを応援したため、当初の予定通り4人で行うことになった。


晩御飯を食べにお店に向かう道中、俺はヤボ用と言って出かけた時のことを話した。


なんとなくわかっていたと3人に言われてしまった。


俺や啓太と正樹が、慎之助の気持ちに気づいていたように、俺の気持ちにも気づいていたらしい。


俺達は中学生まで共に過ごし、高校、大学はバラバラになってしまったけれど。


それでも月に1回くらいは集まっているぐらい、仲がいい。


なんと、啓太や正樹も小学生時代に好きな人がいたことを明かす。


4人とも初恋は悲しい結末へ終わったこともあり、パーッと二次会で弾けることにした。





「ちゃんと好きだったのになぁ」


お酒の力もあって、そんな言葉がポツリとでた。


そう、ちゃんと好きだったのだ。


俺はいい子な彼女を好きになったのであって、本当の彼女を見ていなかったのかもしれない。


彼女の大切にしたい人は、本当の彼女を知っていて、本当の彼女を好きでいてくれているかもしれない。


俺は表面的な彼女しか見ていなかった。


それでも。


俺の心臓は確実に鼓動を速めていて。


彼女を好きになったこの気持ちは本当だったんだ。


“私、中本くんが思ってる程、いい子じゃないよ”


お願いだから。


本当の彼女を知ったら、俺の気持ちが無くなるみたいな風に言わないで。


どんなきっかけであったとしても。


俺は彼女が好きだったんだ。


「…知ってるよ」


慎之助の優しい声に、俺は顔をあげた。


目の前の慎之助は優しく微笑んでいてくれた。


「お前の気持ち、ちゃーんとわかってるから」


慎之助の隣にいる正樹もそんな風に言ってくれて。


「俺たち、親友だからな!!」


隣にいた啓太に肩を組まれる。


なんだかおかしくて、俺は思わず笑ってしまった。


「なんだよー励ましてやってるのに!」


肩を組みながら啓太が不服そうな顔をする。


「幸せだなーと思ってさ」


3人が一気にキョトンとするが、すぐに笑いはじめた。


「僕も」


「俺も!!」


「啓太は年中幸せだろー?」


「まあな!正樹は幸せじゃねーのかよ?」


「ま、幸せだな。お前達といるなら」


「だよなー!!」


啓太が豪快に笑う。


俺の初恋は叶わなかったけれど。


もしかしたら、この先、彼女以上に魅力を感じる人が現れないかもしれない。


だけど…


自分のことを分かっていてくれて。


そして、見守ってくれる仲間がいるなら。


多分。


俺はこの先も笑って生きていける。


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