Introduction
薄いブルーに浮き雲がひとつふたつ散らばっている。
空特有の光沢のない透明は、快晴の今日はどことなく絵画じみていて、綺麗だけど現実味がない。クノラはあまりこういう景色が好きじゃなかった。ノイズのない作品より、少し淀んだ世界の方がなんとなく生きやすいから。
レザルカ学園の本校舎から体育館への道を、黒いローブを身に纏った若者たちが歩いていく。男女一列ずつに整然と揃った二本の線は、乱れることなく体育館へ入っていく。
男の列を構成する一人でありながら、クノラは完璧な隊形を崩さない自分たちをどこか他人事のように感じていた。まるで映画のようだ。計算し尽くされたワンシーン。唯一それを壊すのは髪をなびかせる風だけで、ここが外で良かったと密かに息をつく。直射日光は、まぁキツイのだが。
空は相変わらず、フィクションじみた青だ。
鑑賞するぶんにはいいんだけど。クノラは空を見ながら思う。自分と一緒に存在されるのは、ちょっと居心地が悪い。
そんな彼の心情など気にも留めず、列は体育館へと進む。中に入ると、そこには大勢の人の気配と、凛とした空気が張り詰めていた。
国立レザルカ魔法学園の卒業試験が、今日から始められる。
人類が、最初に「魔力」というもので意図した事象を起こしたのは、約三千年前だと言われている。
魔力とは自然界に存在する、一種のエネルギーのようなものである。物理法則を超越した出来事を起こせることは分かっているものの、その正体については未だ謎が多い。生物も持っているものなのかというと一概には言い切れず、植物の多くはその身に魔力を宿しているのだが、人間などの動物は宿していない。一説では、動物は進化の過程において運動能力を選んだために魔力を有していないとされているが、それも単なる仮説に過ぎない。
約三千年前、人類は植物を「コントロールする」という方法により、間接的に魔法を使うことに成功した。しかしその方法では、対象の植物を完全に操らなければならないので、当時の技術では一度に簡単な魔法一つしか出来ず、さらにその植物は大きな負担がかかるためか大抵は一度で枯れてしまった。加えて魔法の結果に見合わないほどの時間がかかり、この方法は結局実用化には至らなかった。余談だが、記録によるとこれに初めて成功した研究グループは、実験後、茶色く変色した植物たちに向かって「呪ってくれてかまわない」と叫び土下座をしたという。その魔法学の先駆者たちは、今日もレザルカ学園の正門前でブロンズの植物にブロンズで土下座している。
それから人間の魔法はどう進歩してきたかというと、実は最近までそれほど大きな発見はなかった。もちろん魔法学の研究は進められてきたものの、そうそう歴史を変える出来事など起こらなかったのだ。やっとそんな出来事が起こったのは、今から約二百年前。
人間が魔力を保有することに成功したのだ。
それは実験の末に起きた偶然の産物で、保有といっても後天的に無理矢理得たようなものだったが、魔力保有成功者七人は自らの意志で魔法を使うことも出来た。さらに、その後の魔力獲得の技術の向上と、魔力が子供に高確率で遺伝したことにより、現在では人類の七割以上が魔法を使えるようになっている。もっとも、「魔法より電気の方が疲れなくて楽」という理由から、そこまで世界に魔法は溢れていないが。
そうして人類が魔法を手にしたのと同時期。世界のいたるところで奇妙な生き物が発見された。動物のようでありながら魔力を宿す生き物たち。形や種族は様々だが、明らかに生態系の外からやってきたような生命体。彼らはまとめて「魔物」と呼ばれている。
魔物は知能が低いものや人語を解するものなどたくさんいるが、共通しているのは「魔力を持ち、人間に害を及ぼす」ということである。魔物は、縄張りを拡大するために都市を壊滅させ、農作物を荒らし、人間の生活を脅やかす。中には明確な意思を持って人間を襲うものもいた。当然人間たちは魔物を退治しようとしたのだが、残念なことに魔物はしぶとく普通の重火器などでは到底死なない。魔法攻撃はある程度効くのだが、科学技術に頼りきっている現代っ子の魔法なんざたかが知れている。
それでも、どうしても平和な世界のために魔物を倒さなくてはならない。人類の平和のため、各国の首脳たちが集まって話し合いがなされた。そこではたくさんの案が出た。対魔物専門の軍隊をつくる、人類対魔物で戦争を始める、いっそ魔物を支配下に置く……。しかし彼らが実際に行ったのは、新たな賞なるものをつくることであった。
「ブレイブ賞」と呼ばれるその賞は、その年で一番魔物討伐に力を入れた人物に贈られる賞である。この賞に受賞した人物は、一生遊んで暮らせるほどの金と、「勇者」という称号を与えられるのだ。
そして、メルシリナ共和国の首都であり、世界最大の都市といわれるこのレザルカでは。より優秀な勇者候補を育てるために、世界初の魔法学を取り入れた学園が設立された。それがここ、国立レザルカ魔法学園なのである。
本日、250名の若者たちがレザルカ学園を卒業すべく集まった。その250分の一人、クノラは無表情にため息をつく。桜の花が咲き始めた、快晴の三月のことである。
作者は経験値ゼロの完全初心者です。その上、執筆速度が異様に遅いです。かたつむりが100m進む間にやっとひと段落書くくらいの超絶スローペースでございます。生暖かい目で見ていたたければよろしいかと。
幼い日に誤って踏み潰したかたつむりに土下座しつつ、基本軽いノリで書いて行くつもりです。どうぞ軽いノリでお読みください。