始
駄文ですので軽い気持ちで読んでいただけると幸いです。
かつて親王サヴァが治める一つの大国が存在していた。そして、その国には人と呼ばれる生き物以外にもう一つ、知能をもつ種族がいた。人間たちはその生き物の名を竜と呼んだ。人と竜の寿命は同じ位だが、お互いの姿はとても異なっていた。硬い鱗に覆われ、鋭い牙や爪を持ち、火を吐く竜に比べて人間はあまりにも非力だった。けれども、人間には竜には無い創造する力を持っていた。家畜を飼い、作物を育て、家を作る。竜にはとてもまねすることは出来なかった。あるとき親王は竜の言葉で竜たちにに語りかけた。
「人に変わって木を倒し、水を汲み、火を起こしてはくれぬか。さすれば我々はそなた等にも我々が創造したもの全てを分け与えよう。どうであろう、手を取り合ってはくれぬであろうか」
竜たちは親王の問いかけに快く応じた。まず、人と竜が通じ合うために共通の言語を生みだした。そして、お互いを尊重しあい助け合うことで、この国はとても豊かになっていった。このままずっとこの関係が続いていくと誰もがそう思っていた。けれども、そううまくはいかなかったのだ。竜の力を恐れるものたちは決して少なくはなかった。やがて、その者達が集まり竜と共生ではなく管理していくという思想が生まれ国は混乱へと陥り、また、この思想を消すため多くの人と竜が親王を指導者として立ち上がった。
圧倒的な共生に理解ある人と竜の数の差の前にすぐに混乱は静まり、やがてこの思想を持つ者を卑屈の民{マハ}として差別の対象となっていった。こうして歪んだ形ではあるがようやく平和が訪れた。だがまだ卑屈の民の思想の灯火が消えることは無かった。親王には二人の子がいて、名を兄がタージャ、妹はサジャとした。二人はそれぞれ異なる国のあり方を考えていたのだが、そこが問題だった。サジャは父と同じく竜との共生を思い描いていた。しかし、一方で兄の思想は卑屈の民の意思や理想そのものだったのだ。彼は以前、この国での混乱での父の行動、選択には納得がいかなかった。だが彼は父に対して反旗を翻すことはせず、奥歯を噛み締めながらその場を耐えた。なぜならば、父がやがて死ぬ、そうすれば王位は自分のものとなる、その時に自分の思想を実現していけばよいとタージャはそう思っていたからだ。
やがて先の親王が崩御し、兄であるタージャが地位を後継する…筈だった。しかし、王位を継いだのは妹のサジャであった。親王は息子の思想をすでに見抜いていのだ。だからこそ王位の継承者を妹のサジャとした。タージャにとってこれは予想外の出来事であり、由々しき事態だ。これでは己の理想がさらに遠ざかってしまう。妹の統治が浸透するのを恐れた兄はすぐに行動を起こし、反旗を翻した。国を二分することを選んだ彼は、無理やり国境を引いた後、新たな国「レリェーゼ」建国を宣言した。
兵を全てマハで染め上げた王宮は竜への弾圧が始まろうとしている。しかし、新王となったタージャは悩んでいた。非力な人間がどう竜に対抗していけば良いのか、答えはすぐに見つかった。竜を卵、あるいは子供のうちに捕獲し調教し育て上げ繁殖させ、兵力として、そして労動力として管理することを考えた。管理と言う名の利用、家畜としての存在。しかし、竜も知能を持っている為激しく抵抗した、最初は決して上手くことはなかった。だが竜よりほんのわずか知能が優れていた人間は、様々な手段を使って仔竜達をさらっていった。そして、年を重ねる毎にその成果が現れ始め、捕らえられた仔竜は調教の結果、言葉を奪われ、人間に逆らうことも無く成長した竜はやがて人の望むまま仔を成した。こうして、この国での竜の家畜としての周期が完成したのだ。けれども、この事態に竜達は対抗することが出来なかった。それは王宮の防御力にある。タージャは竜の反撃を恐れ、要塞としての役割を担うとても強固な王宮を作り上げた。攻力には調教した竜を利用することを踏まえての判断だったのだろう。その判断が功を奏し、仔を奪われた親竜は竜としての誇りを失い、ただ利用される姿となってゆくのを涙を流し黙って見続けることしか出来ず、国民達も時が経つうちに竜への認識が家畜へとすり替わっていった。
この事実を知ったサジャは深く悲しみ、そして国の名を「エルン」と改め、竜との共生の理想をさらに深く強くしていくのだった。 二つの国が正反対の道を歩み始め、そして五百年の長い月日が流れた今、完全に分離した国々は新しい歴史を迎えようとしている。
風が吹き、稲穂が揺れ、木の葉が空へと舞う。秋の香りが深まりつつあるエルンの小さな村を駆ける小さな二つの影、一つの影は人の子、もう一つの影は高さは同じだが小さな角や翼、可愛らしい尻尾も見てとれる。そんな二つの影は村中を駆け回り、やがて丘へとたどり着いた。先に到着した人の子は振り返り、すこし間を置いた後、もう一匹が到着したのだが、後から来た方はやや疲れた表情をしている。
「ラズ、竜なんだからそれぐらいでバテないでよ」
目の前で疲れている竜を見た少年は笑顔混じりに喝をいれた。ラズと呼ばれた仔竜は息を荒げながらも顔を上げ少年を見る。その表情は少々不機嫌染みている。
「竜は走るのが苦手なの分かってるでしょ、ルフの意地悪……」
そしてラズは顔を俯け愚図ってしまった。けれどもルフと呼ばれた少年は同様する様子も無くやれやれと言った様子でラズに駆け寄る。どうやらこのやり取りは頻繁に行われているらしい。
「ごめんごめん。竜は飛ぶ方が得意だもんね、ちゃんと分かってるよラズ」
ルフはラズの顔を覗き込み、しゃがみながら謝った。愚図ったラズをなだめて、彼らは丘の先端まで移動し、そして、座り込み話し始める。昨日の晩御飯のこと、村を走り回って気づいたこ感じたこと、そして未来のこと。そんな会話をしているうちすぐに時間が過ぎ、日は傾き始める。
「どうかな、そろそろ飛べそう?」
「まだ時間がかかりそうかな……今はまだすこし浮くので精一杯だよ」
「ラズならすぐ飛べるようになるよ」
「うん!僕、がんばるよ。その時は絶対ルフを背中に乗せてあげるからね」
「分かった。約束だよ」
竜は平均的に十の年で飛べるようになる。また、人を乗せて飛ぶとなるとなおさらさらに時間がかかる。二人はまだ七の年になったばかりで、彼らの約束が実現するのは当分先になりそうだ。夕日が沈み始め、二人をより赤く照らし出す。彼らは毎日のように村を駆け、日が暮れるまで話していた。今日もまた、いつもと同じようにいつも通りの時間が過ぎていく。やがて日が落ち、星が輝きだす頃、ようやく帰路に立ち、ルフはラズに別れを告げ自分達の家へと帰っていった。そしてその夜、夕食を終えてルフは母親と話していた。
「今日もラズ君と話してたの?」
母はルフに尋ねる。ルフは嬉しそうに答えた。
「そうだよ、駄目かな?」
そう尋ね返すルフに対して母は優しく微笑んだ。
「違うわ。毎日何を話してるのかなって思ったの」
それを聞いたルフは少し照れながらも答えた。
「父さんたちのことさ、いつか父さんとラズのお父さんみたいな飛竜乗りになりたいなって…」
ルフとラズの父親は宮の飛竜乗りとして仕えている。しかし、宮はこの村から離れているために家へはめったに帰ってこない。けれどもルフやラズにとっての父親の背中は、おぼろげながらもはっきりと色濃く残っている。それが、彼らにとっての誇りであり夢でもあった。恥ずかしがる態度を見せるルフに対して母は息子の頭を撫でた。
「じゃあこれからもラズ君と仲良くしなくちゃ駄目よ?」
「もちろん!」
話が終わり、家の灯りは消え、ルフは眠りに着いた。
ラズとは幼馴染で父親つながりで知り合った。最初はおどおどしていたものの、お互いの父親への憧れに意気投合した。彼らはすぐに打ち解い、それ以降、家同士が近いこともあってか二人は一緒に行動するようになった今では親友と呼べる仲だ。彼らにとってはいつか成長し丘の上で語り合った自分達の思い描いた姿に近づいていく、ただそれだけ彼らは毎日が楽しくて仕方なかった。
二ヶ月後、彼らは普段通り丘への道を歩いていると近くの草原の一部が沈んでいた。気になった二人は近づいてみると、そこには一匹のメスの仔竜が倒れていた。見た所どうやらルフとラズよりも年上の様だが、それでもまだ身体はまだ幼さを残していた。見慣れない光景にお互いに顔を合わせ、どうして良いか分からなくなってしまった。
「ねぇラズ、これって助けたほうがいいのかな?」
「えっ!でもこの仔、この辺に住んでる仔じゃないよ」
「だけど、見過ごすことは出来ないよ…」
二人はなかなか助けを呼ぶことが出来なかった。彼らの両親からは「知らない者には関わらない」と強く念を押されている。それは、子供達にもしもの事が無いようにする為の最低限の配慮だった。しかし、放って置くことが出来なかった彼らはとりあえず母親達に相談してみることにし、来た道を大急ぎで戻っていった。暫くして母親達を連れて戻ってくると、すぐその場所に案内した。流石に大人たちもこの状況には少々戸惑っているのが表情から見て取れた。自分達には分からなかったが、彼女達にはこの仔竜についての大体の見当がついているようだ。少しの間が空いた後、ルフの母親が口を開いた。
「ねぇサニア?この仔もしかして…」
「そうね。でも今はとりあえず家に運びましょう。目立った傷は無いみたいだし、この寒さは竜にとっても厳しいわ。ミーシャ、持ってきた毛布を貸して」
そう言い終えるとルフの母親、ミーシャがあらかじめ用意しておいた大きな布で仔竜を包み上げ、ラズの母親、サニアがそれを抱き上げた。サニアは毛布に包まれた仔竜を抱いたまま背中の翼を広げ羽ばたくとサニアの体が浮き始た。羽ばたく毎に周りの草木が激しく揺れ、徐々に高度をあげていく、一定の高さまで上昇するとサニアは地上の三人に語りかけた。
「とりあえず私は先に戻ってるわ!」
「わかったわ!その仔をよろしくお願いね」
サニアは頷くと視線を進行方向に変え、村へと向かい始めた。女性とはいえ竜である彼女、その姿すぐに小さくなっていく。ある程度見送った後、ミーシャも残された子供達に目を向け呼びかける。
「さあ私達も帰りましょう」
「うん……」
彼女の言葉にルフだけが返事をし、ラズは心配な顔つきのまま黙って頷いた。
十五刻(一刻=一分)程経ち、それぞれが家へと到着した。ひとまず自宅へと戻ったルフとミーシャは仔竜の容態を確認しにラズとサニアの元へと向かった。ラズにサニアの元まで案内してもらうと、そこで彼女は暖炉の前でやさしく仔竜を温めていた。三人は仔竜の容態を確認するためにサニアの元まで近づいき、サニアの腕の高さに届かない二人は一生懸命背伸びをしている。先に暖炉で暖められていた仔竜は当初と比べると、だいぶ表情が穏やかになっていた。仔竜の様子に安心したミーシャは目の前にいる子供達に話しかけた。
「とりあえずは大丈夫そうね。さあその仔の為にご飯を作らないといけないわね!二人ともお使いよろしくね」
「「はーい!」」
ルフとラズはミーシャからお金を受け取ると元気よく飛び出していった。ミーシャは二人を見送り家の中へ戻るがその表情はとても神妙なもので、サニアにはその理由が分かっていた。お互いに話が切り出せないまま沈黙が流れる。やがて、ようやくミーシャがその沈黙を破った。
「ねえサニア。その仔の首にあるのって……」
彼女の視線の先にあったのは仔竜の首元あるすす汚れた首輪だ。そして、今度はミーシャが話し終える前にサニアが口を開いた。
「そうね、この首輪は人に飼われていた証。この仔はレリェーゼから来た……。つまり隣の国から逃げてきた亡命者。」
「やっぱりそうなのね……。見たところ衰弱しているだけみたいだけれど、目立った傷が無いのが気になるのよ。亡命してきたとはとても思えないわ……」
「まずは話を聞いてみないことにはね。だけど、レリェーぜの竜は言葉を失っているとも言われているから話が通じるかも分からない…。これは正しい行動ではないかもしれない、本当は見捨てておくべきだったのかもしれないけれど、でもまだこの仔は子供。同属の母として放ってはおけなかったの。ごめんなさい、これは私のわがままよ……」
サニアはミーシャに謝ると、そのまま目を閉じ俯いてしまった。しかし、ミーシャは彼女を攻めたりすることはしない。ミーシャ本人もその仔竜を見捨てておくことは出来ないからだ。ミーシャはサニアに歩み寄って語りかける。
「顔を上げて、私だって母親よ。子供を放っておけるわけないじゃない。私だって同じ気持ちよ」
「ありがとう……、ミーシャ」
サニアの顔に笑みが戻り、彼女らの間の緊張が和らいだ瞬間、サニアがふと腕に違和感を感じた。視線を腕に移すと、先ほどまで眠っていた仔竜がゆっくりと瞼を上げ、目を覚まそうとしていたのだった。
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続きは気分しだいで書く予定です。




