Story.0 プロローグ
暗い森の中、逃げ惑う1人の少女がいた。
この日は朝から曇りで、昼からは雨が振り、夜はその雨がどしゃ降りに変わっていた。
深夜、その雨は変わらず振り注いで月など見えるはずはない。
そんな状況では足場はもはや、どこに何があるのかすら分からない。
「はぁはぁはぁはぁ…」
余程走って来たのか、息はかなり上がっている。
「なんで…なんで…」
先ほどから小さく呟いては、涙を拭う。
しかし命運は尽きた。
涙で余計に見えなくなり、とうとう石につまずき転んでしまった。
「きゃあ!」
少女は甲高く悲鳴をあげた。
今まで少女を追いかけていた、黒く人より二回りは図体のデカイものが、その声に反応する。
その黒いものは、鼻が利くのか目が見えるのか、ゆっくりだが確実に、少女に近づいていく。
「……謎の物体に殺されるなんて…惨めな終わりかた」
半ばやけになった少女は、恐怖心がなくなったのか諦め、地べたに寝転ぶ。長いサラサラの髪は雨と汗でぐっしょりだ。
「ったく、アイツは何やってんのよ。途中ではぐれやがって!」
誰かと一緒にいたのだろう。“アイツ”に怒りをぶつけてから、目をきつく閉じた。
その間にも黒いものは少女との距離を縮める。
『ガサガサ、ガサッ!』
図体のデカイそいつは木の葉を押し退け…。
『ブンッ!』
太い腕を少女目がけて振り下ろした。
『ドス…』
鈍い音が響く。
しかし少女には何の変化もなし。
「あ…れ……?」
何が何だか分からず、目を開ける。
が、何も見えない。
『ドスッ!』
「ひゃあ!!!」
左の横腹の近く、何かが刺さった。
すぐ動こうとしたが、服も一緒に刺されたらしく身動きがとれない。
「動くな」
低く澄んだ男の声が聞こえた。
その時なぜか雨が上がり、雲の切れ間に月が顔を出す。
「だれ…?」
少女のすぐ傍には、金髪の長身の男が立っていた…――。