遥かな紫の雲。
空が暗くなり、雪が降り出していった。何とも言えない雲の色だった。紫の雲が、細くたなびいていた。何処からともなく、雪が降り出していた。3月なのに、雲もない空から、粉雪が後から、後から、絶望の気持ちで、見上げていた。俺は、車に乗せた親子を、親子たっての願いで、近くの体育館まで、乗せて行った。広い校庭には、何処からともなく、集まった車や人、消防やパトカーが後から、後から、集まってきていた。もう一度、車を出そうとした。
「止めた方がいいです。」
乗せてきた母親が駆け寄ってきた。
「もう、あの場所は、津波が来て・・。」
窓越しに、必死に訴えていた。
「行かないでください。」
「人を・・。」
動揺していた。声ががらがらだった。
「人を助けに行きたいんです。」
「ごめんなさいね。私たちのせいで・・。」
母親のクチャクチャになった顔が、ゆがんでいた。涙がこぼれていた。
「私たちは、お蔭で助かったんだけど・・。」
「どうしても、行きたいから・・。」
俺は、そう言って、軽く会釈をすると、車を出した。何とかして、少しでも、莉子の所に近づきたい。何処か、避難所に居るかもしれない。急に、ひょこり現われるかもしれない。携帯を脇に置き、運転していた。携帯の、電池も残りが少なくなっていた。新しい携帯、スマホに替えたばかりで、充電をしらせるライトが付いていた。莉子を連絡をとりたい。何回、電話しても、プップップと、発信音が鳴るだけで、彼女が出る事はなかった。やがて、辺りは、闇に包まれていった。不気味だった。。何もない。停電だ。電気がない初めての夜。闇に包まれた荒野と化したあたり一面。時折、避難してきた人と、すれ違った。今度は、誰も、乗せないと心に決め、進む事にしたが、その夜、遅く、この避難所に戻る事になった。莉子の自宅には、たどり着けなかった。行く手を、泥と水が、阻んだ。ギリギリまで、向かおうとした。車から、降り、向かおうとした所を、避難してきた人に止められた。
「戻った方がいい。」
人々は、口ぐちに何もない事を告げた。闇が落ちてくる。人を探しているというと、明るくなった明日にした方がいいと、誰もが言った。それでも、何度も、前に進もうとする。結局、少年2人を、車にのせ、避難所で、夜を明かした。不気味な揺れが何度も襲ってくる。もう、携帯の電池は切れていた。誰とも、連絡がとれない。この時の俺は、親がどんなに、自分を心配しているかなんて、考えられなかった。莉子だけが、心配だった。朝になれば、絶対、逢える。それが、難しいと知ったのは、辺りが明るくなり、広大に広がった海水を見た時だった。まだ、水も、引かず、泥水が、辺り一面に満ちていた。莉子の自宅に近づけたのは、それから、1週間後だった。高台にあった莉子の家は、その津波の規模を、物語っていた。1階は、ほぼ、浸水し、2階だけが、残っていた。人影をみつけ、近寄ると、莉子のおふくろさんと親父さんが、片付をしてる所だった。