アレクを託します。
莉子は、自宅に向かって、車を走らせていた。信号は、先ほどの揺れで、停電の為、動いてなかった。なかなか、思うように車は、前に進めない。焦りながら、自宅のアレクや同じ震災にあったであろう皇成の事が気になっていた。
「あたしは、大丈夫」
今も、心配しているであろう皇成にメールを打つことが出来た。震災で、彼を婚約者として、紹介する時は、少し、のびるかもしれない。でも、きっと、落ち着いたら、今日の続きが出来る。皇成と、買い物したち、食事したり、平穏な日々を取り戻す事が出来ると、思っていた。すぐ家に戻って、アレクの様子を見よう。きっと、棚の物も落ちているだろう。家を片付け、皇成を呼ぼう。莉子は、家路を急いでいた。いつもなら、通らない道を、左折して行ったのを知人が見ていた。赤い四駆の車が、浜辺に向かって行ったのを何人かが見ていた。高台にある自宅を目指していく途中、それは、何処ともなく訪れた。最初は、後方から、迫ったようだった。気づいた時、前からも、波が来ていた。まだ、低い波だった。四駆の車なら、逃げ切れると思ったのだろう。田畑の中を走り抜け、波から、逃げていた。絶対、大丈夫。莉子は、思った。途中、アレクの声を聴いたような気がした。見ると、繋がれた子犬の姿が目に入った。
「アレク?」
アレクでは、なかった。波がせまる中で、リードにつながれた子犬が、震えていた。莉子は、迷わなかった。このまま、行けば、助けるかもしれないのに、車から、降りた。リードから、子犬を離し、車に連れ戻った時、車内に、水が流れ込んでいた。
「皇犀・・。」
諦めない。莉子は、思った。片手で、メールを打った。子犬を抱え、万に一つの希望を持ち、走る事にした。少しでも、高い所へ・・。逃げるのだ。皇成に逢う為に。水は、もの凄いスピードで、嵩を増してきた。途中、冷蔵庫が流れてきた。
「お前は、ここで・・。」
ここなら、子犬1匹助かるかもしれない。子犬を、乗せた。携帯を握りながら、頭の事は、皇犀の事で一杯だった。
「生きたい・・。」
皇犀と。普通に結婚して、子供を産みたかった。歌が歌えればいい。いつも、そう思っていた。日当たりのいいベランダで、アレクと皇犀とじゃれあう日々・・。そこに、小さな二人の子供。それが、夢だった。豊でなくても、その時間があればいい。そう思っていたのに・・。
「もう・・。」
莉子の胸まで、水が増えていった。
「皇犀・・。お願い。」
アレクはどう、しているのだろう?きっと、逃げてくれている。リードを繋いでいないのだから、きっと、逃げているはず。莉子は、願った。最後のメールを打ち、莉子は、アレクを皇犀に託した。