プルメリアの約束。
その極最初の揺れは、車の中の莉子にも、伝わっていた。莉子は、皇成との待ち合わせに間に合うように、国道を一直線に向かっていた。
「遅くなっちゃった・・。」
急な外出に、飼い犬の、アレクが、なかなか外に出たがらなかった。最近よくある地震に、敏感になっており、一人での(一匹?)の留守番を嫌がっていた。母親は、夜に備えての買い物に出ていた。父親は仕事で、夜まで、帰らない。大型犬のアレクを無理やり、庭に出し、車に飛び乗った。何を着ていくか、考える暇もなかった。
「まぁ・・。いいよね。」
呟きながら、昨日、皇成にもらった薬指の指輪を撫でた。何を着ていても、皇成は、ほめてくれる。心が温かくなった。信号で、とまった時、揺れに気づいた。隣のタンクローリー車が、こちらに倒れそうなくらい揺れていた。あの恐ろしい緊急地震速報が鳴り響いた瞬間だった。
「何?」
初めて、携帯から、流れる音に、心臓が凍りついた。
「怖い!」
車の中から、辺りを見渡した。丁度、大きな交差点だった。車が、激しく揺れていた。止まっているのに、動き出しそうだった。歩道にいる人たちが、座り込んでいた。ハンドルを握りしめ、姿勢を低くした。このまま、隣の車に押しつぶされるかと思っていた。
「嫌!」
1回目の揺れは収まった時、莉子は、車から、飛び出していた。誰もがそうしていた。
「こんなのって?」
誰かが叫んだ。その時。また、揺れが来た。長い揺れの中、頭の中は、皇成の事で一杯だった。今、きっと、皇成は、駅前に居る。あの人ごみの中、どうしているのか・・。揺れが収まると、すぐ、携帯をかけたが、つながらなかった。
「どうして?」
誰もが、同じように、携帯を握りしめていた。
「皇犀・・。」
手が震えていた。大丈夫なのか?同じように、皇成も自分の事を心配しているだろう。
「あたしは、大丈夫。」
莉子は、メールした。このまま、皇犀の元へ急ごう。そう思って、車に乗ったが、どの車も、動けなかった。
「何があったんです?」
同じ顔を出していた前のドライバーに声をかけた。
「信号が・・。」
停電していた。大きな揺れで、発電所が止まっていた。国道全て、否、全ての電気が止まっていた。車は、動かず、大渋滞になっていた。
「大変な事になった・・。」
莉子は、唇をかんだ。このまま、皇成に逢いに行くのは、難しいだろう。ふと、莉子は、家に、残してきたアレクの事が、気になった。前日の地震で、脱走して、ご近所に迷惑をかけたばかりである。こんな大きな揺れで、また、脱走したのではないか?莉子は、アレクの様子を見に、自宅に戻る事にした。皇成も、実家の店に顔を出さなくてはならないだろう。反発していても、親子なのである。この揺れで、店内は、大変な事になっているだろう。
「また、落ち着いたら、連絡する。」
皇犀の返事を待たず、莉子は、メールしていた。はやく、アレクを助けに行かなきゃ。莉子は、少しずつ、動き出した車を、家路に向かって、ハンドルを切っていた。薬指には、皇成からもらった、大好きなプルメリアの指輪が、光っていた。K to R と彫られた指輪が、後に皇犀の元に届けられる事になる。