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記憶の中の瞳。

その日は、3月にしては、珍しくよく晴れた日の午後だった。仙台は、海からの風が冷たい。いつもなら、薄い光なのだが、温かく、姉と待ち合わせをして、一人である国は、最高の天気だった。いつもなら、買い物で、先を急ぐ人たちで、あわただしい街も、静かだった。あんな事があったから・・。若葉は、大通りの真ん中で、空を見上げた。案の定、雑誌にも、載っていたクラブは、昼間のせいもあって、閉まっていた。ドアの所に、貼り紙が貼ってあり、それは、しばらく休む事を告げていた。

「ここも、だめか・・。」

何店舗か、コーヒーショップとコンビニが、開いていたが、他のビルは、静かだった。時折、見かけるのは、掃除をしている人たちだった。

「もう少し・・。」

そう、この先の街角で、歌っていると聞いた。まさか、こんな時に、それは、ないと思いながらも、期待があった。間違いなく、自分好みの容姿を持つ、ボーカルだった。

「進学は?」

母によく言われていた。よく考えていなかった。大好きなデザインの道に行きたいと思っていた。だが、母には、反対されていた。

「やっていけないよ。」

母の口癖だった。母は、それなりに、出来る若葉を、医療の道に進めたかった。

「考えたくない。」

若葉は、突っぱねた。音楽をやりたい。だから、皇犀の生き方に憧れた。老舗の和菓子の跡継ぎで、ありながら、その道を捨て、ライブを行い。インディーズで、成功したボーカリスト。その伝説だけが、一人歩きしていた。とうの、皇犀とは、まったく、人物像が変わっていた。街は、静かだった。行きかう人は、まばらで・・。若葉は、じっと、していた。歌が聞こえてくるような気がした。

「居る訳ないか・・。」

若葉は、ちっと、舌うちした。歌が聞こえてくる。そんな気がして、じっと、目を凝らしていた。

居たのは、一人の若い男性だった。背は、若葉より、ずっと、高い。髪は、ボサボサで、1匹の、犬を連れていた。よく馴れたゴールデンで、この飼い主を心配している様子が、よく判った。覇気もなく、どこか、疲れ果て、弱弱しく見えた。

「あの・・。」

声をかけようか、迷った。若い男は、今にも、倒れそうで、ふとした拍子に、膝をつき、転びそうになった。

「大丈夫ですか?」

思わず、肩に手を置いた。ゴールデンは愛おしそうな目で、見上げた。その若い男の顔は、どこかで、見覚えがあった。

「あ・・。」

小さな声をあげてしまった。この瞳を随分、前から、知っているそんな気がしていた。


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