表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/29

杜の復活。

歌うよ・・。なんて、言って急に、人前で、歌える訳はない。俺、自身あの頃とは違うし、世界も変わっていた。昔、立っていたあの街角に、いるだけで、不思議な錯覚が、訪れていた。ただ・・。歌う為だけでなく、その場に立ちすくす・・。時間だけが、逆行し、あの頃が、戻ってきた。夏の暑い日の夕方、歌い疲れた俺に、莉子が差し出してくれた炭酸の味が、思い出された。全て、この街角で、起こり、終わっていった。

「歌わなくても・・。」

いい。行きかう人達は、どこか、見た事のある人だった。

「おお!皇犀!」

よく行っていた定食屋の、晶さんだった。

「無事だったか?」

「晶さん・・。」

声が詰まった。

「散々だったよ・・。俺の店も、お前んとこは?」

声を聴いて、悔しい事に涙が出そうになった。

「なんだよ・・。お前まで。」

「いや・・。嬉しくて。」

莉子が居なくなった事は言えそうにない。

「歌う気になったのか?もう、お前は、歌わなくなったって、誰かが言っていたぞ。」

「あぁ・・。噂でしょ。」

俺は、打ち消した。

「せっかく、いいところまで、言っていたんだろう?デビューするって、聞いていた。」

「そうだったね。」

過去形に、驚いた。自分の中で、歌う事が過去になっていたのか・・。

「お前はさ・・。商売する程、賢くもないんだから・・。歌えよ。」

「酷いな。」

俺は、笑った。しばらくぶりだった。

「おぉ!晶さん。」

晶さんのばか声に、行きかう人の中から、知り合いが、顔を出し始めた。

「もう、声が大きすぎ・・。」

「バカ言え!俺は、ファン1号だろう。お前の復活を願ってんの。」

ドンと背中を叩かれた。

「皇犀!もう、歌わねぇの?」

新たに、加わった通行人が声を出した。

「こんな時こそ、歌えや。」

ちょっとした盛り上がりだった。

「あの、達はどうした?変な恰好した奴らは?」

「こいつ、ベソベソしてたから、見捨てられたんだよ。」

代わりに、晶さんが、答えた。

「まったく・・。」

俺は、路地に腰かけた。

「聞いてよ。」

ようやく、声を出した。ようやく歌ってみる。1曲だけ・・。今日から、俺は、復活する。この杜の都とともに・・。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ