莉子・若葉・凜香・・・と。
時々、アレクの様子を見に来る人達がいる。それは、莉子の両親を除いてである。莉子の両親は、アレクを通して、俺に逢いに来ているようだった。
「本当なら、もう、息子になっていたのにね・・。」
寂しそうに言う莉子のお袋さんの横顔が、忘れられない。いつまでも、莉子の両親と逢う俺を姉貴は嫌がった。
「もうさ・・。」
姉貴は、いつだって、クールだ。母親が、亡くなった時、泣き顔を見る事は、なかった。
「アレクを返したら。」
「それは、無理だよ。」
もう、離れられない。家族になっていた。そのアレクの様子を見に来るのが、杜の木動物病院の院長と、その娘、凜香だった。一番最初に、アレクを診てもらってから、何回目かに、院長の忘れ物を届けてもらってから、凜香も、来るようになっていた。
「随分、元気になったね。」
動物病院の娘らしく生き物は、大好きだと言っていた。
「最初は、どうなるかと、思っていたの。正直・・。飼い主さんも。」
凜香は、不思議な娘だった。子供も、生き物達も・・。そして、この杜の木々も・・。凜香の声に応えているようだった。
「頭が悪くて・・。」
獣医は、無理と言って、トリマーの道を進んでいた。
「それで・・。この地震でしょ。」
卒業して、父親の動物病院内で、トリミングもやるつもりだったらしい。
「でも、余計にやらなきゃって、思えたの。たくさんの動物達を助けたいって。あたしに出来るのは、カットぐらいなんだけどね。」
アレクに語りかけるように、話しかける。
「もう、お前のご主人様は、元気になったの?」
「俺の事?」
「そうでも、ないみたいね・・。」
凜香は、笑った。ずっと、年下の妹みたいな奴と思っていた。姉貴が、会話に割って入る。
「歌続ければいいのに・・。」
しきりに言う。
「歌を歌っていたんですか?」
「そうよ。親の反対を押し切ってまで、やっていた癖に、もう、歌えないんだって。そんなもん、だったんだよね。」
「それはさ!」
思わず、かっとなってしまった。
・・・莉子がいないだろ!・・・
喉元に、言葉が、思いがこみ上げた。
「ショックだったんですよね・・。」
凜香が、俺の気持ちに寄り添った。
「皇犀は、そんな感傷的な子じゃないよ。」
姉貴が、反論した。
「彼女の事を、忘れたくないなら、歌いな!」
「無理だって・・。」
「お姉さん・・。皇犀さんは、そんなに、強くないんですって・・。男の人って、意外と、繊細だから・・。」
もう、立場がなかった。俺は、アレクのリードを放り投げ、部屋に、戻ろうとした。
「でも・・。」
凜香が言った。
「聞いて、みたいです。皇犀さんの声。」
一瞬、昨日、逢った女の子の姿が見えた。
「そうだよね・・。」
俺は、ポツリと言った。
「歌って、みるよ・・・。」
莉子。応援してくれ。あの街角に立つから・・。忘れたくないから、歌う。莉子の歌を。




