哀しみは、歌に。
街は、生き返ろうとしていた。大切な誰かを亡くしてしまった人達も、少しずつ、前へ向かっていた。子供達は、本当は、自分達も、不安で仕方がないのに、元気のない親達を、助けるように、立ち上がっていった。暗く沈んだ避難所で、子供たちが、アニメの歌に、元気を取り戻していく姿を見た。子供達は、凄い。大人達より、現実を受け入れ、前へ進み、生きようとしていた。枯れ果てた大地の下に、新芽が、息づいていくのと同じに、この杜の都は、生き返ろうとしていた。否・・。生き返らなければならない。たくさんの哀しみ以上に、光を、取り戻さなくてはならない。生きたくても、生きれなかった人の為にも。それなのに、俺は、情けない、感情的な、男になっていた。去っていった友の後を追う事も出来ず、誰を探す当てもなく、避難所を行き来していた。何も、考えず、ボランティアに撤していた。食糧を配ったり、水を運んだり、体を動かしていれば、何も、考えずに、済んだ。夜、眠るまでは・・・。
「皇犀・・。」
姉貴が耐えかねて言った。
「歌うたいなよ。」
「はぁ?」
震災で、部屋のあちこちが痛んでいたので、姉貴と俺は、1階に、寝ていた。
「もう・・。こっちまで、まいるよ。」
「何が?」
「泣くなよ。」
夢の中で、毎晩、泣いていたのだ。
「歌いたいんでしょう?」
歌うと、莉子が、甦ってきて、切なくなる。
「歌えないんだ。」
「辛いから?」
俺は、黙った。
「バカね。どっちみち、辛いんじゃない。見ているこっちまで、辛くなってくる。辛いのを通り越して、痛々しい。哀れで仕方なくなってくる。歌いたいなら、歌いなさいよ。」
「姉貴には、わからないよ。」
「何、言ってるの?今や、みんな哀しいの。哀しくない人なんか、いない。みんな誰かを亡くしているの。」
「・・・」
「皇犀。何が、出来るの?あなたが、莉子の生きた意味を作るの。今のあなたは、莉子を悲しませるだけ・・。」
姉貴は、泣いていた。姉貴を泣かせてしまった自分が、辛くなった。
「莉子を生かさせるの。歌で。あなたが、莉子を作るの。」
「出来ないよ。」
「時間がかかってもいいから・・。皇犀・・。」
「わかった・・。」
姉貴を泣かせたくなくて、そう答えた。自信はない。莉子の思いを歌にするなんて、事は、出来ないと思った。そんな感傷的な歌を作る事も、歌う事も、出来る訳がない。
「少し・・。出てくる。」
俺は、アレクのリードを持った。
「すぐ、戻るから・・。」
俺の気持ちを察したアレクが、鼻ずらを押し付けてきた。じめっと、湿った鼻が、優しかった。
「散歩行くから・・。」
「商店街は、いろいろ落ちていて危険だから、気をつけろ。」
親父が、ぼそっと、言った。3月なのに、まだまだ、寒い東北の冬だった。