その日、3月11日・・・①。
現在する都市名が出てきますが、話とは、関係がありません。ノンフィクションとなっております。
きっと、そうだった。あの日が、来るまで、ボンヤリ暮らしていた。親に敷かれたレールの上を生きてきた。ままならない、運命に逆らいながら、家を継ぐ気にもならず、音楽に身を委ねる事で、ごまかして生きていた。嫌・・。ごまかして生きていたのは、自分を誤魔化していた。音楽がやりたかった。バンドで、ボーカルをやりながら、インディーズで、ちょっと、売れてきた事で、少し、天狗になっていた。親に認められたかった。けど、老舗・菓子店の暖簾は、俺が思うより、重く両親の肩にのしかかり、跡取りを申し分なく育てるという事に神経質になっていた。つまり、俺は、やりたい事を認められない反抗心の強いバカ息子という事になる。そうあの日までは・・・。菓子店の、修行なんて、ばからしく、金をかけて、料理学校を出た俺は、やっぱり半端もので、店の手伝いもせずに、音楽に明け暮れていた。
「彼女と一緒になりだと・・?」
親父に怒鳴られた。同じバンドで、長い付き合いの莉子と結婚したいと言った途端だった。
「仕事もろくにできない奴が何をいってるか!」
祖父母達に遠慮してか、もの凄い剣幕だ。
「家なんて、継ぐ気はない。」
「まだ、言うか!」
親父と俺の喧嘩は、日常茶飯事だ。店のお弟子さんたちも、俺と目も合わせない。
「誰か、探してくれよ。俺は、俺で、生きる方法を考える。」
そうさ・・。仕事も、一緒になる女も、自分で決める。莉子がいい。ずーっと、そう決めていた。もう、プロポーズもした。生活費の為に、クラブのバイトだって、入れてる。甘ったるい菓子作りなんて、性に合わない。そう、決めていた。あの日・・。誰しも、日本の人達が忘れられない瞬間が訪れる。3月11日。この杜の都は、かつてない震度7の地震に襲われる。俺の運命も、莉子の運命も・・。全て、変わってしまう事になる。
杜の都・仙台は美しい街です。震災で、大変なめにあいました。復興を強く望み、また、震災で亡くなられた方にご冥福をお祈り申し上げます。