肉球診療所
明日から夏休み~! 高校入って初めての夏休み~! 当たり前か1年生だもんね。
「さて、どこ行きますか? ミナさん? 海ですか? それともプール?」
マイクを持つようにして、レポーター風に友達のミナにふざけてみました。
ワタシは、西 あや
「もう~あやったら~宿題もあるんだからね」
ミナは、しっかり屋さんである。
「はい、はい分かってますって。その時はよろしく!」
まだ始まってもない夏休み。でもワタシにとっては学校が終わった時点で夏休み! もう、今すぐどこかに行きたいです。
「それでは、行きましょうか? あや」
ミナは、眼鏡を掛け直し呼吸を整えた。
「肉球診療所に……」
「はぁ? なに? 肉球診療所? って病院ですか~? どっか悪いのミナ? いくら冗談とは言え夏休みに病院はないでしょう」
ワタシは、ミナの顔を覗き込んだ。
「行くわよ! 3日後にね。もう~ちゃんと予定空けといてよね~」
ミナと別れ帰宅した。
「肉球診療所っと……検索!」
説明も無くミナが行ってしまったので、ちょっと調べてみた。でも、出て来るのは「猫の肉球」の事しかないし……もしかして、なんかサプライズを用意してるのかな? 病院で? それは3日後には分かる事だし。ワタシは、今年買った新しい水着を眺めていた。
「かわいい~」
2日間は、他の友達とプールに行っていい感じに焼け始めていた。UVケアは抜け目なく。
「あら、ミナちゃん。いらっしゃい」
ミナがワタシをむかえに来た。持ち物はこれだけ? と言うぐらい少ないので、すぐ帰って来るんだなって思った。
「ねえ~肉球診療所ってなに? ねえ、ねえ?」
「水着は、いらないところね~」
遊ぶところじゃないの? ちょっぴりがっかりした。診療所だし……
ワタシたちは、バスに乗って電車を乗り継ぎして最後には、フェリー? に乗って……
「ちょっと、ミナ!? どこ行くのよ~」
「肉球診療所よ! いいから私について来て」
船の前方にそんなに大きくない島が見えてきた。
「あそこに診療所があるのね」
ミナは、頭をかるく下げワタシの質問に答えた。
船が港に着き、ワタシは一番に上陸した。
「いっちば~ん! ミナ遅いよ~」
「あや~こっちだよ~! こっち~! お~い!」
気が付くと、すご~く小さくなったミナが手を振っていた。……じゃなくて、ワタシがはしゃぎ過ぎ?
「待ってよ~ミナ~! あやちゃんスーパーダッシュ~! ダダダダダダダッ~! もう~競技場のトラック1周分ぐらいあるんじゃない!?」
アニメみたいな技はないけれど、何か言わないとこの距離を戻るには、すごくめんどくさ~いのです。
「はあ、はあ、はあ~疲れた~ちょっと休ませて~」
全力疾走でミナのところまで戻ってきた。もう大の字になりたいぐらい体力を消耗した。
「はい……もう~何やってるのよ~」
ミナは、ワタシのほっぺに、ぴたっ! と冷たいジュースをくっ付けた。
「冷たっ! ありがとねミナ」
なんて気が利く友達なんだろうと思いながら一気にジュースを飲み干した。しばらくそこで休んで、港から出て行く船を眺めていた。
「さあ、そろそろ行きますか? あや」
「うん、ごめんね~まだスタート地点だね……ははは」
気を取り直して2人は歩き出した。
「けっこう~思ったよりも大きな島だね」
「そうね~私も初めて来たんだけど」
ワタシがミナにするどいつっ込みを入れたのは言うまでもない。
「初めてって……じゃなんでこっちって→分かったのよ」
「だって~看板があったから」
しっかり者の友達がいると安心だよね。ミナ様、ミナ様~なんて思いながら海岸沿いを歩いていく。
「あっ! あそこだね。って、とても診療所って感じじゃないんですけど~ミナさ……ん?」
「だから~私だって初めてだって言ったじゃない。だって、これには住所しかないんだもん」
ミナは、バッグから一枚のチラシを取り出した。そこには驚異の癒し空間! 選ばれたあなただけに! 2名までご利用可……
「ミナこれって……どうしたの? こんなの新聞の折り込みに無かったし、チケットなのこれ?」
「家のポストに入ってて、あやを誘って行ってくれば~って」
ミナのお母さんが? 親子で気が利くのね……頭が下がります。
どんどん診療所が近くなってきた。どう見ても診療所という感じではないし、病院風でもない。どっちかと言うとリゾートホテル?
「このチラシで入れるの本当に? ミナ?」
「入ってみましょう!」
こういう時のミナは、いつも強気なんだよね。頼りになる友達がいると本当に安心出来ます。ミナ様、ミナ様~って、ワタシって頼ってばっかり? いやいやワタシだってミナの役にたってるはず。大丈夫! 一番の友達だもん!
ミナは、そ~っとチラシをフロントの人に見せた。それを見ていたワタシは、もうドキドキものでした。
「はい、ようこそいらっしゃいました~2名さまですね」
部屋に案内されて、そてこから見た景色にびっくりしました~オーシャンビュー!
「ねえ、ミナ? これって後で高額な請求なんかこなよね? ワタシたち高校生だし……それに何泊って言ってたっけ? これは、あのチラシ1枚で泊まれるようなホテルじゃないよ」
「だって~もうチェックインしちゃったし~一応……2泊3日。よしっ! フロントに電話してみよう!」
ミナは、フロントに確認の電話をかけた。
「はい、はい、あ~そうなんですか~分かりました~! ありがとうございま~す」
どんどんミナのテンションが上がっていくのが分かった。
「ぜ~んぶ! 無料なんだって~! だからね、ご遠慮は無用ですって言われたよ」
あのチラシにそんなすごい効果があるとは、まだ信じられません。でも、これは夢ではありません。
そういう事なら~!
「遠慮なくパァ~と行きますか! ミナ!」
2人は、この16年間味わった事の無い至福のひと時を過ごしていた。そしてっ!そして究極の時が近づいていた。ここが肉球診療所と呼ばれている本当の意味が……ついに明らかになる時が!
ワタシたちは、ここで1番大きなフロアと思われる所にやって来た。多くの人たちが……なんか「ふにゃ~」て感じになっていた。
「ワタシたちも……あぁなるのかな~?」
内心……どきどきしていた。
「たぶん……ね? だって驚異の空間ですもの!」
ミナが、ワタシの手をギュッと握ってきた。
…………。
「また来たいね……あや」
「絶対に、また来ようよ! ミナ!」
---おわり---
読んでいただき、ありがとうございます。えっ!? 終わりなの? って思うぐらい、ちょっとアバウトに終わらせました。アバウト過ぎますか? それならば皆様の想像と妄想を最大限に膨らませて下さい。こんな所が1枚のチラシ? で、変な意味でなく泊まれたらな~って思いながら書きました。ただ、癒しを求めて……。