他の相手と結婚するからお前はここから去れと言われたけど私を追い出したら権利を失うのでやめておいた方がいいですよ?
フェアはしがない令嬢。魔導アニメを手がけていること以外は。
「フェア!」
魔導による投影のアニメ試写会を始めようという前に、フェアの婚約者だからとの理由で会場にいた男の婚約者。突然怒鳴るなんて。眉をひそめて後ろを向く。最近、なんだか彼がとてつもなく横暴になったような。
斜め後ろにはこのアニメの出資者の一人である貴族の娘が勝ち誇った顔をこちらへ向けている。相手をしなければならないことに、酷く心が搾り取られたように疲弊した。
彼らに対して思うところなど何一つもないというのに、彼らはこちらに対して興味を抱いているらしい。
「なに?」
「招待状が届いてないのにどうやって入って来れたんだ」
「え?普通に?」
フェアは顔パスなのだから招待される側ではない。する側だ。
「下請けのくせして、無理矢理入るなんて迷惑をかけたのか?恥ずかしい真似はするな」
ため息混じりのセリフに何か言う気もなくす。目の前の男はフェアをアニメの下請け会社の一人だと思っていることは知っていたが、そろそろ正しい情報を自力で得でもしてもらわなくては。
彼のためにわざわざ尻拭いしたりするつもりはない。正しいことを知ることはいつだって、子供も大人もないのだ。きっと今後どこかで学ぶだろう。応援もしないし、手伝いなんてもってのほか。
「しかも、爪の間が汚い」
指を刺された先に取れきれなかったインクが滲む爪。一応色を塗っているがじっくり見たらわかる。
「それに、そのドレス」
「あなたから送られてないわ」
「送ってないんだから言われなくてもわかってる」
「……」
送らないことを遠回しに非難したのだが、恥ずかしげもなくよく言えたものだ。マナーでは婚約者が贈るのが暗黙の了解。送らなくていいとのやり取りもなく、毎回自力でドレスを買う。
そのことを周りも知っていて婚約者の株が下落し続けていることを一ミリも気づかない。
彼の家族は浮気相手のドレスを頼むのでカモフラージュされてしまい、気付いてないと思う。不誠実なことをされているが、仕事が忙しすぎるので気にならない。
「地味な色合いだ」
邪魔さえしなければどうでもいいかなと。無言で先を催促する。目の前の男に咎められるごとに心がピシャリと閉じる。たかが婚約者にやることを邪魔される謂れはない。
「このドレスは今回のアニメに関連する色合いだから、あなたの趣味が反映されるわけないでしょ。送ってもないのに口出ししないで」
「は、は?おれは婚約者だぞ?ドレスくらい口出しするに決まってるだろ?なんだ、その言い方、可愛げのない女だな!」
「で、横にいる方は?」
「え、ああ。彼女はハヴェリア。このアニメの出資者の娘だ。お前なんかより立場は上だから失礼なことするなよ?たく、お前みたいな地味な女を紹介するなんて恥ずかしいなぁ……!」
この男は婚約者になった頃からこうしてフェアを落としてることばかり言う。
「でもな、今日からおれはこの人と婚約するんだ。お前とは今日限りってわけ」
「婚約白紙ってこと。ふーん、じゃあこれにサインして」
フェアは男に持っていた契約終了の用紙を見せつける。肌身離さず持っていたから温かい。紙を見た男は目を点にしてそれを受け取ると、手を震わせてサインを書く。
目にはなんでこんなものを持ってるんだと目が語っていたが、サインさせた紙を受け取ると二人に慰謝料請求をするむねを伝える。
発言にギョッとした様子で凝視してくる。されないと思っていたみたい。けど、世の中甘くないんだよ?
浮気は浮気。真実の愛だろうが順番を破ったのは紛れもない事実。なぜ請求されないと思ったのかわからない。家紋に向けて通達され、二人はタダでは済まないことになる。
馬鹿騒ぎしているのに全く興味の視線を周りから浴びないのは、この会場にいる人たちが己の立場をしっかり把握しているからだろう。慌てて周りから中年の男性と女性が飛び出してくる。
「おい、何をしている!」
「あなたって子は!」
婚約者の両親。ここにいるのは元々招待されていたのが彼らだったのだろう。彼らはフェアがどんな立場なのか知っているから顔面が見たことのない色をしている。バカ息子の手綱を持ってないのは問題だと思う。
アニメの完成記念披露宴の日に、よりにもよって重要な存在にこんなことをするなんて、これからさらに脚光を浴びることになる己だとわかっている分、この男は本当に面白いなとなる。
勢いで宣言して綺麗になくなるわけもなく。普通に騒ぎになるし、周りは男を馬鹿を見る目になる。怒り浸透なのは出資者だ。
「ハヴェリア!」
元婚約者になる男の近くでべったり隙なく腕を組む女の名を叫び、片方を乱暴に後ろ側へ引きながら今にも頬らへんを叩きそうな男。
「え、パパ?痛い!痛いってばぁあ!」
横取り女は栄えある会場でよりにもよって出資者飲む済むとして認識されて、出資者だと元婚約者がドヤ顔して言い切ったから悪い意味で、今日から忘れられなくても忘れてもらえない有名な人になってしまった。
本当に厄日認定になりそうだ。クスッと笑って義両親になるはずだった男の両親に、そっともう婚約関係は無くなったのでここから出ろと言い放ち、警備に帰らせるように摘み出させる。
お金なら余裕であるので出資者なんてお飾りだ。メリットは拡散力程度なんだろうけど、詳しいことは広報担当に聞かないと具体的なことなんて覚えてない。
今までアニメ作りで多忙に多忙を重ねていたのに、こうして制作記念の披露宴でフェアに婚約破棄するバカとして黒歴史が彼らに被せられる日。
「はぁ?追い出されるのはお前だ!部外者め!おれは出資者の娘のこいつに連れてこられたんだ。お前なんかよりも関係者だよ!お前が去れ!」
途端に会場に静寂が生まれる。衣擦れの音も靴が動く音も、息遣いもなかった。
元義両親になる人たちを見ると、この世の者ではない幽霊を見たような青白い顔色で自分の息子を見つめていた。
口をぱっかり開けて唖然としている。彼らだけではなく、他の人たちも似た顔をしている。
フェアは初めから知っていたが、ここでそれを言うなんて相変わらずやらかしてくれるなぁと内心大笑いしている。
「あなた最後まで私のこと気づかなかったね」
シーンとなる会場。他にやれることが急に無くなったから埋め合わせをやるしかあるまい。
「な、なんだよ」
会場の人たちの視線が一人に一点集中していることに恐怖を感じているのか今までの勢いは無くしている。スゥと息を吐いて空気を吸う。
「私がアニメ制作者の総監督なことに、気付かなかったねって」
三秒経っても男からの言葉はなかった。言葉を文字通りなくし、脳が理解を拒んだような顔色になる。みるみるうちに顔が驚愕へとなり、自分の両親を見てから嘘ではないと知ってしまい唇を震わせる。
「私の婚約者だから辛うじて招待されたんだから、婚約者じゃなくなって。いる権利が消滅するのは当たり前なんじゃないかな?」
出資者の娘も、出資しているアニメの監督の婚約者を横取りして婚約をなくさせた。父親はこの後アニメから手を引かざるを得ないことになるだろう。
どの面を下げて関われるのかいくら考えても無理だ。無理矢理居座っても、他の出資者から総スカンを食らうのも目に見えている。ここで嫌われて今後潰されるよりも身を引いた方がビジネスでは、まだ生き残れるかもしれない。
アニメ業界には二度と触れられないだろうが。アニメはフェアが概念を作った。革命児のいる業界にまた関わろうものなら、上に消されるのは想像に難しくない。
メンツを潰した。危うくアニメをぽしゃらせるスキャンダルを身内が作ったのだ。恨まれて然るべき。それだけでは済むまい。
「失礼する」
浮気相手女の父親は自分の娘だけ回収して出ていく。今日この日に出資者として、大手と肩を並べて名を売る大チャンスを娘に潰されたのだから内心ガタブルだろうな。
「パパ、違うの!あいつ婚約者が監督なんて一言も言わなくて!私も知らなかったの!聞いてよ!聞いてったら!私は知らなかったんだって!パパあああ!」
ハヴェリアのキーキー声が廊下に響く。彼女ももう嫁の貰い手いなさそう。後沿いとかで売り払われるのがマシな方だ。この国じゃ無理っぽいし他国になる。あの子は他国の言葉絶対わからないまま、叫び散らすやつだ。こんなはずじゃなかったのに!とか言いそう。
「原作者で監督のフェアさんの婚約者に手を出して知りませんでしたで済まないだろう」
静かにマグマをグツグツさせた声音もその後聞こえた。父親の方だ。やり手なんだろうけど娘を好きにさせ過ぎたな。さて、あちらはといえば。元婚約者になる男は両親になじられていた。
見るに耐えない修羅場。ここはアニメ完成披露宴だ。普通につまみ出されるやつ。彼らは警備に摘み出されるように外に誘導される。
「な、私たちは彼女の義理の親で」
ここに図々しく居座ろうとするなんて無理だ。
「もうなんの関係もないのでつまみ出して」
フェアが一言背中を押した途端、義理の親たちが目をみるみる見開くのが見えた。え?自分たちの息子が無関係になったってここで周知し始めたんでしょ?
止めを刺されて何を今更、そんな目で見てくるのかわからない。わかるけどわからない。庇ってもらえると?違うって言ってもらえるって?
そんな馬鹿なことを言うわけもなし。彼らに送られるのは、絶縁を叩きつける女の最後の送り言葉だ。
「婚約破棄は受け入れます。今をもって婚約者でなくなりますので、今後のお付き合いはありませんのでご了承ください」
告げると義理父らが大きな声で「待って」と言い始める。けれど、警備がさっさと連れて行くので大声も廊下に出ると離れて行く。
最悪のパーティーになってしまった。これってフェアがなにかフォローしやくちゃいけないんだろうか。げっそりと心が削られる。吐き出すものがなくなる頃にはパーティは佳境。
アニメが放送されて、一話視聴に集まった人たちがどよどよと楽しげに笑う。驚きなどなどさまざまな感情を示してそっと安堵した。
「えー、なんだかよくわからない余興を見せてしまい申し訳ありません。さっきの人たちの出演料は九十パーセントカットしておくのでご安心ください」
マイクを手にアニメが終わった後の挨拶で、皆わかっているがそれでも誤魔化しをしておく。建前だ。
あははは、と周りも空気を読み笑いを喉で再現する。面白いとは思わなくても笑わないと冗談で済まない。
やっと場が元の温度に戻りつつある。上映を終えて滑らかな空気を周りが感じ取ってから、男女問わず皆がアニメの感想を言い合う。一体感こそ、終わったと感じさせてくれる。
「失礼致します」
変な空気にならずに済んだのは奇跡だ。下手をしたら、婚約破棄をされたことが取り沙汰されていただろう。下世話なことだが、不幸を最大の娯楽扱いをされても止める術がない。
「お疲れ様です」
壇上から降りて一つ息を吐いていると副監督が話しかけてくる。フェアをよく支えてくれた青年だ。今日も柔らかな雰囲気を纏っている。
この五年余り、彼がいなくては越えられなかったことも、多々あったと言える。たった一人でアニメは作れない。
他の人と協力して作品は生まれる。正解だろうとそれは不変だ。だからこそ、今日のパーティにケチをつけたくなかったのに。
案の定トラブルを作った元婚約者たちにポーカーフェイスを作りながら、笑顔を振り撒く。ここまで準備をするのも忙しかったし。
副監督の彼は長く共にいるからか、作り笑顔の後ろにある疲労に気づく。そっと覗き込む様に近づくと耳に唇を寄せる。
「大丈夫です。フォローしますので」
うちの副監督は頼もしい。元婚約者とは大違いだと嬉しさに、頬がフッと綻ぶ。
「ありがとう。情けないところを見せてごめんなさい」
いくら無関係に近い関係でも、騒ぎを起こしたのは自分に起因している。関係が今となっては希薄になっていても、全く話さなくなった男が相手だとしても。
「気にしないで。私はあなたの右腕なのですから」
「安心で体の力が抜けそう」
「私の前では好きなだけ寛いで」
ニッと笑みを浮かべて子供みたいな顔を見せる相手は、いい大人の年齢。しかし、言動は優しいし紳士的で誰にでも人懐っこい。
おかげでアニメ制作現場の人間関係はよい。風通しが良くて、誰も彼もが意見を言ってくれる。頼りになりいなくてはいけない逸材だ。
婚約者に、捨てたのか捨てられたのかわからないような突発的ハプニングにも、それについて聞くことはなくこちらに気遣いをやる。
有能過ぎて働く場所を間違えているのではないかと、毎回思う。わざわざ新規の事業事務所に面接に来て、働きに来た熱意は無視できなかったから。
働きに来た時にはアニメのことについて詳しく話してきて、好きなものを語る様子に仲間にしたいと感じたのだ。
ジュースを持ってきてくれた。このジュースは好きな味だ。主催なので私欲で追加したリストを思い出す。
「このジュース、アニメに出てきてたと今皆話してますよ。大正解でしたね」
コラボカフェみたいな気持ちでアニメに入れたから、周りの興奮具合も上がる。見た後に同じものが飲めるのだ。ファングッズとしてとても喜ばれているらしく、肌で感じ取れた。
「うん。他にも用意しているものを見つけて盛り上がってるね」
アニメキャラに関連するものを小ネタのように隠している。
「きっとさらに話題になりますよ」
男の安心する笑みを見て、肩の力がいつの間にか抜けていく。パーティは成功に終わり、後片付けを粗方済ませたあと一人で居たくてアニメーション制作の工房に居た。
誰も居ない無人の工房は書きかけのラフ画などが置かれていて、人がいる仕事場とは雰囲気がガラリと違う。
この夜だけの無人空間で過ごすのが好きだった。ここにいると、好きなものに囲まれていると感じ取れるから。
普段だってそうなのだが、人に話しかけられるからそう思う前に忙しさに明け暮れてしまう。今は話しかけられることはない。
「ふふ」
一人、パーティーでこっそり持ち帰ったお菓子を摘む。
「フェアさん」
「あれ、ジスピ?」
ドアが叩かれて入ってきたのはジスピだ。
「もう夜遅いのに」
「ええ。こちらにいると思ったので」
「そっか。なにか要件あったりする?」
「いえ、少しまだ完成した余韻に浸りたくて」
「ああ、わかるよ」
彼は皆のまとめ役。周りの子達が気兼ねなく過ごせるように、抜けてきたのだと理解した。
「わかってくださいます監督がいて、我々は幸運です」
茶目っ気のある声音でゆったりした音程が、耳を通る。部屋は少し湿っていて、換気口から風の通る音がしていた。
「明日からはコラボカフェも始まるけど、私たちは関係ないから実質この工房はお休みになるからね。今のうちに作ったアニメ制作現場の見納め。次はいつになるか……わからないから」
今のアニメは今のアニメの思い出があり、次もきっと新しいアニメを作るときの現場の空気は違うものになる。
「初めて関わらせていただきまして。良い経験になりました」
「次も一緒のチームになるかもしれないね。ならなくても次の次もあるから」
明日から一部の人などは別の仕事になるだろうし、同じ人が同じチームのままというわけではない。
「そのことなのですが……私はあなたと離れたくないのです」
「気持ちはわかるけど、生活できなくなるでしょ?」
アニメはやる時とやらない期間の差があり、収入が山あり谷ありグラフみたいな攻落が大きい。
「今後うちみたいな、アニメを作る会社もでてくるだろうから」
アニメの第一人者とて、永遠に一強とはいかない。
「いえ、私はあなたという人から離れたくありません……結婚を前提にお付き合いを考えていただけませんか」
「え」
彼は懐からスッと一つの用紙を閉じた物を渡してきた。思わず受け取って中身を見ると釣書である。
「え、釣書?なんで懐に」
「一度家に帰りまして、持ってきたんです」
「私の婚約がなくなったからだったり、する?」
「は、はい。なくなったので持ってきてもいいかもと先走ってしまってます」
頬をカァッとさせた男は恋する瞳でこちらを見る。
「でも、わたし、結婚はもうやりたくないというか、考えるのが面倒というか」
「あ、あの、肩書の欄を」
受けたくないなぁと匂わせても相手は見せたい箇所を指摘するだけ。渋々肩書の書かれている欄を見てみる。
確か彼は、爵位のない平民枠だ。うちは肩書きなんてどうでもいいので成り上がった。
「あ、あれぇ、貴族の爵位!?」
「父が当主なので兄が継ぎますから私は爵位なしの次男となります」
へにゃっと笑う男からは貴族然としたオーラがやはりない。
これに気づける人はいない。節穴じゃないのだ己は。
「し、しかも高位貴族の寄家!?」
「はい。いとこが主家となりますね」
「大物の血筋だし、王家の血も入ってる!」
「よく知ってますね。とは言っても昔なのでだいぶ薄まってはいますよ」
「いやいや、待って。情報量が多すぎて」
「はい。待ちます」
待つと言った彼は立ったまま二十秒以上黙っている。
待ってって言ったのは、後で何か言うから……などという即日的な意味ではなく、後日という日を跨いだものの意味でストップをかけたんだけど。
前からそうなんだ。この人天然なんだよ。天然なのは、知識が貴族より勉強する機会のない平民だから、とかではなくて高位貴族だから純粋培養だっただけなのかも。
「あの、返事は今無理で」
「なぜですか?婚約者はいなくなり、今はお付き合いしている人もいないと思ったので声をかけたのですが」
「ええ」
今すぐ欲しい返事にしては未来も考えなくてはいけなくなった身の上。安易な言葉は向けられず。
「わたし、結婚するつもりなんてなくて」
「結婚がイヤなのはアニメを作りたいからですよね?結婚したからといって、あなたからアニメを取り上げる真似はしません。私と一緒に住むだけでいいので、後の環境は変えなくてもいいのです。私は貴族として妻に迎えたいのではなく、アニメという素晴らしいものを作る姿に惹かれています」
「ええ」
彼は長く話すとまた息継ぎして続ける。
「子供が産まれた後も現場に復帰していただけますし、赤子なら使用人たちをたくさんご用意できます。アニメを作るための環境を婚姻後も無くさずに済む良い縁談ではないでしょうか」
長い。
「でも、あなた貴族でしょ?高位の」
「私が爵位を得ることはなく、妻になるあなたも当主夫人になるわけではありません。面倒な付き合いは兄夫婦がやるので、私たちは自堕落に過ごせます。金持ちなので」
「金持ち……自堕落」
すごくクラクラして、思わず首を縦に振りそうになる。この男、自分が持てる限りの財産を使ってフェアが欲しがっているものを的確に射抜いてきている。
確かに話す時など、雑談でそういう感じのことを言ったけども。たられば、もしもの言葉のお遊び。
「でも、結婚は」
「私と結婚してくださればもっといい機材や道具を揃えて工房も人手を増やせますし、専用のチームを作りやすくできます。今後アニメの会社が増えた場合、どんな会社でも有能なチームならば引き込むことも思いのままなのですよ」
悪魔じゃん。今、悪魔と契約しようとしてるじゃん。
「うーん……そうですか」
「だめでしょうか?私はあなたのアニメを初めて見たときから、アニメに魅入られてここまできてしまったのです。あなたを知っていき、アニメと同じように好きになってしまいました」
「ああ、それはわかってますよ」
アニメ好きらしくアニメについて語っていた。
「肩書きは平民なので無理かもと思い一か八かで面接を受けたのですが、まさか貴族ではない私をここまで引き上げてくださるとは思ってもみなくて」
「だめだったらどうしてたの?」
「国王に紹介して推しました」
「こわっ」
危なかった。知らない間に後ろ盾に王家がログインするところだったんだ。
「私に告白してくれたということは好きだってこと?」
敬語にしたら悲しそうにしてしまい、元に戻した、
「はい!偽りはありません。これで離れるなんてもう考えたくありません。人でなしな男の妻など、もっとありえませんが」
自分でもあの男はないと思っていたけど。
「ありがとう」
「では、受けてくださると」
目が光り出した。
「ああいえ、そういうわけでは」
「な、なぜです?私はあなたの言う、よい物件なのでは?」
彼を平民と思って、現代の言葉で言いすぎたなと反省した。
「ごめん。あなたが平民だと思ってたから。貴族となれば別というか、うん」
「え、でも……あ、す、好きです」
告白してないからとでも思ったのか急に言い始めた。
「わかってるから」
「離れたくありません」
かと言って結婚は飛びすぎ。
「友達じゃだめなの?友達なら離れないけど?」
「この気持ちのまま友達は辛いです!」
「えええ」
思わずじとりと冷や汗と共に呻く。
「お願いです。結婚してくれませんか。友達なんてもう無理なんです」
瞳が潤んでいる。美形だ。
「もうって、私たち同僚ってなだけだったよね」
友達以前に上司と部下だ。
「でも好きですから」
「可愛いなぁ」
ジュースをちまちま飲みながら呟く。
「ええ!可愛いは好きじゃありません」
「可愛いは可愛いし」
「嫌です。かっこいいがいいです」
首を振る。貴族に見えない。
「男らしいところはさっき見せたじゃありませんか」
「金に物を言わせてアニメを作ろうって提案のこと?」
「言い方に悪意があるんですよ」
「悪意なんてないない。好きな物を作らせてくれるという心意気は伝わってるよ」
ちゃんと伝える。
「本当ですか。どうしたら夫婦になってくださいますか」
「突然好きとか、貴族とか言われて混乱してるんだけど」
手をひらひらさせる。
「では、友達はもうなっているのでデートを」
「色々飛びすぎ」
フェアはへにゃりと笑う男にきゅんっとなった。
一ヶ月後、またアニメの制作が決まりチームが再編成された。
「では、皆さん。今回のアニメ、異世界魔法少女の制作を統括してくださる監督のフェアさんからの挨拶があります」
堂々と横に並ぶジスピをジトっとした目付きで見た。瞬時に仕事モードになって言葉を発する。
一ヶ月前にまた会えなくなるみたいな空気にしておいてサラッとチームにいるところ。抜け目がない。
出資リストから一つの名前が消えたあとに、一つの名前が家名に書き直されて一番上に載った紙を見ながら、また胡乱な瞳を副監督に放り投げればニコリと憎めない顔で返された。
【限定特典情報】
『魔法少女(仮)』制作記念・特装版魔導円盤
価格:39,990G
◆豪華三大特典◆
1.特別映像:魔法投影による高画質本編
2.監督コメンタリー:フェア監督による制作秘話(たっぷり30分!)
3.限定ミニ劇場:書き下ろしシナリオ「副監督の密かな野望」
※ご注意:在庫が余った場合は副監督が全て私物として買い占める予定ですので、一般販売分を確保したい方はお早めにご予約ください。最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。




