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2話 夢覚め

 目が覚めた……? 何かがおかしい。

何もない、暗いけど、なぜか見える不思議な空間。


「夢っ……なのかな?」

んっ? 「あー、あぁっ」声が変だ⁉︎


発せられたのは小鳥のような可愛い声。明らかに男の声ではない。

『さらっ』 何かが覆われる。おでこ、頬、首筋に懐かしいくすぐったい感覚が……。「髪の毛……」


正面を向いた時、鏡のような岩肌に映し出された人影に気づく。

「アマテル……」


そこに映っていたのは、生成AIで作った理想の人だった。

両手のひらで頬を挟むと、『ぎゅっ』 両の頬に圧力が伝わる。


「私っ……なのか?」


手は自然に胸に触れる。「あるっ……柔らかっ」

そして股に触れると、「ないっ‼︎」

思考が停止する。


「女になってるぅぅぅーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎」


その時、後ろから「ぷっ、ククっ……」笑いを堪える声が聞こえた。


後ろを振り返ると、大きな岩の前にうずくまり、こちらを見ている女性がいた。


(人だっ)

足は自然にその人に向かっていた。

近づくにつれ顔が明確になってくる。「えっ!」驚きだった。

その人の顔も理想の女性だ。


つい声が出てしまった。

「アマテル?」


ビクッ

「何で私の名前、知ってるの?」

不思議そうに見つめる瞳がそこにあった。



「天嶺アマテル、いい響きだね。

私は、正確にいうとアマテルになったばかりなんだ。神様の気まぐれでね。

真の姿は、50を迎えようとする初老間際のおじさんなのだっ‼︎ アハハ。

『姿は美女、心はおじさん‼︎』しまらないなぁ。美女って言ってる時点でおじさんかぁ……」


「ぷっ、アハハっ。

アマテルは陽気だね。こんな状況なのに怖くないの?」


「正直、怖いよ……でも困惑の方が勝ってるかな。

人生の経験って不思議なもので、積み重ねると大抵のことじゃ動じなくなるんだよ。

まぁ、あっちの世界でも色々あったしね。

ところで、アマテルはっ……んっ?」


「急に詰まってどうしたの?」


「ん〜っ、アマテル同士だと呼びづらいから……

あだ名考えようか。漢字だと『天照』……

『天』は『あま』『てん』……君の世界だから、最初が君として……ゴニョゴニョ

決めた、君は『あーちゃん』、私は『てんちゃん』でどう?」


「いいじゃん‼︎

一つの文字から名を分けるなんて、乙女でロマン……

あらためて、よろしくね、てんちゃん」


「気に入ってくれて嬉しいよ。

こちらこそ、よろしくね、あーちゃん」


少し子供っぽいかなと思ったけど、シリアスな状況なら無邪気なくらいがちょうどいい。

あーちゃんの後ろに見える岩が発する感情のようなものが……

過去に味わった一番嫌な感情……(くっ)……を思い出させる……



目の前には大きな黒い岩がある。

あーちゃんは近づこうとせず、怯えている様子だ。


少しだけ覚えている。

もっと禍々しい岩に吸い込まれそうになっていた子に手を差し伸べたことを。

とても弱々しく、今にも消えてしまいそうな灯火のような子(魂)だった……。

あれは、あーちゃんだったのかな……


目の前の岩は禍々しさがないから危険はなさそうだけど、良いものではない。

私の中の女の勘がそう告げている(超、日が浅いけど……)


女は度胸だ‼︎ (えいっ)

思い切って触れてみた。やっぱり、この感情は……

あーちゃんの感情が流れ込んでくる。


疑念・正義・不信・怒り・困惑・悲しみ・孤独・後悔・恐怖……

冷たい負の感情が次々と……そして最後に『虚無』。


(とても正義感の強い子だ。真面目で誠実、努力を惜しまない、故に危険なのだ。

正義とは諸刃、均衡次第で自分が傷つく。あっちの世界では嫌というほど味わった……

この子は、支えきれなかった……その結果が……)


「あーちゃんは、疲れてしまったんだね」


あーちゃんの目には涙が溢れる。

膨れ上がった涙は止めどなく流れ始める。

でも、その涙は暖かなもの……


「てんちゃん、私っ、辛かったの。誰も信じられなくて、誰にも言えなくて……」


この後は言葉にならない様子で、ただ母親の前で安心した少女のように泣きじゃくる。

私は何も言わず、そっとあーちゃんを優しく抱きしめた……


胸の中で、あーちゃんが「ありがとう……」と呟いた。

少しだけ『安堵』に傾いた。この真っ暗な空間も光が差し込み、少しだけ明るくなった。


キッ‼︎ と目の前の岩を睨みつける。

そして心の中で誓う――(この子を必ず『虚無』から解放する‼︎)



だいぶ落ち着いたところで、あーちゃんは経緯を話し始めた。

聞くに耐えがたい話だった。話が進むにつれ、怒りが湧き、あの嫌な虚無がまた芽生える。


「30年前はよく耳にしたなぁ……。私も公務員試験を受けたけど、結果は散々だった。

20人の採用枠に1000人以上の受験者。司法試験以上だってニュースで言われてた。

普通に考えれば大学生が一般職の国家Ⅲ種は受けないでしょ。けど当時は“超氷河期”。

高校生が大学生に勝てるわけもなくて、就職氷河期は地獄だった。

企業も苦しくて正社員を取らず、派遣や契約で短期雇用ばかり。

「明日から来なくていいよ」なんて、毎日ビクビクだったなぁ。」


「てんちゃんは、辛くなかったの?」


「そりゃ辛いよ。毎日生きるだけで精一杯。

騙されることなんて日常茶飯事、人間不信にもなる。

1975〜80年生まれの人たちは、いま“ロスジェネ”って呼ばれてるんだよ。

近年ようやく救済採用や低賃金の見直しが進んだけど、根っこは深いね。

政治も金も、なかなか無くならないのと同じさ。」


「不公平だと思わなかったの?」


「思ったよ。

でもね、そんな人たちには仲間ができないし、必ず報いを受ける。

ゴマすりや人の成果を奪って上に上がった人は、権力者が変わった瞬間に全てを失う。

権力って個人で持てるものじゃない。頼られて、皆が選択に迷った時に決断するもの。

権力者は、道を外れそうな人を正して支えるのが基本でしょ。

辛い時代だったけど、悪いことばかりじゃなかったんだよ。

その時できた友達は一生ものだし、人生の岐路では必ず支えてくれた。

あーちゃんは真っ直ぐすぎるから、少しズルさも覚えた方がいい。

駆け引きは女の方が得意でしょ、ふふっ。

忍耐強く仕返しのチャンスを待つの。勝ちに行くんじゃなくて、決定された勝ちを取りにいく。

『風林火山、never give up』、良い言葉だよね、ふふふっ。

諦めたら試合終了だから。」


「て……てんちゃん、少し怖い。悪い顔になってる……禍々しいオーラが。強い人なんだね、羨ましい」


「強くなんかないよ」


「えっ⁉︎」


「私は弱い人。臆病で、コンプレックスの塊……。

小さい頃、周りの子が当たり前にできることができなかった。体も弱かったしね。

落ち込んで帰ると、いつもお爺ちゃんとお婆ちゃんが『やればできる子だから』って励ましてくれた。

できるまで付き合ってくれた。

最初は何だったかなぁ……できた時の何とも言えない感覚、忘れられない。

剣道を始めて体を丈夫にして、できないことは何度も練習して、一つ一つ積み重ねてきた。

周りの人は何でもできるねって言うけど、そこに至るまで何度もシミュレーションするんだ。

『自信』が支えなんだよね。だから失敗した時は目も当てられないくらい沈む。」


「意外⁉︎ てんちゃんは、怖いもの知らずでガンガン進むのかと思ってた。私と一緒なんだ……ふっ。

賢く、要領よくならなきゃだね。」



お互いの家族のこと、昔の出来事なども話した。

あーちゃんの過去は不思議と自分の過去に似ていた。背骨の部分、岐路の部分……。


ここはパラレルワールドかもしれない。

私は異分子……消えてしまうのかな……折角、あーちゃんと仲良くなれたのに……


その時、あーちゃんが大声で叫んだ。

「てんちゃんっ⁉︎ 体がっ‼︎」


手の先が透けている。つま先もだ。

だんだん、上に登ってくる。

直感した。私の役目は終わったのだと……


「あーちゃん、お別れの時間みたい。

楽しかったよ、ふふっ。

君はもうすぐ目覚めるんだと思う。夢はここで終わり。

目が覚めたら忘れちゃうのかな。

また、会いたいな……バイバイ。」


あーちゃんは薄々感じていた。

(私は現世には帰れない。私はあの時……)


てんちゃんが消えていくのを見た時、この感じは決定的だった。

目覚めるのは、てんちゃんだ‼︎


(てんちゃんも自分と同じ弱い人だとわかった。支えてあげたい。

ましてや男が女になるんだから……神様、お願い。)



「てんちゃん、頑張ってね。

また会えるよ、きっと……

お姉ちゃん、マジ怒ってると思うから注意だよー。 またね❤️」


てんちゃん、何を言ってるんだか……まぁ、元気になって何よりだ。


体は消えながら天に向かって浮かんでいく。

最後にあーちゃんを見た時……(えっ⁉︎)

あーちゃんの周りには牡丹の花が咲き乱れていた。

その中で佇むあーちゃんは、美しかった。


そして岩を見る……(んっ⁉︎)

岩の頂上に二人の人影が。

優しい笑顔が見えた。夫婦なのだろうか、存在していたんだ……


「ようこそ、新しい世界へ」(男の声)

「あの子とは、また会えますよ」(女の声)


頭の中で声が聞こえる。驚いたけど、優しさの中に神々しさがあった。


「あぁー、目覚めたら仕事かぁ……」



目覚めると、見知らぬ天井が見えた。(どこ?)

体にも違和感がある。胸がある⁉︎

起き上がりボーッとしていると……


「あま姉、目が覚めた‼︎」(男の子の声?)

次の瞬間、知らないおばさんが近づいてくる。(あーちゃんに似ているな……)

私の前で立ち止まり……(なんか怒ってる?)


パーン‼︎‼︎‼︎‼︎っ

部屋に打撃音が響く。


痛い‼︎ 夢じゃない‼︎‼︎



(第3話 目覚め、そして(前編) につづく)

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