第57話 サンド・バッドとの戦闘
俺、グレイノースは即席パーティーのアルバート、ミア、ブラムと共に、国からの依頼を遂行するため砂漠地帯を進み、ついに《サンド・バッド》の群れを発見した。視界いっぱいに広がるのは、無数の黒い影。砂と同化するような体色をしたサンド・バッドたちが、空を埋め尽くすように飛翔している。
次の瞬間――俺たちの存在に気づいたサンド・バッドの群れが、一斉に高度を上げた。そして、獲物を狩る猛禽のように――速度を乗せ、一直線に滑空してくる。
「来るぞ……!」
その光景を真正面から捉えたアルバートは、視線を逸らさぬまま、短く鋭い声を上げた。
「ミア!!」
だが、その声が届く前から、ミアはすでに動いていた。
「分かってる!」
弓に矢を番え、引き絞る。
しなやかな動作だが、そこに迷いは一切ない。放たれた一本の矢は、真っ直ぐにサンド・バッドの群れへと飛んでいく。
――だが、相手は数十体。
正直、その一本では心許ない。
しかし。
ミアは、飛翔する矢へ向けて、すっと手を翳した。
――発動。スキル《複製》。
「技能――《流星群の矢》!!」
その叫びに呼応するように、矢が淡く光を放つ。
次の瞬間。
一本だった矢は、空中で分裂し、数十本へと増殖した。雨のように降り注ぐ光の矢が、サンド・バッドの群れへ突き刺さる。
――ズドンッ!ズドンッ!
次々と脳天を貫かれたサンド・バッドたちは、断末魔を上げる間もなく、砂漠へと墜落していった。
「……っ、ごめん!私の魔力だと、一度に十体くらいが限界!」
そう叫びながらも、ミアの表情は冷静そのものだった。
その戦果を見たアルバートは、思わず感嘆の口笛を吹く。
「ミアちゃん……やるじゃねーか!」
そして、ぐっと大地を踏み締める。
「――俺も負けてられねぇな!」
アルバートは、迫り来るサンド・バッドへ槍先を向けた。
――スキル《加速》。
魔力が流れ込み、アルバートの腕が唸りを上げる。
「技能!《疾風連槍》!!!」
突き出された槍が、高速で前後する。
あまりの速度に、槍先は幾重にも重なった残像となって見えた。その無数の突きが、一瞬で数十体のサンド・バッドを貫く。
肉片と砂が宙を舞い、魔物たちは細切れのように撃ち落とされた。
「……すげぇ」
思わず、俺とブラムは感嘆の息を漏らす。
だが、感心している暇はない。
「よし……!」
俺は剣を握り直し、アルバートとミアが撃ち漏らしたサンド・バッドへと斬り込む。一太刀ごとに、確実に数を減らしていく。
ブラムもまた無駄のない動きで、近づく個体を次々と切り伏せていた。
空中では――
ミアが再び《流星群の矢》を放ちながら、ちらりとアルバートへ視線を向ける。
戦場は、完全に四人の連携で回り始めていた。
「あんたも……やるじゃん!ナルシの割には、ね!」
ミアの挑発混じりの声に、アルバートが即座に噛みつく。
「うるせぇーよ!こんな時に軽口を――」
だが、その言葉は途中で途切れた。
アルバートの視界に映ったのは、ミアの背後――死角から、音もなく滑り込む一匹のサンド・バッド。
狙いは、無防備な首筋。
アルバートは反射的に叫んだ。
「おい!!」
だが、目の前のサンド・バッドと戦うアルバートにミアを庇う余裕はなかった。
アルバートの意識がミアに向いた一瞬の隙。
槍先はサンド・バッドの羽を掠め、体勢を崩しながらも、魔物はそのまま勢いを殺さず、アルバート自身へと牙を剥く。
「しまっ――」
死を覚悟した、その瞬間。
――俺は、目の前の一匹を切り伏せると同時に、アルバートへ視線を走らせ、地を蹴った。
――スキル《縮地》。
一歩で距離を詰める。
俺はアルバートの前に滑り込み、迫るサンド・バッドを一閃で斬り落とす。
ほぼ同時に、ブラムもまたミアの元へと駆け出していた。
「大丈夫か!?」
アルバートは一瞬呆然とした後、力強く頷いた。
「ああ……助かった!」
一方、ミアの背後では――ブラムが、首筋へ迫っていたサンド・バッドを、無駄のない動きで斬り伏せていた。
砂に落ちる魔物を見て、ミアは驚いたように目を見開く。
「……ありがとう」
ブラムは多くを語らず、ただ一度、静かに頷く。
そして、剣を構えたまま、ブラムは低くしかしはっきりとした声で告げた。
「――みんな、一ヶ所に集まろ」
その言葉に、俺、ミア、アルバートは思わずブラムを見る。
「バラけて戦えば、数は減らせる。でも……死角は増える」
ブラムの視線は、空を埋め尽くすサンド・バッドを捉えていた。
「僕たちはパーティ戦に慣れてない。連携も即席だ。バラバラで動いたら――確実に死ぬ」
一瞬の沈黙。
だが、その理屈は、痛いほど理解できた。
俺とミア、アルバートは顔を見合わせ、無言で頷く。俺と三人は一気に距離を詰め、一ヶ所に集結する。互いに背を預け合い、死角を覆うように円陣を組んだ。
迫り来るサンド・バッドへ、同時に反撃を開始する。
――矢が放たれる。
――槍が唸る。
――剣が閃く。
俺は、冷静に周囲を見渡しながら戦況を分析する。
弓を放ち続けるミアの呼吸は、少しずつ荒くなっている。
槍を振るうアルバートの肩には、確かな疲労が見え始めていた。
ブラムもまた、動きは正確だが、剣を握る手に僅かな重さが宿り始めている。
――消耗している。
数は減ってきているが、サンド・バッドはまだ多い。
(戦闘力的には申し分ない。だが――数が多すぎる。それに、ここまで縦横無尽に飛び回られたら……)
俺たちを囲むように、無数のサンド・バッドが円を描く。砂色の翼が重なり合い、空気を裂く音が絶え間なく響く。
(あいつらの動きを……一瞬でいい、止められれば……)
俺は剣を構えたまま、頭の中で自分のスキルを洗い出す。
瞬速、縮地、転移――どれも違う。
そして、一つのスキルに思考が引っかかった。
(……これなら、可能だ)
だが、同時に危険も理解していた。
(このスキルを使えば、魔物の動きを止められる。だが……範囲が広すぎる。下手をすれば、三人も巻き込む)
一瞬、迷いがよぎる。
だが、空を埋め尽くす魔物の数を見て、覚悟は決まった。
(このままじゃ……全滅だ)
俺は意を決し、生唾を飲み込む。
自分の魔力制御を――そして、仲間を信じるしかない。
「ブラム、ミア、アルバート!聞いてくれ!」
三人はサンド・バッドに視線を向けたまま、耳と意識だけを俺に向ける。
背中越しに伝わる、張り詰めた緊張と期待。
「今から、俺のスキル《威圧》で、サンド・バッドの動きを一瞬止める!その隙に――三人同時に、全力で叩いてくれ!」
その言葉に、空気が一瞬凍った。
三人の視線は前方に向いたままだが、疑念と驚きがはっきりと伝わってくる。
やがて、ミアが信じられないというように声を上げた。
「……威圧!?威圧って、熟練の冒険者でもせいぜい二、三体が限界でしょ!?この数を同時に止めるなんて――」
ミアは言葉を途中で切り、ちらりと俺の背中を見る。
そこにあったのは、迷いのない覚悟。
その気配に、ミアは言葉を飲み込んだ。
次に、アルバートが槍を構え直しながら、静かに口を開く。
「……グレイノースにも、何か考えがあるんだろ」
一瞬だけこちらを振り返り、真剣な目で続けた。
「ここまで来たんだ。信じても……いいんじゃねぇか?」
そして、最後に――剣を振るい、迫るサンド・バッドを切り伏せながら、ブラムが低く言った。
「……何もしないでいれば……どっちみち、全滅……だったら、その賭け……乗ってもいいと思う……」
かすれながらも、はっきりとしたブラムの声。
その言葉を聞いたミアは、ほんの一瞬だけ目を伏せ――そして、強く頷いた。
「……分かった。頼んだわよ!」
三人の言葉は、激励というよりも覚悟そのものだった。
俺はそれに応えるように、無言で深く頷く。
次の瞬間――俺はサンド・バッドの群れへと向かって走り出した。大きく息を吸い込み、意識を研ぎ澄ます。
――スキル《空間探知》。
魔力を薄く広げ、周囲一帯の空間を把握する。
高度、距離、角度――サンド・バッド一体一体の位置が、脳裏に浮かび上がる。
――スキル《魔力探知》。
次に、魔物たちから滲み出る魔力を捉える。
生きている証、鼓動のような魔力の揺らぎ。
……逃がさない。
そして――
――スキル《竜の威圧》。
解き放った瞬間、空気が悲鳴を上げた。
俺の全身から、恐怖そのものを具現化したかのような気配が溢れ出す。魔力を注ぎ込むほど、その存在感は増幅し、圧となって広がっていく。
円を描くように――いや、領域を支配するように。
その異変に気づいたサンド・バッドたちが、空中で一斉に身を震わせた。数匹は本能的に恐怖を察知し、甲高い悲鳴を上げて逃げ惑う。
だが――
逃げ遅れた無数のサンド・バッドが、その領域に触れた瞬間。
空中で、完全に静止した。
羽ばたきは止まり、牙を剥いたまま、まるで時を止められた彫像のように硬直する。
俺はその光景を目にし、腹の底から叫んだ。
「――今だ!!!」
三人へと視線を走らせ、合図を送る。
だが――
三人は、その場で膝をついていた。
歯を食いしばり、全身を震わせながら、必死に恐怖に耐えている。《竜の威圧》は、敵味方の区別なく空間を支配する。
(……やはり、三人でも耐えきれないか)
なら――
幻装剣を強く握り、静止した群れへ踏み込もうとした。
その瞬間。
背後から――恐怖を引き裂くような、魂の咆哮が響いた。
「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」
振り返ると、三人が立ち上がっていた。
恐怖を――意志で、力で、叩き潰して。
アルバートが槍を構え、地を蹴る。
「技能――《疾風連槍》!!!」
無数の残像を伴う突きが、静止したサンド・バッドを貫く。
ミアが弓を引き絞り、叫ぶ。
「技能――《流星群の矢》!!!」
放たれた矢は空中で分裂し、星雨のように降り注ぐ。
そして――
ブラムが剣を振り抜く。
「技能――《飛刃斬》!!!」
放たれた斬撃が、空を切り裂いた。
三人の渾身の一撃が、同時に炸裂する。
静止していたサンド・バッドの群れは、次々と力を失い、砂漠の大地へと、ゆっくり――崩れ落ちていった。
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次回は【明日19時】に更新予定です。
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