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第55話 即席パーティー




 俺――グレイノース=リオンハーツは、冒険者ギルドの受付嬢、エリナ=フェレツに呼ばれ、カルバンの冒険者ギルドを訪れていた。

 フェレツから必死に懇願され、国からの依頼を引き受けることを承諾。依頼に必要な契約書へ署名を済ませ、その書類を彼女へと渡す。

 契約書に目を通し終えたフェレツは、ぱっと顔を上げ、深く息を吸ってから明るい声を上げた。


「ありがとうございます!確かに契約書、確認いたしました!」


 そして、心底ほっとしたように微笑む。


「それにしても……本当に助かります」


 その声には、事務的な礼ではない、切実な感情が込められていた。


「今回の討伐対象の魔物なんですが……素材自体が、武器にも防具にも使えないものなんです」


 え……?


「国からの正式な依頼とはいえ、その分、依頼報酬もあまり高くなくて……」


 フェレツは肩を落とす。


「正直、なかなか引き受けてくださる冒険者が見つからなかったんです」


 そこで彼女は、呆れたように小さく息を吐き、ぽつりと呟いた。


「防具にも武器にもならない素材を……宰相様はいったい、何に使われるつもりなんでしょうか……」


 次第に声が小さくなり、思わず本音が零れ落ちる。


「本当に、宰相様の横暴っぷりには……国王の弟だからって……」


 自分の口から出た言葉に気づいた瞬間、フェレツは慌てて両手で口を塞いだ。


「――はっ。」


 その、ほぼ同時だった。


 ギィ……と、冒険者ギルドの扉がゆっくりと開く音が響いたのは。

 

 フェレツは弾かれたように顔を上げ、慌てて話題を切り替える。


「あっ!ちょ、ちょうどいいところに!」


 焦った様子で、それでも明るく声を張り上げる。


「臨時でパーティーを組む予定の冒険者の方々が、来られましたよ!」


 フェレツの視線が、俺の背後へと向く。

 それにつられて、俺も振り返った。


 そこに立っていたのは――三人。


 まず目に入ったのは、槍を手にした長身の男性。整った顔立ちだが、どこか気だるげで、余裕を感じさせる雰囲気を纏っている。

 その隣には、まだ若そうな、線の細い青年剣士。腰に帯びた剣とは対照的に、少し緊張した様子が見て取れた。

 そして最後に、黒髪の女性。腰には弓を携え、静かな眼差しで周囲を観察している。


 フェレツは、嬉しそうに三人へ向かって手を振る。


「アルバートさん!ブラムさん!ミアさん!こちらです!!」


 呼ばれた三人は、フェレツの声に応じるように、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。


 そして、俺の目の前で足を止める。


 フェレツは、まず最初に――槍を持つ長身の男性へ向けて、紹介するように掌を差し向けた。


「グレイノース様、こちらが槍使いのアルバート様です」


 フェレツに紹介され、槍を肩に担いだ長身の男――アルバートは、軽く片手を上げて気さくに挨拶した。


「どうも。よろしくな」


 その余裕のある態度から、場慣れしている冒険者だということがすぐに伝わってくる。

 続いてフェレツは、自然な流れで剣を腰に帯びた青年へと掌を向けた。


「こちらが剣士のブラム様です」


 ブラムは一言も発さず、静かに小さく頭を下げる。無駄な動きのないその所作は、寡黙ながらも実直な印象を与えた。


 そして最後に――


「こちらの女性の方が、弓使いのミア様になります!」


 黒髪を揺らしながら、ミアはにこっと明るく笑い、元気な声を響かせる。


「よろしくね!」


 その快活な雰囲気に、場の空気が一気に和らぐ。俺もつられるように背筋を伸ばし、声を張った。


「グレイノースです!こちらこそ、よろしくお願いします!」


 その瞬間――ミアは俺の姿を、上から下までじっと観察するように見つめてきた。

 一瞬、値踏みされているような気分になる。

 だが次の瞬間、彼女はぱっと表情を明るくした。


「よかった!ちゃんとまともそうな人だ!」


「え?」


 思わず目を見開く俺をよそに、ミアはアルバートとブラムの方を指差す。


「見てよ、この二人!一人はキザで軽そうだし、もう一人は無口すぎて何考えてるのか分かんないんだもん!」


 あまりにも遠慮のない物言いに、俺は言葉を失う。その言葉を真正面から受けたアルバートが、すぐさま声を荒げた。


「ちょ、ミアちゃん!?それはひどくないか!?」


 だが、ミアは腕を組み、呆れたように肩をすくめる。


「さっきから私のこと、口説こうとしてたの誰だと思ってるの?」


「いや、あれはだな!これから同じパーティーで――」


 アルバートの言い訳は、最後まで聞かれなかった。

 ミアは興味を失ったように彼から視線を外し、今度は俺の方へ向き直る。


「それよりさ、グレイノースくん、だっけ?」


 再び向けられる、じっとした視線。

 俺が何か言う前に、ミアは確認するように、軽く俺の胸元あたりに触れて、すぐに手を引いた。


「見た目の割に、いい筋肉してるね……それに顔も可愛いし……割とタイプかも」


 さらりと、爆弾のような言葉が投げ込まれた。


「――っ!?」


 思わず俺は仰け反るように後ずさり、そのままバンッ、と勢いよくカウンター横の壁に背中を打ちつける。


「いっ……」


 あまりにも唐突すぎる一言に、頭が追いつかない。その様子を見たフェレツは、目を丸くして固まり、

 

 一方でミアはというと――


「あははははっ!」


 腹を抱え、涙が出るほど大笑いしていた。


「ご、ごめんごめん!ちょっと揶揄いすぎたみたいね!」


 そう言いながら、ミアは壁際で固まる俺に向かって、悪びれもなく手を差し出してくる。


「改めて、よろしくね!」


 その笑顔には悪意はなく、むしろからかい半分の親しみが滲んでいた。


 俺は一瞬ためらったものの、意を決してその手を握る。


「あ、ああ……よろしく……」


 握った手は思ったよりも細く、だが弓を扱う者らしい、しっかりとした感触があった。

 その一連のやり取りを見届けたフェレツは、"今だ"と言わんばかりに声を発した。


「そ、それでは……皆様お揃いのようですので、依頼内容の説明をいたしますね!」


 人差し指を立て、少しだけ声を張るフェレツに、

 俺、アルバート、ブラム、ミアの四人は自然と視線を向け、場の空気が引き締まる。


 先ほどまでの軽い空気が、すっと仕事の色へと切り替わった。


「今回、皆様に討伐していただきたい魔物は――"サンド・バッド"という魔物です」


 フェレツはそう告げながら、真剣な表情で続ける。


「この魔物は、街から少し離れた砂漠地帯に群れで生息しています。砂漠への装備や水分補給など、準備は必ず万全にしてください」


 そして、一呼吸置いてから、重要な注意点を口にした。


「それと――サンド・バッドの唾液には、非常に強力な催眠作用があります。噛まれた場合、ほぼ確実に意識を失いますので……くれぐれもご注意ください」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の背中に冷たいものが走った。


(なるほど……だから単独で行かせないのか)


 群れで行動し

 噛まれれば意識を奪われ

 動けなくなった獲物を囲んで仕留める。


(噛まれた瞬間、終わりだ……)


 想像するだけで、背筋がひやりと凍る。


 そんな俺の思考を察したのか、フェレツは申し訳なさそうに肩を落とし、少し声を弱めた。


「……正直に申し上げますと、この依頼は危険性の割に報酬が高くありません。そのため、どうしても人が集まりにくくて……」


 フェレツのその言葉には、ギルド職員としての苦悩と、それでも依頼を成立させなければならない責任感が滲んでいた。


 一瞬、場の空気が張りつめる。


 だが、フェレツはそこで顔を上げ、ぱっと表情を明るくした。


「その代わりです!ギルド権限で、皆様にはランクポイントを多めに付与させていただきます!」


 その言葉を聞いた瞬間――アルバート、ブラム、ミアの三人の表情が、ぱっと明るく変わった。


「ポイント多め?」


 アルバートは目を輝かせる。


 ブラムも、無言ながらもわずかに口元を緩め、静かに頷いた。


 ミアに至っては、分かりやすく拳を握りしめている。


 それを見て、フェレツは少し安心したように胸をなで下ろし、改めて元気な声で告げた。


「それでは――皆さん!どうか、よろしくお願いします!」


 深々と頭を下げるフェレツ。


 その真剣な姿に応えるように、アルバートは軽く肩を回し、準備運動でもするかのように首を鳴らした。


「いやー、可愛い子ちゃんにそこまで言われたら、やるしかないっしょ!」


 そう軽口を叩きながら、アルバートはフェレツに背を向け、ギルドの扉へと歩き出す。

 ブラムは一度だけフェレツに視線を向け、短く、しかし確かな意志を込めて頷いた。


 そして――


「よっしゃー!頑張るぞー!」


 ミアは両手を高く上げ、場の空気を一気に明るくする。

 そのまま彼女は、何のためらいもなく俺の手を掴んだ。


「ほらグレイノースくん!ぼさっとしてないで行くよ!」


「え、ちょ――!」


 抗議する間もなく、ぐいっと引っ張られ、俺はそのまま二人の後を追う形で扉へと向かうことになる。

 冒険者ギルドの扉を抜けると、昼間のカルバンの街が広がっていた。俺たち四人は、砂漠地帯へ向かうため、城門を目指して歩き出す。


 これから待っているのは、

 群れで襲い、眠りに落とす魔物との戦いだというのに――


 アルバートは楽しげに鼻歌を口ずさみ、

 ブラムは静かに剣の柄に手を置き、

 ミアは弓の位置を確かめながら、どこか弾んだ足取りで歩いている。


(……この人たち、本当に緊張してないな)


 俺は少しだけ呆れつつも、不思議とその空気に悪い気はしなかった。


 臨時で組まれた、即席のパーティー。

 それぞれ違う理由と想いを抱えながら――

 俺たちは、戦場へと向かっていった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


次回は【明日19時】に更新予定です。


引き続き

ここから物語は動き出します!!

明日の更新も楽しみにお待ちください!


ブックマーク・評価・リアクション、とても励みになります。

また次回もよろしくお願いします!

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