表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/97

第41話 魔力の使い方

 




 俺――グレイノースは"モデリスク"に入国した。

 

 ラディナ村から国境の門まで徒歩で半日かかった。

 そして、俺は今、モデリスク王国の王都カルバンを目指して《瞬速》を使い、休む暇も惜しみ丸1日ひたすら草原を駆け抜けていた。


 俺は体から魔力が抜ける感覚に不安を感じ足を止めた。


 王都カルバンまでの正確な距離が分からない。

 だからこそ、無駄に魔力を消費する訳にもいかず、残りの魔力の量に不安を抱いたのだ。

 

 俺はじりじりと照りつける朝日をぼんやりと見上げた後、周囲を見渡した。

 

 見渡す限りの緑。


 俺は歩きながら地図を広げ、現在地と方角を慎重に確かめる。


「方角は……合ってるはずなんだけどな……」


 本当なら馬を使えば、魔力も消費せず楽なのだろう。

 しかし残念ながら、俺には馬に乗る技術がない。

 さらに言えば、馬車に乗れば必ずといっていいほど酷い酔いに襲われる体質だ。

 できれば避けたいというのが正直なところだし、そもそも馬車を雇う金すら今の俺にはない。

 頼みの綱である “転移” のスキルも"行ったことのある場所"を鮮明に思い描けなければ使えないという不便仕様だ。

 つまり、まだ訪れたことのないカルバンへは自力で向かうしかないわけで。

 

 小さく呟き地図と風景を見比べていると――


 キィンッ!


 澄んだ金属音が、風に乗って俺の耳に届いた。鋼と鋼がぶつかり合う、鋭くて、どこか切迫した音。


「……ん?」


 思わず足が止まる。

 このあたりに人がいるとは思っていなかった。

 だが今の音は、どう聞いても戦闘のそれだ。


 胸の奥に緊張が走る。

 ためらっている暇はない。

 

 俺は地図を丸めて収納し、音のした方向へと駆け出した。

 

 音の発生源を探して草原を駆け抜けた俺の目に飛び込んできたのは――想像をはるかに超える光景だった。

 ひと目で“巨人”とわかる異形。

 全身が鋼鉄のように硬質な岩で構成された、まるで生きた要塞のような化け物がそこにいた。

 そいつと対峙するのは、背丈の低い、しかし目に強い意志を宿した男だった。

 巨人は唸りを上げるように右腕を振り上げ、巨大な拳を地面へ叩き落とす。

 空気が歪むほどの破壊力を孕んだ一撃だ。

 男は紙一重でその拳をかわしたが、直後――


 ドガァンッ!


 岩の拳が地面をえぐり、凄まじい土煙が一帯を包み込む。草原とは思えぬ荒々しい衝撃が、遠くにいる俺にさえ伝わってくる。

 それでも男は怯まなかった。

 歯を食いしばり、小柄な体を限界まで動かしながら、両手で握る小さな斧を構え直す。

 次の瞬間、男は全身をバネにして巨人の足へと飛び込み、斧を横薙ぎに振り抜いた。


 ガキィィン!


 衝撃音とともに、巨人の足の岩が一部欠けて砕け散る。

 

 しかし――。


(効いていない……!)


 遠目に見ていても、巨人が受けたダメージが微々たるものだと分かった。

 その圧倒的な質量。そして岩の硬度。

 男の斧では、あまりにも相性が悪すぎる。


「くっ……!」


 男は悔しさを噛み殺すように低くうめく。

 だが、諦めている気配は一切ない。

 むしろ自分を奮い立たせるように斧を引き戻し、再び振りかざそうとした――その瞬間。


 ドシュッ!


 巨人の太い足が横から薙ぎ払われ、男の身体を思い切り蹴り飛ばした。

 まるで布切れのように宙を舞い、数メートル先の草原へ叩きつけられる。


「……っ!」


 見ているこっちの胸まで痛くなるほどの衝撃だった。

 だが、男はそれでも倒れたまま終わらなかった。震える足を必死に踏ん張り、血の流れる額を抑えながらゆっくりと立ち上がる。

 その姿は、もはや意地と覚悟そのものだった。


 ――このままだと、まずい。


 胸の奥で警鐘が鳴るよりも早く、気がつけば俺の身体は勝手に動き出していた。

 全身に力を込め、草原を蹴って巨人へ向かって駆け出していた。


 ――スキル《瞬速》


 発動の瞬間、世界が一段階早回しになる。

 足元を草が線のように流れ、風が刃のように頬を触れる。

 全身が弾丸になったかのような加速感が骨の髄を震わせた。

 移動の勢いをそのまま殺さず、腰の剣を抜き放つ。

 狙うは岩の巨人の胴体。


「はぁッ!」


 力任せの一撃ではない。

 瞬速でつかんだ最速のタイミングで剣を振り抜く。


 だが――。


 ガキィンッ!!!


 鈍く重い衝撃が腕を通って肩まで突き抜け、次の瞬間、俺の身体はまるで投石機で弾かれた石のように後方へ吹っ飛ばされた。


「な、硬っ……!!」


 思わず情けない叫びが喉から漏れる。

 空中で体勢を立て直す暇もなく、そのまま地面に叩きつけられたが、瞬速の慣性でどうにか転がり受けを作り、巨人と戦っていた背の低い男の近くへ着地する。

 男は振り返り、驚きと心配の入り混じった声を上げた。


「小僧……!大丈夫か!?」


 俺は歯を食いしばりながらも無言で頷く。

 その様子に、男は険しい表情で俺へ言葉を投げた。


「小僧……加勢は嬉しいが、逃げろ!あいつはアイアン・ゴーレム……鋼以上の硬度を持つゴーレムの一種だ!」


 そして、強く言い放つ。


「並の剣では刃がたたん!それに奴は魔法も効かんぞ!」


 その警告は、風よりも鋭く俺の耳に突き刺さった。


 男の叫びが耳に届いた瞬間、俺の身体は反射的に動いていた。意識するより先に、手の内へ魔力が流れ込み、熱となって脈打ち始める。


 剣も魔法ダメ.....それなら....。


 その魔力は、握りしめた“幻装剣”へと一気に伝わっていった。刃が震えるように淡い光を帯び、やがて紅色の輝きが広がっていく。まるで剣そのものが呼吸し、目覚めていくかのように。

 その変化を目にした背の低い男は、信じられないものを見たように目を見開いた。


 そして次の瞬間、戦闘中だというのに俺の前へ割り込むように近づき、食い入るように剣を凝視する。


「こ、こ、こ、小僧!!そ、それは……っ!!」


 そんな呑気な反応をされて、思わず頭に血が上った。


「おい、おっさん!邪魔だって!!」


 剣を振るう軌道に入り込まれたら何もできない。

 俺が怒鳴ると、男はビクリと肩を震わせ、慌てて両手を上げた。


「す、すまん!」


 焦った様子で数歩下がるその背中に、つい呆れたため息が漏れる。

 しかし、今はそっちに構っている暇はない。

 

 俺はすぐさま視線を戦場へ戻した。

 

 岩の巨人――アイアン・ゴーレムは、依然として無機質な赤い光を瞳に宿し、こちらを見下ろしている。

 

 息を整える。

 

 掌から剣へ流れ込む魔力の脈動を感じ取り、その流れを理想の形へ導く。

 魔力が刃の芯を走る感覚に合わせ、俺はスキルを発動させた。


 ――スキル《爆炎魔法》


 低く呟いた瞬間、魔力が爆ぜるように膨れ上がった。

 

 俺の掌から溢れた炎は荒ぶる獣のように蠢き、幻装剣の刃へと燃え移っていく。紅の刃はさらに深い朱へと染まり、やがて轟々と燃え盛る“業火の剣”へと変貌した。

 炎の揺らぎに合わせて空気が震え、視界が揺らめく。


 そんな中、俺は両手で剣の柄をしっかり握りしめ、一歩、前へ踏み込んだ。


 ――スキル《縮地》。


 足元の影が伸びると同時に、景色が一気に引き寄せられたように歪む。

 

 次の瞬間には、俺はアイアン・ゴーレムの目の前――いや、ほぼ真下にまで到達していた。


「おおおおッ!!」


 燃え上がる剣を高く振りかぶり、渾身の力で振り下ろす――その直後。


 ズキィィッ!!


 雷のような激痛が体中の神経という神経を焼いた。

 

 視界が弾ける。

 呼吸が止まりそうになる。

 

 それでも俺は歯を食いしばり、強引に剣を振り下ろした。


 ――ガギィィンッ!!


 轟音とともに、炎を纏った刃がアイアン・ゴーレムの腕を捉え、まるで紙を裂くように切断する。

 切り落とされた巨腕が地面に叩きつけられ、続けざまに本体がゆっくりと崩れ落ちた。


 ドオォォォォンッ!!


 大地が揺れ、響き渡る地鳴りが草原中に広がる。


「ぐっ……!!」


 勝利の感触よりも先に襲ってきたのは、全身を貫く激痛だった。

 

 足に力が入らず、俺はその場で膝をつく。

 左腕――魔力を大量に流し込んだ腕の神経が紫色に浮き上がり、まるで脈動する炎の跡のように跳ねていた。

 

 熱い。痛い。


 血が逆流するような不快な感覚が腕を苛む。

 その異様な光景に気づいた背の低い男が、目を丸くして駆け寄ってきた。


「お、おい……!小僧、その腕……!」


 静かに、しかし明確な困惑と驚愕を滲ませながら、男は俺の左腕を見つめて呟いた。


「ま、魔膨症……か……」


 背丈の小さな男が呟いたその言葉の意味を問おうと口を開くが、

 

 ――言葉が出ない。

 

 左腕を中心に全身を蝕む激痛が、喉の奥まで塞いでしまう。

 俺の状態に気づいた男は、険しい顔で続けた。


「いいか、小僧!お主の体は、内側から溢れる膨大な魔力に……耐えきれておらん!体に対して魔力が大きすぎる……」


 その症状について、薄々自覚はあった。

 自分の魔力が常に暴れ、制御しきれていない感覚。

 

 だが――どう抑えればいいのかは分からない。

 

 激痛に顔を歪める俺を見て、男はどこか感心したように言葉を紡いだ。


「本能とも言うべきか、それとも才能なのか……。だが幸い、お主は魔力そのものを“感じて”はおるようじゃな」


 感じる……?

 

 その意味を理解する余裕もなく、俺はただ痛みに耐えることしかできなかった。


 そんなときだった。


 ――ギギ……ギ……。


 重い岩同士が擦れる嫌な音が聞こえた。

 視線を向けると、切り落としたはずのアイアン・ゴーレムが、ゆっくりと、しかし確実に立ち上がろうとしていた。


「っ……!」


 男は焦りの色を浮かべ、俺の耳へ届くよう声を張り上げた。


「小僧!よく聞け!時間がない!お主は魔力を“感じる”ばかりで、“使って”おらん!魔法を使う時に全てを出すんじゃない!必要な分だけ……必要な形だけ……魔力を流すのだ!」


 使う……。


 言われて気づく。

 

 俺は今まで、転移の時も、たった今の爆炎魔法でも、“魔力を全部スキルに注ぎ込む”ことしかしていなかった。


(必要な分だけ……?)


 理解はできない。

 

 だが――俺のスキル《超直感》が意識するより先に、身体の奥で魔力の流れを変えた。

 

 暴走する奔流が、次第に穏やかに。

 全身へ薄く静かに広がっていく。


 その瞬間――


 痛みが消えた。


「……いける」


 立ち上がりながら俺は、再び“幻装剣”を握りしめた。


 ――スキル《爆炎魔法》。


 魔力が“必要な分だけ”刃へと流れ込む。

 

 紅く染まった剣身は、先ほどよりもずっと鮮烈な炎を纏い、空気を焦がすほどの熱量を放ち始めた。

 

 だが先ほどに比べて炎は、小さい。


 だけど……立てる……!


 アイアン・ゴーレムが、軋む音を立てながら完全に立ち上がったその瞬間――俺は“幻装剣”の柄を力強く握りしめ、地面を蹴りつける。


 ――スキル《縮地》


 景色が弾けるように流れ、俺の身体は風そのものに変わったかのように一気に距離を詰めた。

 次の瞬間には、巨体の眼前――いや、“懐”へ潜り込んでいた。そこからさらに、俺は魔力を足へ集中させる。


 ――スキル《雷走》


 雷鳴のような衝撃とともに、体が直角に跳ね上がる。視界が一気に開け、俺はアイアン・ゴーレムの頭上――完璧な死角を捉えた。

 巨人は俺の急激な軌道変化に遅れて反応し、顔を上げるように視線を向けてくる。

 拳が振り上げられ、巨腕に鈍い輝きが宿るが――


 ――遅い。


「はああああッ!!」


 すでに俺は剣を振り下ろしていた。

 紅蓮の炎を纏った幻装剣の刃が、空間を裂くような音を立てながら降り注ぐ。

 刃がアイアン・ゴーレムの頭部に触れた瞬間、熱と魔力が爆ぜ、鋼鉄より硬い岩の巨体を、あまりに容易く断ち割った。


 ――ズシャァァァッ!!


 頭部から胴体へ、一直線に走る断面。

 巨体は割れるように左右へ崩れ、地面へと沈んでいく。


 ドオォォンッ!!


 大地が揺れ、土埃が舞い上がる。


 その中を、俺は静かに地面へ着地した。


 背後から視線を感じ、振り返ると――背丈の低い男が、ぽかんと口を開けたまま、しかしどこか感心した色を宿して俺を見つめていた。

 まるで、信じられないものを見ているようだった。



読んで頂きありがとうございます!

ブックマークと評価頂けると作者の励みになります!


次回は明日18時00分の投稿予定です!

明日は、出会った男と共に王都カルバンへ!

物語は大きく動き始めています!


明日もこの時間にお会いしましょ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ