第33話 挑む"叡傑竜への反撃"
※一部、加護の名前を変更しました。
◯◯増化→◯◯増加
俺――グレイノースは、叡傑竜へと剣先をまっすぐ向けて立ちはだかった。
背後に感じるのは、頼れる仲間たちの気配。
グラッドは巨大な剣を肩に構え、フィーネは杖を握りしめて魔力を練り、アルは弓に矢を番えたまま叡傑竜を睨みつけている。その三人の気迫は、まるで張りつめた糸のように、少しの衝撃で切れてしまいそうなほど鋭く、研ぎ澄まされていた。
いつ飛んでくるとも知れない叡傑竜の一撃に備え、それぞれが限界まで神経を尖らせているのが伝わってくる。
そんな仲間たちの背を預かりながら、俺は静かに、自身のステータス画面を開いた。
【スキル】
・転移 ・超回復・瞬速 Lv2
・縮地 Lv2 ・底力 ・雷走
・忍耐 ・闘志 ・暗視
・獅子奮迅 ・小鬼の戦気
・牙狼の咆哮
【加護】
・攻撃増加(大) Lv2・体力増加(中) Lv1
・俊敏増加(大) Lv1・防御増加(大) Lv1
・魔力増加(中) Lv1
――何か。
何か突破口はないのか。
焦燥と冷静な思考が同時に渦巻く中、俺は必死に答えを探す。頭の中で、今までの旅路が走馬灯のように蘇っていく。
スキルを見る度に思い出す数々の戦い。絶望に追い詰められ、それでも足掻き続けたあの日々。
そして――“転移”と”真眼”。
無能と罵られ、何一つ誇れるものがなかった俺を救い、幾度も窮地を切り開いてきたスキル。
必ず何か、活路があるはずだ。
その強い思いだけを胸に、俺はさらにステータス画面を凝視する。
――その時だった。
ふと、視界の端で、俺が握りしめている剣がきらりと光った気がした。
その瞬間、ひとつの仮説が胸をよぎる。
転移は、ステータス画面にスキルを移せる……ならば。武器のステータスにも――移せるのではないか?
喉が乾く。
胸が高鳴る。
もしこれが正しければ、突破口どころか、一撃必殺の攻撃が放てるかもしれない。
俺は震える指先で、そっと自身のステータス画面に手を翳した。
スキルを指定し――
ーー《転移》
転移先に、武器のステータス欄を選び取る。
次の瞬間、俺の体からスッと何かが抜け落ちるような感覚が走り、
剣のステータス欄に、確かに転移したスキルの文字が浮かび上がった。
「……やっぱりだ。いける……!!」
胸の奥が熱くなるのを感じながら、俺は迷わず、必要最低限の補助スキルを残し、残りの全ての攻撃系スキルを武器へと転移していく。
一つ、また一つとスキルが移る度に、手に握る剣が異様なほど重く、そして熱く脈打った。
狙うは――一点突破。
全ての火力を、一撃に収束させる。
これなら……!
これなら、叡傑竜を斬り伏せられる!!
武器へスキルを集約したことで胸の奥に希望の光が灯り、その勢いのまま俺は声を張り上げた。
「グラッド!フィーネ!アル!……頼む……!一瞬でいい、隙を作ってくれ!!」
俺の叫びは迷いなく仲間へ届き、三人は即座に頷いた。それぞれの表情には、恐れ以上に“覚悟”が宿っている。俺の無謀に見える頼みを、信じてくれている目だった。
その中で、最初に動いたのは誰よりも前線で戦い抜いてきた男――グラッドだった。
「任せろッ!!」
雄叫びと共に巨躯が地を蹴り、叡傑竜へ一直線に突っ込む。続けざまに、背後で魔力が高まり、フィーネが凍気を纏う槍を放ち、アルが雷光を宿した矢を放つ。
グラッドの大剣が叡傑竜の頭部めがけて振り下ろされる――しかし、硬質な音と共に弾かれた。
それでも彼は怯まない。地面に着地した瞬間にはすでに踏み込む動作に移り、次は胴体へと刃を叩きつけに行く。
弾かれても、また走る。
振り払われても、再び迫る。
その姿は、まるで不屈そのものだった。
一方、フィーネとアルの攻撃も止まらない。
氷の槍は鋭く、雷の矢は閃光のごとく叡傑竜の巨体へ突き刺さる――が、表面を焼き焦がすことすら叶わない。
それでも二人は決して手を止めなかった。攻撃を捻じ伏せられようとも、魔力が枯れようとも、仲間のために矢を、魔法を撃ち続ける。
――俺のために。一瞬の、その一瞬の隙を作るために。
彼らの覚悟は、叡傑竜の咆哮よりも重く、胸に響いた。三人の覚悟が、背中を強烈に押した。
ならば俺も応えなければならない――そう思った瞬間、俺は地面を蹴り出していた。
握り締めた剣が熱を帯びる。叡傑竜へ向かう自分の足音が、戦場のざわめきに溶けて消えていく。
上空では、フィーネとアルの魔法が閃光となって飛び交い、俺の頭上を白と金の軌跡が走る。
そして聞こえるグラッドの咆哮。
あの声が、胸の奥底に火を灯した。
フィーネの氷の槍とアルの雷の矢が、叡傑竜の左目を狙って一直線に突き刺さる――
だが、またしても透明な障壁がそのすべてを受け止めた。
ならば、今しかない。
「今だ!!」
意識より先に体が動く。
ーー《縮地》
ーー《瞬速》
ーー《雷走》
武器に転移させた攻撃スキルとは別に、俺に残した最小限の加速系スキルが一斉に発動する。視界が伸び、世界が一瞬止まったかのように静まり返る。
次の瞬間には、俺の姿は叡傑竜の眼前へと跳び移っていた。
狙うは叡傑竜の“右目”。
「行けぇぇぇッ!!」
全身から力を絞り出し、剣先に一点集中させる。
叡傑竜は咄嗟に巨大な腕の甲を右目を覆うように広げるが――もう遅い。
剣が叡傑竜の甲へ接触した瞬間、武器に転移させたスキル郡が爆ぜるように発動した。
硬い鱗を貫く、鋭い手応え。
叡傑竜の巨躯が大きく震えた。
次の瞬間、叡傑竜の腕が振り払われ、俺の体に衝撃が直撃した――全身が宙を舞い、視界がひっくり返る。
そして、
――ドンッ!!
激しい衝撃と共に、背中から壁に叩きつけられた。意識が揺れ、肺から空気が全部押し出される。だが、確かに手応えはあった。叡傑竜の鱗を、俺たちはついに貫いた。
湧き上がる歓喜を、俺は必死に押し殺した。まだ終わっていない。ここで気を抜けば、全てが水の泡だ。
俺の視線は、叡傑竜の腕の甲に深々と突き刺さった自分の剣に向けられていた。傷口からは黒い煙が漏れ、確かにダメージを与えた証がそこにある。
「フィーネ!あそこに魔法を!!」
俺の叫びに、フィーネは弾かれたように顔を上げ、強く頷いた。
「……はいっ!」
杖を両手で握り、魔力を一点に凝縮させる。
空気がビリビリと震え、光の粒がフィーネの周囲に吸い寄せられていく。
ーー魔法《落雷》
次の瞬間、轟音が戦場を裂いた。
天井を貫くほどの白光が降り下ろされ、俺の剣へと吸い込まれるように落ちる。まるで剣が避雷針そのものになったかのように、雷撃は一直線に金属へと流れ込み、刃を通して叡傑竜の傷口へと滑り込んだ。叡傑竜の全身が、内側から青白く弾ける。
バチバチと肉が焦げる音。
体表を這う雷光。
巨躯を揺らす痙攣。
俺たち四人は、息を飲んだ。
そして――静寂。
耳鳴りだけが残り、周囲の時間が止まったかのように感じられた。
「……や、やった……のか?」
アルが搾り出すように呟く。
その声と同時に、生唾を飲み込む音が、やけに大きく響いた。
勝利――そんな二文字が喉まで出かかった、その時だった。
ゴウッ……!
叡傑竜の瞳が、かっと見開かれた。
血走り、怒りと滾る生命力を宿したままの、獣の目。その視線が、まっすぐに俺たちを貫いた。
まるでこう告げているかのように。
――まだ終わっていない。
――生きているのは、この大いなる竜だと。
叡傑竜は、まだ倒れていない。
雷撃を受けてもなお立つ叡傑竜の姿に、俺は言葉を失った。焦げた煙が立ち上り、巨大な体に何度も攻撃しているはずなのに――その瞳には、確かな生の光が宿っている。
この化け物がっ……
横目に映った仲間たちの気配からも、その衝撃が伝わってきた。グラッドは歯を食いしばり、拳を震わせている。
フィーネの表情は青ざめ、アルの手は弓を握ったまま固まっていた。
――絶望。
三人の胸中に広がるその色が、痛いほど伝わってくる。だが、俺の心に浮かんだのは別のものだった。
もう……あれをやるしかない。
先ほど、突破口を探して必死に思考を巡らせたとき、俺の脳裏には二つの方法が浮かんでいた。
一つ目は、使える限りの攻撃スキルを武器へ転移し、一点突破を狙う方法。
実際、それで確かに傷はつけられた。
効果もあった。
だが――それでも倒しきれないなら。
もう一つの方法に、賭けるしかない。
心臓が強く打つ。
手の平が熱を持ち、鼓動が全身に響く。
俺はゆっくりと拳を握りしめた。
この一撃で仕留める。失敗すれば全滅。
だが、成功すれば終わらせられる。
仲間たちを守るために。
俺がここで、倒れるわけにはいかない。
深く息を吸い込み、叡傑竜の巨体を正面から見据えた。
――覚悟は決まった。
俺は、揺らぐことのない目で叡傑竜を見上げ、生唾を飲み込んだ。
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次回 第34話「挑む"叡傑竜と裏切り"」
明日も20時30分の投稿です!
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