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第30話 進む"迷宮の最深部"




 俺グレイノースと《蒼天の翼》が迷宮の奥へ進む途中、俺たちの目に、小さな輝きを放つ物体が映った。


「宝箱……?」


 思わず声を漏らす。俺自身、こんなものを見るのは初めてだった。不思議そうにその宝箱を見つめる俺に、フィーネがゆっくりと説明を始める。


「この宝箱……迷宮が生み出したものなのよ」


 フィーネの声は落ち着いていたが、その瞳は知的な輝きを宿していた。


「中には財宝や、珍しい武器、防具が眠っていることが多いわ」


 俺は思わず宝箱を覗き込み、わずかに息をのむ。その存在は、まるで迷宮そのものが俺たちに与えるご褒美のように感じられた。


「この宝箱、時間をかけて迷宮が作り上げるものなの。生まれてからどのくらいの年月が経っているかで、中身の価値が変わるらしいわ」


 なるほど、だから迷宮の奥に行けば行くほど、より高価で貴重な物が眠っているのか、と俺は納得する。


「一部の仮説では、この迷宮自体が錬成系のスキルで生み出されたものだと言われていて……この宝箱もその錬成の一部だって説があるの」


 後から知ったことだが、フィーネは単なる冒険者ではなく、迷宮の研究者でもあったらしい。冒険者として迷宮を攻略する(かたわ)ら、学者として迷宮の仕組みを解明するための研究も行っているのだという。


 なるほど……そういう理由で、彼女はこの迷宮を熟知しているのか


 俺は感心しながら、宝箱を前に胸を高鳴らせる。興味本位で、俺はゆっくりと宝箱に手を伸ばした


 その瞬間——


「まて!!」


 グラッドの声が洞窟内に響き渡り、思わず俺は手を止めた。宝箱の前で一歩立ち止まり、息を整えながら声を返す。


「宝箱には、罠もある……不用意に近づかない方がいい……アル、頼むぞ」


 グラッドのその言葉に、アルは静かに頷き、宝箱に手を(かざ)した。


 ーー《罠探知》


 アルの手が淡い光を(まと)い、まるで空間が反応するかのようにスキルが発動する。洞窟内に漂う空気がわずかに震え、宝箱周囲の魔力の流れが浮かび上がる。

 数秒の沈黙の後、アルはゆっくりと頷き、安心したように口を開いた。


「うん……大丈夫だ!」


 その言葉に、グラッドもフィーネも表情を緩め、胸を撫で下ろす。グラッドの目が一層輝きを増し、思わず笑みがこぼれる。


「よし……じゃあ、開けるぞ!」


 俺たちは息を合わせ、慎重に宝箱の(ふた)を開いた。中から放たれる微かな光が、洞窟内の暗闇に反射して、宝の存在を示していた。

 ゆっくりと、ゆっくりと宝箱の蓋が開くたびに、俺たちの目は好奇心に満たされ、胸が高鳴った。中から差し込む微かな光が、暗い洞窟の奥で揺らめき、まるで中身が何であれ、俺たちを惹きつけるかのようだった。


 しかし――


 俺は思わず、ぽつりと声を漏らした。


「何……これ……?」


 宝箱の中にあったのは、見るからに錆びついた一本の短剣だった。その刃は年月のせいか黒ずみ、柄には深い傷が刻まれている。

 グラッドは眉をひそめ、ゆっくりとその短剣を手に取り、じっと眺める。光の加減でわずかに輝く刃先を見つめながら、疑うような目を俺たちに向ける。


「……ただの、短剣……だな」


 俺とラル、フィーネは肩を落とし、大きくため息をつく。この浅い階層で手に入るものがこんなものだと分かると、気持ちも少ししぼんだ。

 だが、そんな空気をグラッドは払うように、朗らかに声を上げた。


「まぁ、浅い階層だしな……それに、道具屋で鑑定してもらったら案外、お宝かもしれないぞ!」


 鑑定――

 

 それは、一部の商人や道具屋などが使える特別なスキル。武器やアイテムの価値や能力、隠された情報までを見抜くことができるあれば便利なスキルである。


 鑑定、か……


 その言葉を聞いた瞬間、ふと胸の奥がざわつく。どこか、俺の持つ《真眼》と似た響きを感じたのだ。


 ――まさか、な。


 半信半疑のまま、グラッドが手にしている錆びた短剣へと意識を向ける。すると、視界がわずかに揺れ、俺の体の奥で何かが目覚めるような感覚が走った。


 ーー《真眼》


 視界の(はし)に淡い光が灯り、短剣の情報が浮かび上がる。



【武器名】錆びた短剣

攻撃力:+5

防御力:+0

特殊効果:なし



 あ……見えた……


 そして、同時に深いため息が漏れる。

 

 本当に、ただの短剣だ……


 グラッドが短剣を(かばん)にしまうと、視界に浮かんでいたステータス表示はゆるやかに霧散(むさん)し跡形もなく消え去った。場の空気を切り替えるように、グラッドは胸を張って声を上げる。


「よし、行くか!」


 その一言に、俺たちは自然と顔を上げ、足を再び前へと向けた。

 そこから先は、まさに迷宮らしい戦いの連続だった。深く潜れば潜るほど、魔物は凶暴さを増し、宝箱の中身もわずかに価値を()びていく。俺は戦いの中で魔物を斬り()せるたび、スキル《転移》で能力を奪い取り、自分の力として積み重ねていった。

 本当は、グラッドやアル、フィーネのステータスも気になって仕方なかった。だがこの先何が待つか分からない以上、無駄に魔力を使うわけにはいかない。俺はその衝動を抑えつつ、ただ前だけを見て歩いた。

 どれほど道を進んだだろうか。いつのまにか、俺たちの足は一つの巨大な門の前で止まる。


「……っ」


 目の前に広がるのは、天井まで届くような黒鉄(こくてつ)の門。その表面には、不気味な紋様(もんよう)が刻まれ、まるでこちらを睨み返してくるようだった。門の隙間から漏れ出る冷たい気配に、思わず背筋が震える。

 ボス――その入口が、今まさに俺たちの前に立ちはだかっていた。

 迷宮の深部――その最奥には、迷宮そのものを支える“核”が存在する。人々はそれを、迷宮の守護者にして最強の敵──“ボス”と呼ぶ。ボスを討伐すれば、迷宮はその機能を失い、やがて跡形もなく崩壊する。つまり、この巨大な門の先にいるのは、その迷宮の頂点に君臨する存在だ。

 胸の鼓動がひとつ大きく跳ねる。恐怖とも興奮ともつかない感情が、胸の奥で渦を巻いた。


「行くぞ……」


 グラッドの声に合わせ、俺たちはゆっくりと門へと手を伸ばす。四人の指先が黒鉄の門に触れた瞬間、重々しい音を立てて、門がゆっくりと左右へ開いていく。


 (うめ)くような(きし)む音。

 流れ込む冷たい空気。

 足元に伸びる暗闇。


 俺たちは息を呑みながら、その奥へと足を踏み入れた。中は闇に覆われ、視界はまったくと言っていいほど利かない。

 だが、確かに何かがいる。静寂の中、低く湿った“息遣(いきづか)い”だけが響いていた。


「っ……!」


 反射的に、フィーネが詠唱を紡ぐ。


 ーー魔法《空間小光(エリア・ライト)


 魔法が発動した瞬間、淡い光が空間一帯を照らし出す。

 光の輪が広がるにつれ、俺たちの視界は徐々に闇から解放され――そしてその光景を目にした瞬間、俺は言葉を失った。


「……っ……!」


 フィーネも、アルも、そしてグラッドまでもが、生唾を飲み込んで後ずさる。

 目の前には――圧倒的な“存在”がいた。

 闇の中から浮かび上がる巨大な影。

 岩塊(がんかい)のような(うろこ)

 刃のような爪。

 そして、金色の双眸(そうぼう)がゆっくりと俺たちを見下ろす。

 グラッドが震える声でつぶやく。


「こ、ここ……D級のはずだろ……?」


 当然だ。

 本来なら、こんな化け物がいるはずがない。


 なのに――なぜ。

 どうして――俺たちの目の前に……


「ド、ドラ……」


 迷宮の深層にも関わらず、本来あり得ない存在がそこにはいた。

 俺たちの眼前に立ちはだかるのは――(まぎ)れもなく、本物のドラゴンだった。



ご覧頂きありがとうございます!

グレイノースはどうやって強大な敵と戦うのか!

ぜひ、最後までとつきあいくぁさいあ!


明日も20時30分投稿です!    

お楽しみください!

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