表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/106

第26話 親友の居場所




 俺――グレイノースと村長トリストン=ハウスは、思わぬ形でパン屋で再会したあと、そのままラディナ村の避難所へと向かった。

 避難所は人々のざわめきと焚き火の匂いが(ただよ)い、どこか胸を締めつける空気が流れていた。俺とトリストンは、少し離れた木製の椅子に腰を下ろす。

 沈黙が落ちた。けれど、その沈黙は決して重いだけではない。再会の実感が胸に染み込んでくるような、そんな静けさだった。

 その静寂を破るように、トリストンは震える唇を噛みしめながら、けれど嬉しさを隠しきれない笑顔で言葉を(つむ)いだ。


「それにしても、よかった……。あの日、グレイが魔物に襲われたと聞いて、てっきり……私は……」


 言葉の続きを、彼は感情で詰まらせていた。その目は、まるで生き別れた家族を見つけたような優しい光で俺を見つめていた。その視線に背中を押されるように、俺はこれまでの旅路――遭遇した出来事や仲間との出会い、あったことを一つひとつ語った。トリストンは俺の言葉を遮ることなく、時折小さく頷きながら静かに聞き続けていた。

 ほんの数日間の出来事だというのに……俺には、数年分の時間を一気に駆け抜けたように感じられていた。


 話し終えた頃、なぜか胸の奥に微妙な違和感が引っかかった。


 ――何かが足りない。


 思考の奥底に沈んでいたその感覚が、ふと一つの名前となって浮かび上がる。


 リゼル――


 その名前が脳裏に浮かんだ瞬間、違和感は確信に変わった。俺はゆっくりと顔を上げ、トリストンに問いかけた。


「村長……リゼルは?」


 空気が、わずかに揺れた――。


 トリストンの表情がわずかに揺れた瞬間、空気も同じように震えた。その揺らぎは、まるで胸の奥底に黒い影を落とすようで、嫌な想像だけが勝手に膨らんでいく。


 気づけば、喉が勝手に震えていた。


「ま……まさか……リゼルは……し──」


 声が掠れ、言葉の続きを言うのが怖い。そんな俺の蒼白した顔を見たトリストンが、慌てて椅子を軋ませながら身を乗り出し、強い声で遮った。


「いや!リゼルは生きておる!」


 その一言が胸に飛び込んだ瞬間、張りつめていた全身の力がふっと抜けた。肺に、一気に空気が流れ込む。


 よかった……本当によかった。


 だが、生きているのなら――なぜここにいない?


 安堵の後に押し寄せる疑問に、自然と顔が曇っていく。俺の表情を読み取ったのか、トリストンは静かに視線を落とし、ゆっくりと口を開いた。


「リゼルはな……お主が死んだと思い込んでしまったようでな。自分の弱さを悔いて……強くなろうと決心して、どこかの国で冒険者を始めたらしい」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱く揺れた。


 ――リゼルらしい。


 あの子は俺よりずっと真っ直ぐで、ずっと強い心を持っている。ならば、どれほど時間がかかっても、どれほど遠くにいても、俺は必ず会いに行く。そして今度こそ、隣に立つ時は胸を張って言えるように。


 “リゼルと肩を並べられる冒険者になった”と。


 燃えるような決意が胸の底からせり上がり、俺は目を閉じて静かに誓った。


 ―― 今度は強くなった姿で、必ずまた会いに行く。


 リゼルの話題が落ち着いたところで、俺は胸の奥に沈めていた“本題”を引き上げる決心をした。ゆっくりと息を吸い、トリストンへ視線を向ける。


「なぁ、村長……あの日、父さんが姿を消した日。俺の目の前で、騎士団が父さんを連れて行った……あれって、どこの国の騎士だったのか、聞いてないか?」


 俺の問いかけに、トリストンはわずかに眉を寄せた。記憶の奥を手探りするように視線を落とし、言葉を選び抜くようにゆっくりと口を開く。


「……すまない。どこの国なのか……そこまでは、分からないのだ」


 その声音(せいおん)には、(くや)しさと申し訳なさが滲んでいた。


 胸がわずかに沈む。

 期待していた答えが得られないことが、こんなにも重くのしかかるとは思わなかった。


 俺はそっと息を吐いた。


 だが――トリストンは続ける。


「だがな、グレイ。お主の父……マグナスと(えん)のある国であることは、間違いないだろう。彼との付き合いは長かったが……私自身、彼の故郷を知らぬ。マグナスは、あまり自分の過去を語ろうとはしなかった……」


 静かな声だった。

 だが、その言葉は確かな重みを持って俺の胸に落ちる。


 父の故郷。

 父の縁。

 父が語らなかった過去。


 そのすべてが、父の死の真相を探すための道標になる。


 ……なら、探す価値はある。

 手がかりが少なくても、必ず辿りつく。


 村長は、俺の瞳をじっと見つめ、何かを(さっ)したように、低く、しかし重みのある声で口を開いた。


「グレイ……お前、まさか……」


 その声に、俺は一瞬息を飲む。

 

 何を言おうとしているのか、長い付き合いの中で自然と理解できた。俺を育て、導いてくれた恩人――トリストン=ハウス。その言葉の端々に、彼の想いが滲んでいたのだ。

 そして、俺はその思いを受け止め、意志を込めて応える。


「ああ!俺は父さんの死の真相を突き止める……そのために、世界を巡ることにしたんだ!」


 トリストンは、目を細め、静かに、そして少し寂しそうに呟く。


「そうか……」


 その声の奥には、喜びと同時に、ほんの少しの不安が混じっているのを俺は感じた。だが、俺は言葉を止めない。胸の奥で燃え上がる決意を、さらに言葉に変える。


「まずは、モデリスク王国へ行こうと思う。あの国の騎士団は、皆、黄金の鎧を(まと)っているらしい……それに、個人的に気になることもあってな……」


 俺の顔を見つめるトリストンの瞳には、静かな覚悟と優しい信頼が映っていた。

 そして、短く、しかし確かに、彼は言った。


「頑張れ……」


 俺は拳を膝の上で強く握りしめた。胸の奥にあった小さな火が、トリストンの言葉によって一気に燃え上がってゆく。決意は、不安ではなく、確かな未来へ続く道に変わっていく。

 

 その思いが俺の胸に灯る思いを掻き立てる。




ようやく、村長とグレイノースが再開できました!

ここまで書くの長くてお付き合いありがとうございます!

まだ、個人的には序章みたいなもので、これから物語を加速させていきます!

引き続き、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ