第19話 森人が守る神秘の村
俺は何の説明も受けぬままに、エルフに連れられ、牢を後にした。
外に出ると、空はすでに夕焼けに染まり、森の隙間から淡い光がこぼれている。長く伸びた木々の影が地面を覆い、森全体がまるで揺れる幻想の世界のように見えた。
少し歩くと――そこは――広々とした円卓のある会議室のような場所。そこには高齢のエルフが静かに座し、その左右には男性と女性のエルフが控えていた。
高齢のエルフの隣には、俺が助けたメルナが立っている。
メルナは俺の顔を見た途端、ぱっと表情が明るくなり、目を輝かせて駆け寄ってくる。
「おにいさん!」
その声と笑顔に、胸の奥がほんの少しだけ温かくなるのを感じた。……助けられてよかった。
その思いが、自然に心に広がる。
その様子を見た高齢のエルフは、ゆっくりと立ち上がり、丁寧に頭を下げる。その動きには無駄がなく、長年の経験と品格が滲んでいた。
「ここは、この大森林の奥地にある我らエルフの里。この度の非礼、申し訳なかった。この子、メルナは馬車で眠ってしまっており、つい先ほど目覚めて全ての事情を聞いたところだ」
優しい眼差しでメルナを見つめ、わずかに微笑む。その表情には、長年の経験と穏やかさが滲んでいた。
その直後……
男性エルフと女性エルフが同時に立ち上がり、頭を深く下げる。
「「申し訳ありませんでした」」
その頭の下げ方は、ただの礼儀ではなく、魂の奥からの謝罪のように重く、真摯だった。 普段なら、ここまで深々と頭を下げる光景など見たことがない。
先に口を開いたのは、男性エルフだった。その声は穏やかだが、どこか重みを帯びている。
「私は、この村で村長をしている、セリヴァン=グレイスリーフと申す。この度は、私の娘の早とちりで、大変失礼な事をしてしまった。改めて謝罪する」
言葉に含まれた真摯さ――俺は思わず小さく息を呑む。
ただの形式的な謝罪ではない.......心の底からのものだと分かる。
次に、横に立つ女性エルフも恥じらうように顔を伏せ、そっと口を開く。
「私は、この村で兵士長をしている、フェリシル=グレイスリーフと申します!私の勘違いでご迷惑をかけ、大変申し訳ありませんでした!」
フェリシルは言葉を続ける前に、手のひらを高齢のエルフに向け、深く頭を下げた。その動作には、単なる礼儀を超えた、心からの誠意が宿っているのが分かる。
「そして、この方は、私たちの村の長老であり、叡智の王――ヨルフェン=グレイスリーフ様です」
自己紹介が終わると、三人は静かに椅子に腰を下ろした。
俺もその場で自身の名前を名乗る。
「俺の名前はグレイノース=リオンハーツ。冒険者です!」
その場に漂う空気は、緊張が走り、重厚さを帯びながらも、どこか暖かい光を含んでいるように感じられた。
俺はその場に座り、少し身をすくめつつ自然と視線を彼らに向ける。
長老ヨルフェンの目。
それは、ただの老人の眼差しではない。
長い年月を生き抜いてきた者の深い静寂と、過去を知る者の重みが宿っている。
ヨルフェンは静かに、しかし確かな口調で語り始める。
「我らエルフは、数百年前まで、人間にとっては奴隷売買の対象であった。だからこそ、逃げ、隠れ、この村を手に入れたのだ……」
その言葉に、俺の胸は自然と引き締まる。奴隷制度の歴史を知っていたとはいえ、生き抜いてきた彼らの痛みまでは想像できなかった。
「そのため、我らの村の者は、人間――特に男には、非常に敏感になっておる」
俺はその一言で、先ほどの森での騒動の理由をようやく理解する。
あの時のエルフたちの怒り……
剣を突きつけてきた恐怖……
すべては、彼らなりの防衛反応だったのだ。
ヨルフェンは、少し悲しそうな顔をした。
その瞳には、長年抱えてきた警戒心と痛みが滲む。
確かに、エルフは人間の目にほとんど触れない。
この国の人間がエルフに出会ったのは、ここ数十年前の話だと聞いたことがある。人間の目を避けるように村を移し、隠れて生きてきたのなら――納得できる。
だが……
「それにしても、警戒の強さは異常じゃないか?」
ヨルフェンは少し考え込むように眉を寄せ、静かに口を開いた。
「実は……この村では、数日前から何者かに狙われておってな。相次いで村の子供が連れ去られておるのじゃ……」
なるほど――だからか。
だから、俺のことも奴隷商人や盗賊と勘違いして、あんな剣を向けてきたのか。
俺は息を呑み、深く頷いた。長老の言葉で、あの森でのエルフたちの激しい怒りと行動の理由が、ようやく腑に落ちたのだった。
その瞬間――円卓を叩く鋭い音が部屋に響く。
バンッ!
フェリシルだった。
悔しさと怒りを押し殺せず、その拳を震わせながら叫ぶ。
「お祖父様! お父様! 私は、もう我慢できません!盗賊のアジトを見つけ出し、徹底的に叩き潰すべきです!!」
その瞳には、守れなかった者への悔恨と、奪われた子供たちへの怒りが渦巻いていた。だが、長老ヨルフェンは困ったように目を伏せ、小さく首を振る。
「フェリシル……其方の気持ちは痛いほど分かる。じゃが――奴らのアジトがどこにあるかも掴めておらんのだ」
言葉を区切り、長老は深く、重く息をつく。
「それに……其方が村を離れれば、その隙を突かれ、"また"村が襲われる可能性もある……」
フェリシルは歯を噛みしめ、肩を震わせた。
怒りと悔しさ、そして無力感――その全てが、部屋の空気をさらに張り詰めたものへと変えていく。
また……?
俺は長老の言葉に、どこか引っかかる違和感を覚えた。
気がつくと、無意識に声を出していた。
「"また"、と言うのは……?」
その問いに長老ヨルフェンの瞳がふっと柔らかく光る。懐かしむような、そして少し期待を寄せるような目だ。
「50年ほど前にも、この村は無数の盗賊に襲われておった……。元々、我らエルフは魔法を得意とする民。だが盗賊たちは魔法封じの結界を張り、当時の村に騎士団もなく……ただ蹂躙されるばかりだった」
長老は目を伏せ、過去を思い出すように僅かに肩を落とす。だが、次に口を開いた時、その目は希望に輝いていた。
「だがな、その時、たまたま村を訪れていた一人の少年――いや、英雄と言うべきか――彼が無類の強さで、この村を救ったのじゃ」
俺は思わず息を呑む。
エルフたちが辿ってきた過酷な過去を聞き、胸が締めつけられるようだった。同じ人間として、この悲劇を許せるはずもなかった。
俺はふと、無意識に好奇心が湧いた――エルフの力って、どれくらいなのか?
円卓のある広間は、夕焼けに染まった光で柔らかく照らされている。重厚な雰囲気の中、三人のエルフはそれぞれ座っている――いや、フェリシルは少し険しい顔で円卓を見つめている。
俺はそっと意識を集中させた。
――《真眼》
【名前】:ヨルフェン=グレイスリーフ
【体 力】:1800 【攻撃力】:850
【防御力】: 960【俊敏性】:880
【魔 力】:3050
【スキル】
・魔導 ー 使う魔法の威力増加、技能付与
・魔導の恵ー 魔力自然回復増加
・魔力操作 ー 魔法の操作
・魔力探知 ー 魔法の気配を感じる
【加護】
・魔力増加(極)
【技能】
・小火の球・氷結槍
・火炎球 ・氷結連槍
・業火球 ・氷結無槍
――――――
【名前】:セリヴァン=グレイスリーフ
【体 力】:2050 【攻撃力】:1500
【防御力】:1200【俊敏性】:1050
【魔 力】:2200
【スキル】
・魔力操作 ー 魔法の操作
・魔力探知 ー 魔法の発生を感じる
・剣士 ー 剣士としての知識を得る
【加護】
・魔力増化(超)
・攻撃増化(中)
【技能】
・魔斬一刀
・炎弾
――――――
【名前】:フェリシル=グレイスリーフ
【体 力】:2200 【攻撃力】:1350
【防御力】:1100 【俊敏性】:1400
【魔 力】:2800
【スキル】
・魔力操作 ー 魔法の操作
・魔力感知 ー 魔力を使う感覚を得る
・戦士 ー 戦いの知識を得る
・魔力付与 ー 魔力を武器に付与する
【加護】
・魔力増化(大)
・俊敏増化(中)
【技能】
・氷華剣刃
・氷弾
・氷連弾
やっぱり......
相手の顔を見れば発動できる.......
……にしても、魔力量、多いな。
この数日、戦ってきて俺はあることに気づいた。
ステータスが全てじゃない。確かに、ステータスはその人の力の目安にはなる。
だが、経験や知識、スキルの使い方次第で、戦況は大きく変わる――。
俺がそんなことを考えながらステータスに目を向けていると、入り口の扉が乱暴に開いた。血相を変えたエルフが駆け込んできて、声を張り上げる。
「しゅ、、、、襲撃です!」
その言葉と同時に、俺の心臓は跳ね上がる。
胸の奥で血が逆流するような衝撃が走り、鼓動が耳元で響いていた。
"何か"が起きた
胸の奥で、確かな不穏の気配が静かに芽吹くのを俺は感じていた。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
確実に読者の方が増えてるのを感じてます!
明日は、グレイノースと盗賊との戦闘。
グレイノースは、どのように勝つのか
乞うご期待です!
次回「第20話 森人が願う村の平和」
明日も20時投稿です!
よろしくお願いします!




