第18話 旅路で捕まる悲壮な誤解
俺は、なぜエルフたちに包囲されているのか――その理由がまったく見当たらず、ただ困惑するしかなかった。そんな俺に気にも止めず……今度は槍を持ったエルフたちが次々と姿を現した。
そして、 俺とメルナのあいだへ滑り込むように隊列を作り、槍先を一斉に俺へ向けてくる。
……ちょ、待て。なんで??
下手に動けば即、刺される――本能が、ぞくりと警鐘を鳴らした。
俺はゆっくりと両手を上げ、抵抗の意思がないことを示す。その瞬間、ひときわ目立つエルフが前へ出た。端正な顔立ち。気品と強さを兼ね備えた、まるで“気高い女騎士”のような雰囲気。
彼女は指揮官らしく、大きくよく通る声で周囲へ命じた。
「――その人間の子を保護しろ!」
すぐに数人のエルフがメルナへ駆け寄り、優しい声をかけながら馬車へと誘導する。
メルナはエルフに必死に事情を伝えようとする。
だが――興奮状態の彼らには、まったく届かない。
そして次の瞬間。
女騎士のエルフは、俺の喉元へ剣を突きつけた。
その瞳には怒りと、警戒と……何か別の確信が宿っていた。
「――この、異常者め」
え……? いじょう……?
俺は理解が追いつかず、言葉が詰まってしまった。
女騎士はさらに憎悪を込めて吐き捨てた。
「この下衆を、縛って村の牢に入れておけ!」
げ、下衆......!?俺が........なんで?
頭が真っ白になり、口も半開きのまま動かない。
数人のエルフが俺の腕を掴み、きつく縛り上げる。まるで“危険な凶悪犯”を捕らえるかのように。
反抗すれば即座に槍が突き刺さる――その確信があったから、俺はただ黙って従うしかなかった。
……いや、待て。マジで何がどうなってるんだ??
俺の困惑などお構いなしに、エルフたちは俺を引きずるようにして歩かせる。
しばらく歩くと、森が開け、木々の合間から“それ”が姿を現す。深森に溶け込むように広がる、広大なエルフの集落。
……ここは、エルフの村……?
まるで森そのものが生きて形作ったような――不思議な空間。その美しさを味わう余裕は.......当然ない。
俺が村に足を踏み入れた途端――突き刺さるような視線が、一斉に俺へ注がれた。
軽蔑。
敵意。
嫌悪。
まるで、悪臭を放つ獣でも見るような目だった。 そして俺は、家畜のように鉄製の檻へ投げ入れられた。
手足を縛られたままでは、受け身すら取れない。
痛ってぇぇ......
薄暗い檻の中で体勢を整える。
俺は目の前に立つ門番のエルフへ、必死に声を荒げた。
「待て!俺は何もしてない!もしここが禁足地だったなら......知らなかったんだ!」
だがエルフは、凍てついた蔑みの目を向けた。
「この期に及んで、まだ言い逃れをするか。
――お前があの少女を誘拐し、奴隷に売ろうとしていたことくらい、お見通しだ。」
その言葉を聞いた瞬間。
……ああ、そういうことか……
ようやく俺は理解した。
エルフたちは、完全に誤解している。
しかも、最悪の方向に。
「違う!俺は――」
必死に否定しようと声を発した瞬間だった。
カシュッ、と
鋭い音がして、檻の隙間から銀色の槍先が飛び出してきた。俺の眉先、数センチ手前で、ぴたりと止まる。
ほんのわずかでも前に出ていれば、頭蓋を貫いていた距離。
「――これ以上、その汚らわしい口を開けば……殺すぞ、人間!」
無感情ですらなく、純粋な殺意だけが宿った瞳。 俺は、ゆっくりと口を閉ざした。
これは脅しじゃない。
本気で刺すつもりの目だった。
喉奥が急激に冷え、言葉が喉に貼りつく
俺は、ゆっくりと口を閉ざした……いや、諦めた。
抵抗しても無意味だ――そう悟った時の、どうしようもない表情が、きっと顔に出ていたんだろう。
それを見たエルフは、怒りの火を無理やり鎮めるように息を吐き、感情を切り替えるようにして視線を正面へ戻した。
しばらくは、大人しくしておこう。
迂闊に動けば殺される。
とはいえ……暇だ。
やることが何もない。
手足も縛られているし、逃げるどころか背伸びすらできない。
……そうだ。
牢番のエルフのステータスでも見てみるか。
俺は、じっと牢番の背中を見つめ――
――《真眼》を発動。
……しようとした……が。
……何も起こらない。
《真眼》
《真眼》
《真眼》
微塵も反応しない。ただ、体の奥から魔力だけがスッ……と抜けていく感覚がある。
……あれ? “真眼”、壊れた?
いや、そんなはずは。
もしかして……相手の顔が見えていないとダメなのか?
思い返す。
今まで"真眼"を使ったとき――必ず相手と正面から向き合っていた。
なるほど。
背中越しじゃ効果が発動しない……ってことか。
ため息をひとつ漏らす。
俺はスキルの仕様を、また一つ理解した気がした。多分、だけど......
……仕方ない。
自分のステータスでも見るか
俺は意識を内側へ向け、自分自身のステータスを起動させた。
【名前】:グレイノース・リオンハーツ
【スキル】
・転移 ー 指定した物を移動させる
・超回復 ー 任意で全ての傷を治す
・瞬速 ー 身体能力以上の速さで移動する
・縮地 ー 瞬時に相手との距離を詰める
・底力 ー 1分間、攻撃する度に力が増す
・忍耐 ー 精神的苦痛を和らげる
【加護】
・攻撃増化 Lv5
・体力増化 Lv2
・俊敏増化 Lv2
・防御増化
・魔力増化
やっぱり……
同じ加護は重なって一つのレベル扱いになるのか。
それにしても、真眼に比べて情報量が少なすぎる。もし自分自身にも《真眼》が使えたら――
そんな、どうしようもないことを考えていたその時だった。
……コツ、コツ、と。
奥から、小さく、それでもはっきりとした足音が近づいてくる。静かなはずの牢屋の空気が、なぜか緊迫を帯びていく。
姿を現したのは、一人のエルフ。
落ち着いた歩調のまま牢番へ近づき、低い声で何かを告げる。
牢番の表情が、一瞬で変わった。
驚きとも焦りともつかない色が走り、慌てて鍵束を握りしめる。
ガチャリ、と鈍い音を響かせ、檻の扉が開いた。牢番は俺の正面に立ち、わずかに目を伏せてから、短く告げる。
「……釈放だ。出ていいぞ」
言い訳の余地も、理由の説明も一切ない――けれど、その声音にはただならぬ重さだけが宿っていた。
この後、俺はこの村の歴史を聞かされる事となる。非道で残忍で、人間の卑しい部分――
人間の闇を垣間見た……。
そんな気がした…………
最後まで読んでいただきありがとうございます!
ブックマークと評価ありがとうございます!
明日、エルフの村で起きた歴史が語られます。
ベタベタな展開ですが、ぜひ読んでみてください!
次回「第19話 森人が守る神秘の村」
明日も20時投稿です!
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