国王の追憶 −託される炎帝剣−
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本編は20時投稿します!
今回初めての外伝です!内容は新規さんも読みやすいように本編に深く絡まない作りになってます。
新規の方もぜひ、
ここから本編に入ってみてください!
今回は、国王視点の回想になります!
私は、この国――ラナリア王国を統べる王。セリオディアン=ラヴァニウス。
王としての務めを終え、久方ぶりに足を踏み入れた宝物庫は、ひんやりとした空気と懐かしい金属の匂いに満ちていた。
天井から吊るされた魔光灯が、数々の武具や宝具に淡い光を落とし、かつての冒険の日々を静かに語りかけてくる。
老いぼれた――などと側近に言われるが、ここに来ると心はあの頃のままだ。
若き日の私が、仲間と共に駆け抜けた大地、討ち倒した魔物、交わした誓い。それらが、手に触れれば今にも戻ってきそうな気さえする。
その中でも、ひときわ強い輝きを放つ一振りがある。
炎帝剣《インビジブル=クリムゾン》。
私がまだ“冒険者セリオ”と呼ばれていた頃、幾多の死線を越え、生還を重ねた相棒の剣。
刃を撫でれば、赤熱するかのように魔力が脈打ち、今でも真紅の炎が噴き上がる幻を見せる。
だが――。
「……ふぅ。やはり、この歳では持て余すか」
鍛えたつもりでも、衰えは隠せぬ。
若い頃のように軽くは振れず、魔力も剣に満足な呼応を返せない。王という立場もあり、再びこの剣を振るう場など、もう訪れはしないだろう。
だからこそ、私はこの剣の持ち主として、ある男に託したかった。
「……"あの男"が、素直に受け取ってさえいればな」
呟くたびに胸が締めつけられる。
"あの男" マグナス=リオンハーツ。
この国の英雄のひとりであり、誰よりも誠実で、誰よりも強かった男。
本来なら……この炎帝剣は彼の手に渡っていたはずなのだ。
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ーー二十年前。
マグナスがある功績を挙げ、王都アルセリオンへと招かれた時―――
「マグナス=リオンハーツよ……この度の其方の功績、褒めて遣わす」
玉座に座る私の声は少しだけ重く響いた。目の前で膝をつき、顔を伏せる男――マグナス=リオンハーツは、声を絞り出すように答える。
「ありがとうございます!」
その瞳には、誇りと緊張が入り混じった光が宿っていた。
ふと、私は思いついた。
――スキル《次元収納》。
背後で空間が裂け、黒く深い空間が現れる。このスキルは城の宝物庫と繋がっていた。
冷たい風が巻き込み、無数の歴戦の武具が眠る闇の奥から、私は目的の剣を引き抜いた。
巨大な剣――炎帝剣《インビジブル=クリムゾン》。
真紅に揺れる刃が、まるで心臓のように脈打ち、私の手元で力強く光を放つ。
「これは、私が冒険者時代、共に戦った相棒だ」
私は剣を掲げ、淡い光の反射をマグナスの瞳に映す。
「この度の功績を称え、其方に託したい。冒険者として、必ず力になると思う」
その瞬間、マグナスの瞳が大きく見開かれ、口を開くも言葉が追いつかない。
その表情は私には"喜び"に映っていた。
「王様……!」
だが、マグナスは凛として答える。
「お気持ちは嬉しいです……確かに、私の魔力ならその剣を扱えると思います。ただ、私は――――」
ーー
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結局、あの男――マグナス=リオンハーツが炎帝剣を受け取ることはなかった。
彼は勇者と共に魔王を討ち、魔王軍の残党討伐の中で勇者一行から離れたと聞く。その後静かな村で、息子と共に暮らし、冒険者として命を落とした――そんな話を耳にした。
宝物庫の静寂の中で昔の記憶を思い返した私は、かすかな感傷に浸っていた。
――その時だった。
「王!ここにおられましたか!」
慌ただしい足音と共に、私の侍従が駆け込んできた。焦った様子で、息を切らしながらも、必死に言葉を紡ぐ。
私はゆっくりと顔を上げ、彼を見据える。
何があったのか――
胸が少し早鐘を打つ。侍従は息を整え、震える声で告げた。
「実は……マグナス様のご子息が……」
――マグナスの子が?
私の胸に、瞬間的な鼓動が走った。
それは運命の導きなのか――
「王城へ運び込まれたみたいです!」
驚きと喜びが、胸の奥で複雑に絡み合った。
赤く揺れる炎帝剣が、胸の奥で熱を帯びたかのように輝く。まるで、長い時を経て“本来の持ち主”に出会う瞬間を、剣自身が待ち望んでいるかのようだ。
私はゆっくりと立ち上がり、剣を見つめる。
そして、重厚な宝物庫の扉を開くと、光が差し込み、開いた窓から微かな風が私を包み込むように吹き抜く。
運命の時は、もうすぐ――。
――炎帝剣は、マグナスの子に託そう。
胸に決意を抱き、私は足取りを確かにして、宝物庫を後にした。
そして、私はついに――彼の息子と対面した。
初めて目にしたその顔は、どこかマグナスに似ていた。鋭くも温かい瞳、真っ直ぐに伸びる背筋、ほんの少しの照れや無垢さ――その全てが、あの日のマグナスの出会いの記憶を鮮やかに呼び起こす。
胸の奥で、懐かしさと期待が入り混じる。
あの男の血を継ぐ者――この少年は、きっと強く、そして正義を貫く者になるだろう。
その瞬間、私は決めた。
この子を、全力で支えようと――。
この国の王として、そしてかつての友として、できる限りの力を注ぐ覚悟を心に刻んだ。
そして、少年――グレイノース=リオンハーツは、父と同じように、自らの意志で旅立った。
父の死の真相を知る為の長い旅路。
私はこの王都で宝物庫の炎帝剣を思い浮かべながら、少年の無事と成長を心から祈った。
今日もこの国のために、王としての務めを全うしつつ、胸の奥では、赤く煌めく剣と共に少年の未来をそっと見守っている――。
ご好読ありがとうございます!
本編は、本日24日、20時に投稿します!
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