第13話 最強と呼ばれる騎士との試合
※一部、加護の名前を変更しました。
◯◯強化→◯◯増化
理由としては、補助的な加護なら増化でいいかなと。
それと◯◯強化は後にスキル名で使えるかなと思ったからです。よろしくお願いします!
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ーーなんで、こうなった.....。
“最強”と呼ばれる男、ライエル=アウルオンの一撃が、まるで岩の塊みたいな重さで俺の木剣にのしかかる。歯を食いしばって押し返し、そのまま首元めがけて真っすぐ斬り上げた――が、その一撃は、アウルオンの木剣によって涼しい顔で受け止められた。
その表情。余裕たっぷりのあの顔。
……ちょっとだけ殴りたい。
思わず父との稽古を思い出す。でも、一つだけ明確に違うところがあった。アウルオンは余裕の顔をしていても――全力で俺を倒しにきている。
背筋が粟立つこの緊張感。家の庭でやってた親子稽古とは訳が違う。
「うおおおおっ!」
自分を奮い立たせるように叫び、渾身の一撃を何度も叩き込む。
だがアウルオンは、その全てを軽やかに弾き、流し、いなす。そして俺が振り抜いた隙を狙って、容赦ない連撃が飛んでくる。
避け、かわし、受け流し――しきれず、頬に木剣がかすめた。
ピリッと皮が裂ける感覚。
じんじんとした痛みが頬に残る。
その瞬間、周囲から声援が沸き上がる。まるで祭りの余興でも見ているかのように、騎士たちが大盛り上がりしていた。
俺はあの時したアウルオンとの約束を心底、後悔していた。
ーーー
ーーーーー遡る事、二時間ほど前。
まだ朝の空気が冷たく、王宮全体が静けさに包まれていた頃。俺は目を覚ました瞬間、最初の一歩を間違えた。
——トイレに行きたい。
ただそれだけのはずだった。なのに、王宮の廊下へ踏み出した途端、俺は理解した。
……無理だろこれ
見渡す限りに続く大理石の廊下。同じような柱、同じような絵、同じようなつくりの扉が永遠に続いている。歩けど歩けど景色が変わらない。
いや、正確には変わってるのかもしれないが、俺の脳が追いつかない。それに、迷えば迷うほど、俺の“危機感”は増していく。
「ここ……どこ……?」
情けなく段々と声が震え、とうとう膝に手をつき、天を仰ぐ。
俺は…ただ.....
トイレに行きたい...だけなのに…
その時だった。
「こんなところで、何をしているんだい?」
背後から聞こえた低く落ち着いた声。俺は、ゆっくり、本当にゆっくり振り返る。
そこには、朝日を背にしたアウルオンが立っていた。金髪がほんのり光を受けてキラキラしている。この状況じゃなければ、ちょっとカッコいいと思ってた。だが、今の俺の感情はただひとつ。
「ア、アウルオンさん……!!」
思わず縋るように駆け寄る。
アウルオンは、一瞬だけ目を見開いた。
「トイレ....どこですか....」
アウルオンは少しだけクスッと笑うとゆっくり歩き出した。
「……ついてきなよ。案内するよ」
救世主……!!
その後、無事に用を済ませ、何とか人間としての尊厳を守りきったーーそして今、俺は朝の光が差し込む広い廊下を、アウルオンと並んで歩いていた。
アウルオンは、俺の必死な顔を思い出して、つい笑みを零した。
「ははっ!いやぁー、あそこまで顔が真っ青になった人、初めて見たよ。しかも、トイレで……」
まだ頬に残る恥ずかしさに、思わず顔をしかめる。だが、どうしても聞きたいことがある。
意を決して、アウルオンの横顔を見つめる。普通に歩いているだけなのに、さっきの救世主オーラがチラつくのが、なんだか悔しい。
「アウルオンさん、聞きたいことがあるんですけど……」
朝の柔らかい光が、二人の間を静かに包み込む中で、そっと口を開いた。
「そうだなぁ〜……」
いたずらを企む子どものような笑みが浮かぶ。
「試合で僕に勝てたら、教えてあげてもいいかな〜?」
楽しそうな声音。挑発と余裕をたっぷり混ぜたような、いかにも“最強の騎士”らしい笑顔だった。アウルオンの視線がすっと廊下の外へ向く。
その先――王宮中央の広場では、数十名の騎士たちが剣を振るい、訓練の掛け声が響いていた。その光景を見た瞬間、胸の奥の何かが反応した。
昔、父と稽古した日の記憶が静かに疼き出す。
……正直、自分の今の実力がどれほどなのか、気になっていた。
俺は深呼吸し、アウルオンに向き直る。
「……いいですよ。手合わせしましょう!」
アウルオンは満足げに微笑むと、俺を広場へと導いた。広場に足を踏み入れた瞬間、騎士たちの動きが止まる。
ざわり、と視線の波が走る。
「……誰だ?」
「見ろ、アウルオン様と並んでるぞ……」
囁きが、風に流されるように広がっていく。広場中央に立つと、アウルオンは無言で木剣を一本差し出してきた。俺が木剣を受け取り、構えを取る。
アウルオンもまた、自然な動作で木剣を持ち上げ――その場の空気が、一瞬で変わった。まるで風が止まったような静寂。騎士たちの視線が一点に集まり、広場の温度さえ変わった気がした。
これから始まるのは単なる稽古ではなく“試合”だ。
アウルオンの口元に僅かな笑みが浮かんだ。
「ルールは、単純だ、1本取った方が勝ち、胴でも、顔でも腕でもね」
彼はゆっくりと一人の騎士へ視線を向けた。
「ロナン。悪いが、開始の合図を頼めるか?」
呼ばれた騎士ロナンは、肩をびくりと跳ねさせ、慌てて俺とアウルオンの間へ進み出た。
周囲の騎士たちの視線が、一斉に集まる。
「そ、それでは……僭越ながら──」
ロナンは深く息を吸い、手を天へ向けて引き伸ばす。朝の光を受けたその腕が、わずかに震えているのが分かった。
広場全体が、静かに息を潜めた。稽古をしていた無数の騎士たちも動きを止め、中央の空気だけが張り詰めていく。風の音すら遠のいたような、澄んだ緊張。
やがて、ロナンの腕が鋭く振り下ろされる。
「――初めッ!!」
声が空を裂き、石畳に反響して広がる。
その直後だった。
アウルオンの足が、音もなく地面を蹴った。ただ踏み込んだだけなのに、空気が押し出されたみたいに一気に距離が縮まる。
「っ――!」
速い――
ただ速いだけじゃない。一歩ごとに迷いがなく、研ぎ澄まされた刃のように正確だ。
胸の鼓動が一瞬跳ね上がる。
来る――!
俺は木剣を構え直し、迫り来る気配に全神経を集中させた。アウルオンの一撃が――凄まじい重圧となって俺の木剣にのしかかる。
俺は、歯を食いしばって押し返し、そのまま首元めがけて真っすぐ斬り上げた――が、その一撃は、アウルオンの木剣によって涼しい顔で受け止められた。
自分を奮い立たせるように俺は叫び渾身の一撃を何度も叩き込む。だが彼はその全てを軽やかに弾き、流し、いなす。
そして俺が振り抜いた隙を狙って、容赦ない連撃が飛んでくる。反射的に剣を振り返すが、完全には受け流せない。
アウルオンの木剣が頬をなぞり、薄く皮が切れ
ピリッと皮が裂ける感覚。
じんじんとした痛みが頬に残る。
その瞬間、周囲から歓声が沸き上がる。
「あいつ、いい動きするな!」
「アウルオン様の攻撃を避けてる!?」
周囲のざわめきが耳に届いているはずなのに、不思議とそのすべてが遠くに感じられた。
今まで味わったことのない緊張感。その中心に立つ俺の意識は、極限まで研ぎ澄まされていた。アウルオンと距離を取り、深く息を吸う。
どうすれば、この“最強”を崩せる……?
胸の奥で何かが閃いた。
「……一か八か。これしかない」
腹を決め、足へ力を込める。地面を蹴り、一直線にアウルオンの懐へ飛び込む。
胴を狙い、真横へ木剣を薙いだ。
——当たれ。そう思った瞬間。
俺の剣は綺麗に弾かれ、逆にアウルオンの一撃が、真っ向から俺の視界を覆った。
弾かれた!?
けれど——だからこそ——
今だ——。
俺は空いた左手を、木剣の剣身へ触れるように翳す。ほんの数秒遅れれば、致命傷になる賭け。
それでも、やるしかない。
ーー《転移》
転移する物体をアウルオンが手に持つ木剣に指定。転移先は、決めずに発動。
その瞬間——俺の掌に触れかけていた木剣が、淡い残像を引き、音もなく消えた。
「……っ!」
アウルオンの目が大きく見開かれる。目の前で起きた現象を理解できていない、
――そんな表情。
俺の正面をアウルオンの拳だけが、虚しく空を切りながら通り過ぎた。
勢いを殺しきれず、アウルオンの体勢がわずかに崩れる。踏ん張る暇もなく、そのまま地面に膝をつき——倒れ込んだ。
「……っ」
俺は一歩踏み込み、切っ先を倒れたアウルオンの顔の前でぴたりと止めた。
息が荒い。
全身が震えている。
「俺の……勝ちで……いいですよね……?」
広場が、静まり返る。
誰も声を発せず、ただ状況を理解しようと息を呑む。
そして——
「……すげぇ……!」
「あいつ……アウルオン様に勝った……勝ったぞ!」
爆ぜるような歓声が、一気に広場を包み込んだ。
明日も10時と20時投稿予定です!
固有スキルの謎が明らかに!?
次回「最強と呼ばれる騎士の褒美」
お見逃しなく!!
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