第12話 最強と呼ばれる騎士の苦悩
アウルオンは、俺を落ち着かせるように、テーブルに置かれたティーポットへそっと手を伸ばした。 その所作は静かで丁寧で、まるで荒れた水面に石を投げないよう気を配るかのようだ。湯気の立つ紅茶をカップへ注ぎ、それを俺の前に滑らせるように置く。
「私は、この国で“最強”と呼ばれてはいるが……結果として、一人では一つの村すら守れない。それが、この国の現状というわけだ」
悔しさを飲み込むような声音。強者の背中にある、誰にも見せない影の部分を垣間見るようで、胸がざわついた。
「私は、誰かに何かを教えるのが本当に苦手でね。だが──あのゴブリン・キングを一人で倒した君からなら、私でも学べる気がしたんだ」
そう言ってアウルオンは、ゆるやかに視線を上げた。その瞳は、湖面のように透き通り……心の奥へまっすぐ入り込んでくる。
「だけど……やめたよ。君と話して分かった。
君は“何か”を抱えている……そうだろう?」
刹那、背筋に氷の刃が走り、胸の奥に隠していたものに、指先で触れられたような感覚。アウルオンは、俺の緊張を読み取ったのか、優しい笑みを浮かべた。
「無理に聞き出すつもりはない。君が自分の意思で話してくれる日を、私はただ待とう」
紅茶を口に運ぶ仕草は落ち着き払っていて、
その雰囲気はつかみどころがなく、底が見えない。
──この男が“最強”?
確かに国王も、彼をこの国で最も強い騎士だと称していた。
ならば……どれほどの力を持っているのか。
俺は、興味と恐れが混じった衝動に突き動かされる。
そっと意識を集中し、"真眼"を開く。
ーーー《真眼》
視界が揺らぎ、色のない光が差し込んでくる。
目の前に透明なステータス画面が広がる。
そして──
「っ……!」
浮かび上がったステータスを見た瞬間、胸の奥がつかまれたように息が止まった。
【名前】:ライエル=アウルオン
【体 力】:4650【攻撃力】:3210
【防御力】:2880【俊敏性】:2630
【魔 力】:4220
【スキル】
・剣聖 ー 戦闘時全能力2倍、加護付与、技能付与
・自然回復 ー 受けた傷を回復させる
・全視 ー 相手の全ての動きを見抜く
・女神の守護 ー 受ける攻撃威力半減
・龍神の恩恵 ー スキル習得率上昇
・戦神の教訓 ー 戦えば戦うほど強くなる。
【加護】
・攻撃増化(極) ・剣術(極) ・武術(極)
・防御増化(超) ・槍術(極) ・柔術(極)
・体力増化(超) ・斧術(極) ・全状態異常耐性
・魔力増化(超) ・弓術(極) ・即死耐性
・俊敏増化(極)
【技能】
・天翔剣 ・流槍連影 ・武極の構え
・無双連舞 ・影槍 ・聖劍〈神威〉
・鬼断 ・天翔の矢
・龍砕 ・心眼一撃
数字の並びも、桁も、意味すらも――すべてが常識の枠から外れていた。
俺は思わず目を見開く。
……ば、バケ……モノ……!?
引きつった息が漏れるが、その異常さを告げる俺の反応に、当の“バケモノ"――アウルオンはまるで気づいていない。
ただ、彼が静かに紅茶をすする音だけが、妙に鮮やかに耳に届いていた。
俺はまだ信じられずに、アウルオンのステータス画面をもう一度見返した。ふと、視界の端に違和感が走る。
画面に並んだ“技能”の文字。
……ん?欄が、増えてる……?
眉をひそめたまま、俺は思い切ってアウルオンに聞いてみた。
「バケ……じゃなくて……アウルオンさん。そういえば、“技能”って言葉……知ってます?」
その瞬間、アウルオンの表情が驚きに大きく揺れた。
「さすが、マグナスさんの息子だ……。よく知っているな!」
そう言って、アウルオンは少し嬉しそうに語り始めた。
ーーー技能。それは、鍛錬に鍛錬を重ね、限界のその先へ踏み込んだ者にスキルが与える一撃。
俺は思わず眉をしかめる。
……戦闘スキルのない俺には、縁のない力……か。
俺は小さくため息をついた。
やがて、アウルオンは紅茶を飲み干し、椅子から立ち上がる。
「長居してしまったな。そろそろ騎士たちの稽古時間でね。今日はゆっくり休むといい。困ったことがあれば侍女に頼るんだよ」
柔らかく微笑み、彼は部屋を後にした。扉が静かに閉じた瞬間、俺は大きく息を吐きだす。
「……ようやく、一人になれた。」
国王に、最強騎士アウルオン。
どちらも豪快というか……妙に騒がしい人たちだったが、悪い気はしなかった。
むしろ――どこか、懐かしい。
……村のみんなも、あんなふうに賑やかだったな。
胸の奥が、少し温かくなる。
そんな感傷を抱えながらベッドから起き上がり、部屋の隅に立てかけられた大きな姿見の前へ歩く。
ずっと気になっていたことがあった。
自分の“ステータス”と、真眼"で見た相手。その情報量の差が、あまりにも大きい。
もしかしたら――そう思ってはいたが。
試す価値はある。
俺は鏡越しに自分と目を合わせ、深く息を吸う。
そして、そっと呟いた。
ーーー《真眼》
俺は姿見越しに映る“自分”へと意識を向け、スキルを発動させた。刹那、空気がわずかに揺らぐ。
次の瞬間、鏡面には、俺自身のステータス画面が淡く浮かび上がる。
【名前】:グレイノース=リオンハーツ
【体 力】:260【攻撃力】:330
【防御力】: 20【俊敏性】: 30
【魔 力】:100
【スキル】
・転移 ー 指定した物を移動させる。
・超回復 ー 任意で全ての治す。
【固有スキル】
・真眼 Lv2 ー ■■■■■えら■た■■の■■
【加護】
・攻撃増化 Lv3
・体力増化
・俊敏増化
【技能】
・なし
……やっぱりだ。
真眼で見るほうが、圧倒的に情報量が多い。
「これが……ステータスと真眼の差」
けれど、その“真眼”の詳細は、なぜか伏字のまま読めない。それに、スキルや加護の横にある“レベル”という表示。
「確か……ゴブリン・キングからは"攻撃力強化"と"体力強化"、ゴブリン三匹からは"攻撃強化"が二つと、"身体強化"……だったよな……」
……レベル。
そんな概念、今まで聞いたこともない。同じ加護を複数得ると統合されてレベルになる……ってことなのか……
"技能"が見えるようになったのも"真眼"のレベルが上がったからかなのか……
それに“ユニークスキル”。
聞いたことすらない単語だ。
「……わっかんねぇ〜〜〜!」
思わず頭を抱え、その場にへたり込みそうになる。
"真眼"が伏字になる理由も、レベルの意味も、そもそも俺が何をどう扱えているのかさえ曖昧だ。考えれば考えるほど、疑問だけが雪崩のように積み上がっていく。
だが……。
……もう疲れた。考えるのやめよ……。
俺はその場ですべてを放り投げるように思考を切る。
もう無理、、、、
脳みそがストライキを始めた。
明日になったら、アウルオンに聞けばいい。
あの男なら、他にも何か知っているかもしれない。
俺は深く息を吐き、静かに心の中で決意した。
――だが、次の日、俺の決意が後悔になることを、この時の俺はまだ知らない。
本日20時にも投稿いたします!
次回は、グレイノースとアウルオンが対決!?
「最強と呼ばれる騎士との試合」お見逃しなく!
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