第11話 最強と呼ばれる王都の騎士
俺に向けられた国王の瞳は、眩しいほどに輝いていた。期待……というよりも、好奇心そのものを体現したような目。
俺は思わず俯き、悩み考える――どう誤魔化せば.....。 言葉にするのも躊躇う俺をよそに、アウルオンが楽しそうに口を開く。
「確かに、それは私も興味ありますね〜」
国王は目を細め、少し驚いたように口を開く。
「この国、最強の騎士が何を言う!お主なら一撃で倒せるであろう!」
アウルオンは爽やかに微笑みながら答えた。
「いえいえ、国王。いくら私でも、彼くらいの歳の時は一人で倒すなんてできませんでしたよ」
――そんなやり取りをしていると
扉が勢いよく開き、一人の男が駆け込んできた。
焦った声で男は叫ぶ。
「ここにおられましたか!間も無く会議の時間です!早く王座の間へお越しください!」
国王は、まるで駄々をこねる子供のように肩をすくめて言う。
「えーー、もう少しだけ……ダメ?」
男はキッパリと言い放つ。
「ダメです、皆様、すでにお揃いです!」
国王はしょんぼりと肩を落とし、こちらを振り返った。
「騒がしてすまなかったな……」
国王は少し困った表情でアウルオンに視線を向けた。
「騎士団長であるこの男が強すぎて、騎士たちの訓練の参考にならんのだ」
その言葉からは、深い思いやりと事情の説明が込められていることが伝わってきた。
「お主がゴブリン・キングを一人で倒した話なら、きっと騎士たちの参考になると思ってな。もし気が向いたら、ライエルに話してやってくれ」
言い終えると、国王は軽く肩をすくめ、男に引きずられるように部屋を後にした。
残された俺とアウルオンは、しばし沈黙の中、互いを見つめ合う。
「……はぁ、ようやく落ち着いたな」
――あんたも中々騒がしかったけどな。
そう思ったけれど、口には出さなかった。
アウルオンは椅子にゆったりと腰を下ろし、じっと俺の顔を見据える。
「――‘超回復’か。君、面白いスキルを持ってるよね」
その柔らかな笑顔と穏やかな声に、俺の心臓は思わず弾けるような鼓動をあげた。
――な、なんで……知ってるんだ……?
スキルは、他人には絶対に見れないはず――
俺の‘真眼’と似たスキルを持っているのかもしれない。俺が‘転移’で他人のスキルを奪えることにも、気づいているのかもしれない。
微かな不安が胸をかすめ、不安と驚きで、思わず俺はアウルオンを睨みつける。その表情を見て、アウルオンは肩をすくめ、焦った様子を見せる。
「す、すまん! そう怒るな……確かに、相手のスキルを詮索するのは失礼だったな!」
反省の色を濃くにじませ、彼は必死に弁解する。
「驚かせてすまない……。君のスキルが分かったのは、私のスキル"全視"の力だ」
"スキル全視"は、俺も知っている。
相手の“次の動き”を見抜くスキル――その程度のはずだ。
だが、それだけで......俺のスキルを見破った理由にならない。胸の奥で疑念がさらに濃く沈む。
俺の胸中のざわめきを察したかのように
アウルオンは迷いなく話を続ける。
「私の場合、相手が使うスキルを“ひとつの動き”として捉えている。相手の動きだけでなく、スキルそのものを視認できる、というわけだ」
そんな応用法は聞いたことがない―――あまりにも常識外れだ。
思わず声が漏れる。
「そんな話……聞いたことがないぞ」
アウルオンは、ひそやかに、しかし揺るぎなく答えた。
「ああ。これはごく一部の者だけが知る、独自の領域。私はこれを――"新理の極値"と呼んでいる」
“新理の極値”——聞き覚えのない言葉だ。もしかして、俺の”転移”もその一種なのだろうか。
どこまで見える?
俺のように、ステータス全てが目に見えるという意味なのか——考えれば考えるほど、不安がせり上がってくる。
「スキルも……加護も見えるって……こと……?」
思わずこぼれた俺の問いに、彼は肩を落とすようにして答えた。
「残念ながらスキルだけだ。それも一つだけ。
全てが見えないわけじゃないが……無理に見ると、立っていられないほど頭が痛くなるんだよ。」
少しだけ、安心した。
だが、すぐに別の疑問が浮かぶ。
「……そんな大事なこと、俺なんかに話してよかったの??」
アウルオンは、まるで親しい友に打ち明けるように、柔らかく笑った。
「ああ。君に——君だからこそ、話しておきたかったんだ!」
俺には、その言葉の真意がまったく掴めなかった。
――俺だから話したかった?どういう意味だ。
アウルオンと話せば話すほど、疑問が増えていく。柔らかい笑みの裏にどこか読めない影がある――つかみどころのない男だ。
そう思う中、アウルオンが口を開いた。
「私はね、ゴブリン襲撃の少し前から村にいたんだよ。君を王国騎士団に迎えるためにね」
その一言は、不意を突くように俺の胸へ飛び込んできた。
「君のことは噂で聞いていた。誰よりも努力する心の強い少年がいるって。」
アウルオンはどこか羨望を含んだ眼差しで話し続ける。
「何日か滞在して思ったよ。村のみんな……君のことを、本当に大切に思ってるんだなって。それに、君に助けられたって感謝している人ばかりだった」
その言葉が胸の奥に静かに届いてくる。
アウルオンは窓の方へ目を向け、少し寂しげに微笑んだ。
「ゴブリン襲撃の備えも兼ねて村の状況を見るつもりだったんだが……君の話を聞くたびに、私はますます君に会いたくなったんだ.....。できれば、もっと穏やかな形で会いたがったがな」
窓から差し込む日の光がアウルオンを照らし、黄金の鎧を思わせるように眩しく輝く。そして、彼はふと思い出したように言葉を添えた。
「それと、君が助けた男性。彼が“ありがとう”と伝えてくれと言っていたよ。少年を助けてくれって、避難所になっていた村の冒険者協会に駆け込んできたんだ」
男性……覚えている。あの時、ゴブリンの群れから救い出した、あの男性だ。
胸の奥がじんわり温かくなる。
助けた相手が、俺に感謝の気持ちを抱いていた。その事実が、静かに、でも確かに俺の心を満たす。
だが、そんな余韻に浸っていた矢先――アウルオンが勢いよく椅子を弾くように立ち上がり、深々と頭を下げた。
「……すまない。私の初動が遅れたせいで、村を守りきれなかった」
その声には、騎士団長としての責任と悔いが滲んでいた。そして、その言葉が引き金になったように、俺はハッと顔を上げる。
「そ、そうだ!!村!!村のみんなは……どうなったんですか!」
焦りが声にまでにじみ出ていた。アウルオンは驚いたように目を丸くし、すぐに宥めるように片手をそっと掲げた。
「落ち着け。……村は無くなった……が、村の人たちは無事だ。隣の村へ全員が避難できたと報告を受けている」
その言葉を聞いた瞬間――胸の中に張りつめていた不安の糸が、ぷつりと切れた。
──よかった。
膝から力が抜けるほどの安心が、津波のように全身を駆け抜けた。
読んで頂きありがとうございます!
明日は、グレイノースとライエルのステータスが明らかになります!
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