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第1話 剣聖と呼ばれる村の英雄

まず初めに、

初めて作品を書くにあたって矛盾やご都合展開が生じるかもしれません。ご理解ください。


この作品を書くにあたって、たくさんの作品を目にしてきました。

もしかすると既視感などを覚えるかもしれませんが、最後までお付き合いいただければと思います!


それでもご覧ください!





 窓から差し込む朝の光が、まぶた越しにやわらかく頬を照らした。(まぶ)しさに導かれるように、僕はゆっくりと目を開ける。


――――シュッ、シュッ。


 風を切り裂く音が、静かな朝の空気を震わせていた。


 それはもう聞き慣れた音。

 

 毎朝のように耳にするその響きは、不思議と僕の心を落ち着かせてくれる。

 寝間着のまま、慌てて戸口(とぐち)を開け放つ。ひんやりとした朝の空気が肌を()で、吐息が白く浮かんだ。

 その先に立っていたのは、ひとりの男。

 静かな呼吸とともに剣を振り下ろしている。

 振るたびに空気が鳴り、陽光が刃先(はさき)に反射して(きら)めいた。


――ひと振り。そして、もうひと振り。


 流れるようなその動きに、無駄は一つもない。

 その背中を見つめるたび、胸の奥が熱くなる。

 僕はその姿に、ずっと憧れていた。

 足音を忍ばせながら、僕はゆっくりとその男の背後へと近づいていった――。


「――おとうさん!」


 僕の声に気づいた父は、動きを止めた。

 ひと息つくと、ゆっくりと剣を下ろし、静かに(さや)へと収める。朝の光が刃に最後のきらめきを残し、やがて音もなく消えた。父は振り向き、(おだ)やかな笑みを浮かべながら僕の頭に手を置く。


「おはよう。顔を洗って朝食を済ませたら……稽古をするか!」


 その声は、まるで朝の空気そのものを震わせるように力強かった。

 僕は満面の笑みでうなずくと、勢いよく家へ駆け戻った。


 胸の奥が高鳴る。

 

 僕にとって稽古は、日課であり――何よりの楽しみだ。この村を守る“剣聖(けんせい)”と呼ばれる父のように、いつか自分も、人々を守れる剣士になりたい。

 

 その夢を叶えるために、僕は今日も剣を握る。

 

 父は腰の後ろに立てかけていた木剣(ぼっけん)を手に取り、もう一本を僕に差し出した。僕はそれを両手で受け取り、胸の前でしっかりと構える。

 向かい合った父は、(おだ)やかな目で僕を見つめ、ゆっくりと構えを取った。その姿勢には一切の隙がなく、それでいて不思議と温かみがあった。

 僕は息を吸い込み、思いきり踏み込む。木剣(ぼっけん)が風を切り、父の肩先を狙って振り下ろした。


 しかし――カン、と乾いた音が響く。


 父はその一撃を軽くいなし、まるで風の流れに身を任せるように受け流した。

 僕は歯を食いしばり、もう一度、もう一度と打ち込む。けれど父は爽やかな笑顔のまま、軽やかに受け止め、時には軽く打ち返す。その笑顔には、どこか楽しげな余裕があった。そして――どこか(ほこ)らしげでもあった。

 朝露(あさつゆ)に濡れた庭で、木剣(ぼっけん)木剣(ぼっけん)が何度もぶつかり合うたび、()んだ音が空へ溶けていく。やがて再び、風を裂く音が響いた。その音は、父と僕を結ぶ朝の合図のようだった。


 ――どれほど打ち込んだだろうか。


 木剣を握る手からは、もう力が抜け落ちていた。指先はしびれ、足腰は悲鳴を上げている。呼吸は荒く、胸の奥で鼓動が耳鳴りのように響いた。それでも僕は、まだ父の木剣に向かって踏み込もうとした。ほんの少しでも、あの背中に近づきたかった。そんな僕の様子に気づいたのか、父がゆっくりと口を開いた。


「――今日は、ここまでだ」


 父の声は静かだったが、庭中(にわじゅう)に凛とした響きを残した。


「まだ、できるよ」


 僕の胸はもどかしさと悔しさでいっぱいだった。稽古をやめるなんて、とても考えられなかった。だが父は、まるで風のように(おだ)やかに、(さと)すように言った。


「過剰な稽古は、体を痛める」


 悔しかった。

 

 父のような剣聖になりたい。その一心で挑み続けているのに、まだ一本も父に勝てず、成長の手応えすら感じられない。僕の胸には焦りが小さく渦巻いていた。(うつむ)きかけた僕に、父は静かに口を開く。


「だがな……」


 しばしの沈黙が、朝の庭を包む。

 やがて父の声が再び響いた。


「グレイ、お前は強くなる。いや、もう強くなっている。数年後には、俺を超える戦士になるはずだ」


 父の手が、僕の頭を(おお)う。剣ダコでゴツゴツしたその手は、確かに硬く、しかしどこか温かかった。抱えていた不安や焦りは、一瞬にして消え去る。

 その瞬間、僕は理解した。父が剣を振る理由も、教えの意味も、すべては僕を信じてのことだということを。

 切り株に腰を下ろした父の背中を、僕はじっと見つめながら(たず)ねた。


「ねぇ……いつになったら僕も、おとうさんみたいなスキルが使えるようになるの?」


 父は少しだけ目を細めて、(おだ)やかに笑った。


 ―――スキル。


 この世界で生きる者すべてに神が与えた特別な力。


 10歳の成人の日――教会で行われる聖神(せいじん)の儀によって、人はひとつのスキルと、自身のステータスと加護を授かる。

 

 スキルは千差万別。

 与えられる力は個人によって異なる。

 剣系統のスキルを与えられた者は勇猛な剣士となり、魔法系統のスキルを授かった者は堅実(けんじつ)な魔法使いとしての道が定まる。

 言ってみれば、スキルこそが、この世界での人生の行方を決める鍵なのだ。

 そして成長の中で、スキルは進化する。戦いの中で力を磨けば、最初のスキルからさらに派生した新たな能力が目覚めることもある。

 "ステータス"とは、自らの持つ力を可視化するもの。同時に加護も与えられる。加護は自身のステータスに作用し身体能力を引き上げる。スキルを取得し、体を鍛えれば、その数値も徐々に上がり、剣士としての力や魔法使いとしての素養(そよう)が目に見える形で増していく。


 僕はその話を思い浮かべながら、目の前の父の背中に視線を戻す。父の剣の腕も、彼のスキルも、そしてその生き方も、すべてが僕の目標だ。僕もいつか、あの背中に並べるようになりたい。


「……グレイ……今、確か八歳だよな?」


 父の問いに、僕は不貞腐(ふてくさ)れたように答え返した。


「もう九歳になったよ!」


 慌てた父は、誤魔化すように笑う。だがその表情は少し嬉しそうにも見えた


「そうか!そうか!来年、聖神の儀が行われる。その時、グレイ――お前も神様からスキルを授かる。儀式が終われば、お前も一人前の男だ」


 父の言葉に、僕の目は自然と輝きを増した。まだ見ぬ未来を夢見て、胸の奥が高鳴る。父のような戦士になり、村を守る冒険者になること。長年抱いてきた僕の夢だ。


「僕も……おとうさんの“剣聖”みたいなスキル、もらえるかな?」


 父の二つ名でもあるそのスキル――剣聖。


 剣聖を(さず)かった者は英雄の道を歩むことを宿命づけられ、使用者の全ステータスは五倍に引き上げられる。ほとんどすべての武器を扱いこなし、武器にまつわる技能を自在に操れるという。

 しかし、それを使いこなすには並々ならぬ努力が必要とされる。

 父はかつて、魔王討伐の勇者パーティーに名を(つら)ねた戦士だった。しかし今は、さまざまな事情でパーティーを離れ、この村の冒険者として日々を送っている。だからこそ、この村では親しみを込めて――“村の剣聖”と呼ばれているのだ。

 僕は父の背中を見つめながら、未来の自分を思い描く。あの背中のように、剣と共に生きる強き戦士になれる日を僕は目指している。

 父は僕の問いかけに、どこか重苦しい沈黙をはさみ、ゆっくりと口を開いた。


「グレイ……」


 その声色は、普段の(おだ)やかな父のそれとは違った。(かす)かに揺れ、硬く、どこか遠くを見ているような響き。九歳の僕には、まだ理解できない。それでも、胸の奥に不安と期待が入り混じった感覚が走った。


「スキルは、全てじゃない」


 父の言葉は、まるで剣の(やいば)のように鋭くもあり、同時に柔らかな温もりも帯びていた。僕の心に、父としての慈愛(じあい)と、剣聖としての覚悟が混ざって響く。


「スキルはあくまで道具に過ぎない。どんなに強力な力も、使う者次第だ」


 父は僕の目を見つめ、静かに、しかし力強く続ける。


「そして、今している努力はお前を裏切らない」


 その言葉の重さに、僕は思わず小さく息をのむ。まだ子どもな僕には完全には理解できない。でも、なぜか背筋が伸びるような感覚があった。


「それに……」


 父が言葉を続けようとした瞬間、遠くから大きな声が響いた。


「おーい!」


 風に乗って木々(きぎ)を揺らす声に、父は顔を上げ、手を振る。目の前まで駆け寄ってきた男は、荒い息を整えながら父の肩を掴む。


「マグナス!王都から客人が来ている!急ぎだ!」


 父は一瞬目を見開き、そして力強く手を振り解く。


「落ち着け、トリストン。王都の人間が俺に何の用だ?」


 その男の名はトリストン=ハウス。この村の村長であり、父が最も信頼する人物の一人。幼い僕が彼に会ったのは一度だけだが、父がトリストンと笑いながら話す姿が、鮮明(せんめい)に記憶の片隅(かたすみ)に残っている。


「理由はわからない。でも、急ぎだ」


 父は少し(まゆ)をひそめ、面倒くさそうに頭をかく。その背中には、何か覚悟めいたものが漂う。


「わかった、すぐ準備する」


 家に戻る父の背中を見送りながら、僕は胸の奥でざわつくものを感じる。これまでの日常とは、少し違う気配。

 父は村長と共に村の方向へ歩き出す。()(ぎわ)、ふと立ち止まり、ゆっくりと僕の頭に手を置いた。


「すぐ戻るから、いい子にして待ってろ」


 その声は、優しくもあるけれど、どこか遠く、届きにくい。僕は小さくうなずくしかなかった。けれど、胸の奥では、確かに何か大きな変化が訪れようとしているのを感じていた。


初めまして、初投稿です。

個人的に父と子の絆。そんな物語が好きで書き始めました。主人公の葛藤、父への想い。それを感じてもらならばと思います。


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