第五章 若き理想家 ― 共に生きる国 ―
翌朝。
リビングのスマートディスプレイが点滅していた。
顔認証を通すと、母からのメッセージが表示される。
【お父さんと一緒の出張が延びました。
アメリカとの調整が長引いていて、もう少し帰れそうにありません。
家のこと、よろしくね。ちゃんと食べてる? 母より】
紗菜は思わず苦笑した。
「……ちゃんと、食べてるけどさ……」
今回の出張は、防衛省と合同で行われている米国代表団との協議。
ニュースでは“日米関係の再調整”という言葉が繰り返されていた。
「……やっぱり、簡単には終わらないよね」
母の映像が一瞬映り、すぐに通信が切れる。
その残像を見つめながら、紗菜は小さく息を吐いた。
カーテンを開けると、朝の光が差し込む。
庭の奥の離れでは、桐生遼がまだ眠っている。
あれから数日、ようやく歩けるようになったが、記憶は断片的なままだ。
ニュースの字幕が目に入る。
《静岡山中の旧軍機残骸 調査続く》
――彼の存在が、もし公になったら。
すべてが壊れてしまうかもしれない。
紗菜はスマホを胸に当て、心の中で祈った。
「……お願い。もう少しだけ、この時間をください。」
そのとき、画面に別の速報が流れた。
《共生党党首・天野蓮氏、記者会見で日米関係に言及》
映像には、若い政治家が街頭で語る姿。
真っ直ぐな眼差しで群衆を見据え、
静かな声で、しかしはっきりとこう言った。
「国と国がぶつかるよりも、
人と人が“どう共に生きるか”を選ぶ時代にしませんか。」
拍手が湧き上がる。
紗菜はその映像を見つめながら、
なぜか胸の奥で、遼の声が重なって聞こえた。
――未来を信じた人なんです。
窓の外、青すぎる空。
その向こうで、また新しい時代が動き出していた。




