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第一章 空に祈る日

1945年7月29日。午前四時。

 鹿屋航空基地はまだ薄暗く、湿った風が滑走路をなでていた。

 格納庫の中では、整備兵たちが最後の点検をしている。

 零戦二一型――桐生遼の搭乗機。

 翼には白い布で書かれた文字があった。

 「君のために。」


 「おはようございます!」

 遼は帽子を取り、教官の佐久間大尉に敬礼した。

 「桐生。よく眠れたか。」

 「はい。……星が綺麗で、つい見とれてしまいました。」

 大尉はわずかに目を細めた。

 「星は、夜しか見えん。だが夜があるから、朝もある。お前たちが飛ぶ空の向こうに、きっと朝は来る。」


 渡瀬司が笑いながら肩を叩いた。

 「大尉、いいこと言うじゃないですか。俺たちの朝飯も特別っすか?」

 「馬鹿者、食う暇も惜しんで機体を見てこい。」

 笑いが起こった。だが、その笑いはどこか切なかった。


 ――離陸予定時刻、午前七時。


 遼は格納庫の陰で、ふと母の写真を取り出した。

 穏やかな笑顔。

 「行ってきます」と小さく呟くと、ポケットにしまう。


 そのとき、朝日が地平を染め始めた。

 オレンジ色の光が滑走路を照らし、零戦の銀色の機体を輝かせる。

 整備兵がサムアップを見せ、司が笑顔で手を振った。


 「行こうぜ、遼。俺たちの空へ!」


 轟音。

 零戦のエンジンが咆哮し、風が草を倒す。

 遼はスロットルを握り、前を見据えた。


 その瞬間――。


 視界が、白く染まった。

 風も、音も、何もかもが遠のいていく。

 ただ、光だけが、世界を包んだ。


 「……これが、空の果てなのか。」


 次に彼が見たのは、雲海の上に広がる青すぎる空だった。

 燃える太陽。

 だが、雲の下に広がる光景は、見たこともないほど巨大な街。


 遼は息を呑んだ。

 「……東京? ……いや、違う。こんな……こんな高い建物が……!」


 零戦は、未知の世界を滑空していた。

 コックピットの計器は狂い、燃料も尽きかけている。

 その先に広がる山影へと、機体は傾いていった。


 ――そして、運命の歯車が、再び動き出す。

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