3、二人の王子様の苦悩
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
「ローズ」
「はい、ルト様、お呼びでしょうか?」
「えっ、呼んだの僕じゃないよ?」
「あっ、申し訳ございません」
また間違えました。
ルト様とリト様の声はそっくりです。
顔も体格も、髪型もそっくりで見分けるのに苦労します。
ルト様とリト様のお部屋は一つの扉で仕切られています。
夜は、この扉の鍵を必ずしなくてはなりません。
双子の王子が行き来しないようにします。
「リト様、どうしましたか?」
私はルト様の部屋からその真ん中の扉を通り、リト様の部屋へ入ります。
「ローズ、これがどうすればいいのか分からないんだけど?」
リト様はベルトの付け方が分からないようです。
リト様は、午後から王様と一緒に街へ出かけるので正装をしています。
「リト様、ベルトは両端を後ろへ持っていき、交差させて前へ持ってきて、紋章で止めるんですよ」
私はリト様のベルトを素早くつけます。
これは慣れています。
大人の男性にもしてあげていたので。
両膝をつけて作業をし、分かりましたかと言うようにリト様を見上げます。
リト様は目をそらして『ありがとう』と小さく言いました。
「リトはいいなぁ」
ルト様がリト様が出掛けた後に呟きました。
「どうしてですか?」
「だって僕は王様の公務を、ほとんどしたことないんだ。いっつもリトばかりなんだよ」
第一継承王子であるリト様が王様の公務を継承するのは当たり前です。
第二継承王子であるルト様はリト様のサポート役でしかありません。
「リト様がいない間に何をしますか?」
「ローズ?」
「ルト様がやりたいことをしましょうよ」
「それじゃぁ、ローズのことを教えてよ」
「私のことですか? 面白くないですよ?」
「面白くなくてもいいよ。僕はローズのことを知りたいだけだからね」
ニコニコと笑うルト様を見ると、私の心は温かくなります。
私は簡単に過去の話をします。
ルト様は真剣に、時には頷きながら聞いてくれます。
「ローズ、君は頑張ったんだね」
話終えると、ルト様は私の頭を撫でました。
優しく大きな手は私の涙を誘います。
私の止まらない涙を見てルト様は『頑張ったね』と何度も言ってくれました。
初めて泣いたのかもしれません。
両親が亡くなっても泣かなかった私が、ルト様の前で泣いてしまうなんて、どうしてなのでしょうか?
自分でも分からない感情が溢れてきます。
この気持ちは何なのでしょうか?
「泣くときは僕の前だけで泣いてね。じゃなきゃ拭ってあげられないからね」
ルト様はそう言うと、私の頬を伝った涙を親指で拭います。
私はその手を両手で包みます。
この手が好きです。
なんだか触れたくなったのです。
優しくて大きな手を。
「僕の手が好きなの?」
「はい。温かくて大きくて大好きです」
「そうなんだね」
ルト様は嫌がらずにニコニコしています。
「ローズは、どうして王子の僕達を知らなかったの?」
「私は、生きることに必死で、目の前のことで精一杯でした。だからルト様のお顔なんて知らなかったのです。あの時は本当に申し訳ございません」
「ローズ、もう謝らないで。僕、怒るよ」
「えっ、でも、、、」
「ローズは笑ってよ。僕はローズが笑っていれば嬉しいんだ」
ルト様は綺麗な顔で眩しいほどの笑顔を見せてくれました。
私もつられるように笑ってしまいます。
「ルト、大変だ」
帰ってきたリト様が、真ん中の扉から入ってきてルト様に言います。
「お帰り、リト。何? 何かあったの?」
「明日、隣の国のレイン国から令嬢が来るらしいよ」
「レイン国の令嬢って、世界一美しいと言われる令嬢のこと?」
「そうだよ。王様が言うには、俺達のどちらかと婚約をするために会いに来るみたいだ」
「それなら僕には関係ないね」
「なんでだよ?」
「だって、第一継承王子のリトが良いに決まってるよ。将来が保証されてるからね」
ルト様は、自分が選ばれないことを悔しがることもなく、笑顔で言います。
「それって、ローズを独り占めにするつもりか?」
「うん? 何のことを言っているのかよく分からないよ」
「お前、俺は婚約しても結婚してもローズを傍に置くからな」
「ダメだよ。リトが結婚したらローズは僕のモノだよ」
お二人は私の取り合いをしています。
これは嬉しいことなのでしょうか?
二人に頼りにされていることは確かなんだと思います。
「私は、お二人の王子様のメイドです。喧嘩をなさらないでください」
「でもさ、いつかは僕達、結婚しなきゃいけないんだよね?」
私がお二人の喧嘩を止めようとすると、ルト様は真剣な顔で私を見て言いました。
「そうですね。いつかは、、、」
二人の王子様と過ごしている内に私は、この生活を楽しんでいました。
ずっとこの生活が続くのだと思っていました。
忘れていました。
二人はいずれ、大人になっていく。
時間に追われ、私のことなんか忘れていくのです。
今までの大人達のように。
私を忘れて、私を邪険に扱って、私は次のお金持ちの所へ逃げるのです。
「ローズ、僕は離れないからね」
「ルト様?」
「僕は、誰とも結婚しないよ。何も継承しない僕は結婚なんてしなくても良いんだよ」
ルト様の言葉は本当なのでしょうか?
結婚をしないということは、世間の人達の目にはどう映るのでしょうか?
「リト様?」
リト様が唇を固く噛み締め悔しそうにしています。
「俺は、ルトみたいにローズに結婚しないなんて言えない」
リト様もルト様と同じ想いなんですね。
分かっています。
「リト様。私は分かっていますよ。御自分の立場を守らなければいけないことを。大丈夫です。リト様は私がいなくても必ず立派な王様になれます」
リト様はニッコリと一瞬だけ笑って、顔をそむけました。
耳が真っ赤です。
照れているのでしょう。
「ローズ、僕は?」
「ルト様は、立派なリト様の良き理解者になりますよ」
「ローズはどっちを選ぶの?」
「ルト様も、リト様も私の大事なご主人様です」
私が笑って二人の王子様に向かって言うと、二人は嬉しそうに笑いながら、私を見つめてくれました。
そして、夜になりました。
私は二人の王子様の真ん中のドアに鍵をかけます。
「今日は僕の部屋から出て行くの?」
「はい。そうですよ」
いつもはリト様の部屋から出るのですが、今日はルト様の部屋を片付けてから出たかったので、ルト様の部屋から出ます。
「ねぇローズ」
「はい。どうしました?」
「なんでドアに鍵をかけるのか知ってるの?」
「いいえ」
「知りたくないの?」
「ルト様もリト様も何も言わないので、知る必要はないものかと思っておりますが?」
「そうだよね」
ルト様はそう言うとベッドへ入ってしまいました。
なんだか違和感はありましたが、私は『おやすみなさいませ』と伝えて部屋を出ます。
その日の夜、ルト様の部屋に忘れ物をしたことに気付き、夜中の十二時からは王子様の部屋へ入ってはいけないのですが、少しだけならと、ルト様の部屋へ向かいます。
こんな真夜中に人の話し声が聞こえます。
誰でしょうか?
ルト様の部屋の前にいるようです。
ルト様の部屋から、お香のような物を持ち、人が出てきました。
微かにお香の香りが私の所まで届きました。
甘ったるくて、どこかで匂った記憶があります。
この匂い、私は苦手です。
人がいなくなり、静かにルト様の部屋へ入ります。
「う〜ん」
ルト様が苦しそうにしている声がします。
私は急いで近付きます。
ルト様は苦しそうにしていても、起きてはいないようです。
甘ったるい香りはまだ少しします。
私は急いで部屋の窓を開けます。
ゆっくりと部屋の空気が換気されます。
ルト様を見ると、苦しそうな顔はなくなり可愛いお顔で眠っています。
可愛くて頭を撫でてしまいました。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
楽しくお読みいただけましたら執筆の励みになります。
~次話予告~
ローズはお香の正体を見つけ、ルトを助けると誓います。




